なぜ不祥事が後を絶たないのか?

昨今の上場企業における不祥事が後を経たないのは、なぜでしょうか。
不祥事を起こした会社が特別なのでしょうか。
 
日本社会の特徴として同調圧力が強いことがあげられます。こうした同調圧力などを原因として集団の意思決定が間違うことを集団浅慮と言います。まさに、日本企業はこの集団浅慮の罠に落ち込み、不祥事が絶えないのではないでしょうか。
 
今回は、日本企業の深部に住みつく集団浅慮の病巣とその対処についてご紹介します。

なぜ不祥事を起こすのか?

昨今でも、一流企業が品質不正等の不祥事を起こしています。
こうした不祥事がおこると外部専門家が第三者委員会を設置し、そこで原因を調査し調査結果を公表しています。しかし、その内容がどこも似た様な問題や原因を指摘しています。

■経営陣や上層部の責任
経営陣の指導力や監督機能の不備が原因となり不祥事を引き起こす場合です。また、経営陣や上層部の過度なプレッシャーから従業員が不正行為や不適切な行動を起こすこともあります。

■組織文化の問題
組織内の価値観や行動基準に関する問題が不祥事を引き起こす場合です。コンプライアンスや倫理的な問題に対する意識から、自分たちの行為や行動が不正行為や不適切な行動と分からずに、結果として不祥事を引き起こしている場合もあります。

■外部環境・経営環境の変化
社会的規範や法規制の変更など外部環境・経営環境が変わり、企業が適切に対応できなかったために、不祥事を引き起こす場合です。昨今のテレビドラマ「不適切にもほどがある」を楽しんでいる方々も多いと思いますが、ドラマにあるように時代環境が変わるにつれ、パワハラやセクハラなどに該当する行為や行動も変わります。

■内部統制やガバナンス体制の不備
企業の内部統制やガバナンス体制に問題があり不祥事を引き起こす場合です。経営陣が適切な内部統制やガバナンス体制を確立せず、不正行為やリスクが見逃されたり、適切な対応が行われなかったりするケースです。

■監査の不備
監査体制に問題があり不祥事を引き起こす場合です。内部監査や外部監査が不十分または不適切なことにより、不正行為やリスクが見逃されたり、適切な対応が行われなかったりするケースです。

以上の様に、問題や原因は企業によって強弱はありますが、原因は何が企業にとってのリスクか(リスクの特定)、リスクにどう対応すべきか(リスクへの対処)、どの対応を取ることが企業や社会にとって正しい事か(価値判断)、といったリスクマネジメントができていないことです。
しかし、上場企業ではほとんどの会社がリスクマネジメント体制をとっています。それにも関わらず不祥事が発生するということは、リスクマネジメント体制が絵に描いた餅、則ち機能不全になっているのではないでしょうか。
こうしたリスクマネジメントを機能不全にする要因の一つが「集団浅慮」です。

集団浅慮の罠とは何か?

集団浅慮(しゅうだんせんりょ:集団思考、グループ・シンク)とは、集団で考えることにより、本来と異なる好ましくない結論を出してしまう傾向を言います。集団浅慮は、社会心理学者のアーヴィング・ジャニスによって提唱されました。集団浅慮は、集団が持つ圧力などにより、その集団で考えていることに対しての判断能力が損なわれて引き起こされます。
不祥事が後を絶たないのは、日本企業の中に集団浅慮の傾向が根深くあり、このことがリスクマネジメントなどを機能不全してしまうからだとも言われています。

では、集団浅慮を引き起こす集団にはどのような特徴があるでしょうか。ここでは代表的な集団をご紹介します。

  • 同質性の高い集団
  • 同調圧力が強い集団
  • 特定の人の意見や権力が強い集団
  • 情報が偏った集団
  • 過度のストレスを抱えた集団

同質性の高い集団

集団のメンバーが似た様な経験や価値基準をもっている集団です。同質性が高い集団では、同じような意見や判断になる傾向が多く、異なる価値基準からの見直しをすることができないため、集団浅慮を引き起こします。

【図1】同質性の高い集団

同調圧力が強い集団

個々のメンバーの意見や判断よりも、集団の中での一致を重視している集団です。集団の中での意見の相違に対して、多数派に合わせるように強制する無言の集団的な圧力(同調圧力)がかかります。こうした集団は、集団に対する帰属意識が高い(集団凝集性が高い)傾向があります。上下関係の厳しい職場などもこうした傾向を帯びることが多いようです。

特定の人の意見や権力が強い集団

特定の人の意見や権力が強いため、集団の意思決定や行動が、個々のメンバーの意見に基づかず行われる集団です。トップの決定に従うだけの集団や専門家の意見を鵜呑みにしてしまう集団などです。

情報が偏った集団

外部情報が入らず閉鎖的な状態であったり、情報共有に偏りがあったりするために、一部の情報や意見が優先される(または無視される)傾向の集団です。情報が偏っているため、物事を客観的に判断したり、さまざまな角度から見直したりすることができないため、集団浅慮を引き起こします。

過度のストレスを抱えた集団

過度のストレスに集団がさらされているため、正常な意思決定や行動が何かを見失った集団です。トラブルが発生した場合、それに対処する行動や結論を出すことに集中してしまい、トラブル原因や内容をしっかり検討できないような場合です。

以上のような傾向が見られる集団で集団浅慮が起こりやすくなります。こうした傾向は、JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー:伝統的な日本企業)と言われる会社に多く見られると言われています。

集団浅慮の罠から抜け出すためには

こうした集団浅慮の罠から抜け出すためにはどうすればよいでしょうか。集団浅慮を引き起こす集団の特徴からその対応策をご説明します。

同質性の高い集団

昨今では多様性という言葉は色々な局面で語られますが、同質性の高い集団から抜け出すためには多様性は不可欠です。つまり、さまざまな経験や価値基準から意見を言える人たちが必要だということです。例えば、コーポレートガバナンス改革として、取締役会に一定数の社外取締役を選出することが求められているのは、取締役会の同質性を回避することを期待しているからです。また、人財における多様性が求められるのは、色々な経験やバックグラウンドを持つ人の交流がイノベーションの創出につながると期待されているからです。

【図2】多様性の高い集団

同調圧力が強い集団

同調圧力の強い集団では、異なる意見や空気を読まない意見は嫌われるため、こうした意見を言うことに対し心理的抵抗が生まれます。経営学において調整に関わるコストを取引コストと呼んでいますが、人は一般的に取引コストを回避するように行動すると言われています。同調圧力が強い集団は、この取引コストが高い集団とも言えます。

こうした同調圧力が強い集団では、異なる意見に対する心理的抵抗感をなくすことが必要です。昨今では心理的安全性という言葉もよく聞きますが、これは集団の中で自分の意見や弱みを見せることが安心してできることを意味しています。同調圧力の強い集団の中では、簡単なことではありませんが、各メンバーが心理的安全性の重要性を認識し、誰でも自分の意見や見解を素直に話せる環境を確保していくことが不可欠です。

特定の人の意見や権力が強い集団

リーダーシップには、ビジョン型、コーチ型、関係重視型、民主型、専制型などのさまざまなリーダーシップがあります。

【図3】リーダーシップのタイプ

特定の人の意見や権力が強い集団は、専制型リーダーシップであることが多いですが、昨今の経営環境ではこの専制型リーダーシップが適しているケースはもはや限られているため、リーダーシップそのものを変えていく必要があります。

【図4】専制的リーダーの影響

専制型リーダーシップ以外のリーダーシップは、概ね多様な意見や見方を尊重するリーダーシップと言えます。
また、リーダーシップをリーダーが発揮するという考え方と、各メンバーが発揮するという考え方があります。後者の考え方はシェアド・リーダーシップと呼ばれる考え方であり、それぞれのメンバーが責任をもって考え行動するため、リーダーの意見を鵜呑みにするようなことには当然なりません。

情報が偏った集団

企業の中でも情報を偏在させることにより、権力を行使しようとする方々がいます。自らが持つ情報を武器に会社内での交渉を有利に運ぼうとしたり、特定の情報を知っていることで自らを権威づけようとしたりする方々です。
情報が偏った集団では、情報を集団のメンバーに共有することが不可欠です。逆に、情報共有ができないということは、個々のメンバーを信用していないことであり、そのような集団では心理的な安全性は根付きません。

企業の情報は、特定の情報を除いて、企業内では公知の情報であることを基本として捉えることが重要です。例えば、全ての情報(例:給料なども)がオープンで社長も社員も同様に情報にアクセスできることで、イノベーションを起せる強い組織を作っている企業もあります。

過度のストレスを抱えた集団

集団のストレスには、外的なストレスと内的なストレスがあります。
外的なストレスは、企業を取り巻く外部のステークホルダーとの間に起こります。特に外部ステークホルダーと敵対関係になるとストレスが高まります。しかし、こうしたステークホルダーとの関係には敵対関係ではなく、協調関係にできるものもあります。例えば、サプライヤーが常に狡猾だと考えれば敵対関係になりストレスが高まりますが、顧客である自分たちのことを真摯に考えてくれていると思えば協調的関係になりストレスは低くなります。このように、ステークホルダーとの関係を如何にして協調関係にするかを検討し、外的ストレスの低減を図っていくことが重要です。

内的ストレスの代表的なものは、部門のエゴに基づく部門対立です。そもそも同じ企業中であれば、そうした対立によるストレスは百害あって一利なしですから意味がありません。また、上下関係によるストレスも同様で意味がありません。経営学では企業は取引コストを節約するために機能や活動を内部化(統合)していると言われているため、こうした組織内の対立は内部化した目的に反するからです。
また、内的ストレスの原因は、前述の4つの点(同質性の高い集団、同調圧力が強い集団、特定の人の意見や権力が強い集団、情報が偏った集団)を改善することにより解消できる場合が多々ありますので改善に取り組んでは如何でしょうか。

本質的には組織風土改革が必要

以上のように、集団の特徴に合わせて対応策がありますが、本質的には会社の組織風土を社員一人一人が本音で素直にものが言えるように改革しなければいけません。働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、パーパス経営などは本来組織風土を改革するための施策ですが、表面的・形式的にしか捉えていない企業も多いのも事実です。
組織風土改革は時間がかかりますが、どんな企業でも実施していかなければいけません。
何故なら、組織は時間がたてば同質化して硬直化し、集団浅慮の罠に陥るからです。

今回は、日本企業の深部に住みつく集団浅慮の病巣とその対処についてご紹介しました。
詳細については是非お問い合わせください。

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この記事の執筆者

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