
FP&Aのキホンのキ ~労務費の計算はどうやるの?~
原価はどのような手続きで計算するのか?
企業会計審議会が定めた「原価計算基準」では、製造原価はその実際発生額を、まず費目別に計算し、次いで原価部門別に計算し、最後に製品別に集計します。
【図1】原価計算の手続き
(1)費目別計算
原価の費目別計算とは、一定期間における原価要素を費目別に分類・集計する手続きです。財務会計における費用計算であると同時に、原価計算における第一次の計算段階です。
(2)部門別計算
原価の部門別計算とは、費目別計算において把握された原価要素を、原価部門別に分類・集計する手続きです。費目別計算に次ぐ原価計算における第二次の計算段階です。
(3)製品別計算
原価の製品別計算とは、原価要素を一定の製品単位に集計し、単位製品の製造原価を算定する手続きです。部門別計算に次ぐ原価計算における第三次の計算段階です。
今回は、原価計算の第一次計算段階としての「費目別計算」における労務費計算をご紹介します。
労働力に関わる原価計算(労務費計算)はどのように行うのか?
労働力の計算には何があるのか?
労務費とは、労働力の消費によって生ずる原価をいいます。なお、労務費は特に製造に係わる費用を指し、製造以外も含める場合には人件費といいます。人件費計算も基本的には労務費計算に準じて行います。労働力の関する取引は一般に下記のように帳簿に記録されるので、労務費の計算としては発生額の計算、労務費(消費)の計算があります。
【図2】労務費勘定の流れ
労務費は、おおむね次のように細分します。
1. 賃金(基本給のほか割増賃金を含む)
2. 給料
3. 雑給
4. 従業員賞与手当
5. 退職給与引当金繰入額
6. 福利費(健康保険料負担金等)
こうした労務費は、労務費の種類ごとに下記の計算式で計算するのが一般的です。
労務費 = 作業時間(作業量)× 消費賃率
労務費はどのような単位で管理するのか?
労務費は、労働力の消費によって生ずる原価ですから、労働力の源泉である従業員が管理単位になります。従業員は、企業における組織に所属していますので、組織(部門)も管理単位になります。
また、従業員との雇用契約は、正社員、契約社員、アルバイト、パートなど様々な形態があるため、雇用形態も管理単位になります。
外部との委託契約に基づく費用は、業務委託費等の科目で経費として計上することが一般的ですが、例えば、派遣社員等のように時間契約といった労働力の消費に非常に近く、従業員の労務費との代替性もある場合、管理上は労務費とする場合もあります。
労務費の発生額はどのように計算するのか?
労務費の発生額には何が含まれるのか?
労務費の発生額には、下記が含まれます。
① 労務主費
(労働の対価としての費用:賃金、給与、雑給、加給金、賞与等)
② 労務副費
(労働に付帯して発生する費用:労働の対価ではない手当、退職給与引当金繰入額、法定福利費等)
労務費の発生額はどのように計算するか?
労務費は、労働の対価として一定の計算期間において計算し支払われます。原価計算期間と支払計算期間が一致していれば、支払額=発生額になります。
【図3】原価計算期間と支払計算期間が一致する場合
しかし、原価計算期間と支払計算期間が不一致の場合、原価計算期間における発生額の計算が必要になります。具体的には、ズレのある期間の想定支払額を計算し、実際支払額に加減して、要支払額(発生額)を計算します。なお、基本給と残業手当等の支払計算期間が異なる会社もあるので注意してください。
【図4】原価計算期間と支払計算期間が一致する場合②
また、賞与や退職給与引当金繰入額など毎月計上されないものもあります。こうした労務費は、原価計算期間における発生額を見積って計上します。実務的には毎月見積るのではなく、ある一定期間の発生額を見積り、それを月割して計上することが一般的です。
労務費の作業時間をどのように把握するのか?
労務費の作業時間の把握には、以下の方法があります。
【図5】労務費の作業時間の把握
時間記録法による作業時間把握とは何か?
一般に、直接工等の作業時間は、時間記録法によって計算します。
時間記録法とは、従業員の作業を作業種別ごとにその都度記録していく方法です。実務上は、工数管理システムや生産管理システムなどで、従業員の作業報告書等に基づいて作業完了の都度、記録・計算しています。一般に直接工の時間の内訳は、下記のようになります。
【図6】 従業員の時間の内訳
バックフラッシュ法による作業時間把握とは何か?
バックフラッシュ法は、製品等の完成量から作業時間を逆算で計算します。
例えば、製品一個当り必要な作業時間を予め設定し(通常は部品表や製造工程表に登録しています)、完成数量からこの予定作業時間を使って作業時間を逆算します。バックフラッシュ法では、作業報告等で作業時間を記録せず、逆算された時間をもとに作業時間を記録する方法です。
バックフラッシュ法は、生産管理システムの部品表や製造工程表に基づく計算であり、生産管理システムを導入している企業で実務的に採用されることがありますが、「原価計算基準」にない方法であることには注意してください。
発生額 = 消費額による把握はとは何か?
時間記録法をとっていない直接工や直接工以外の従業員に関わる賃金、給与、賞与等については、発生額を原価計算期間に全て計上します。
労務費の消費賃率はどのように計算するのか?
労務費の消費賃率はどのように計算するのか?
労務費の消費賃率は、下記の計算式で計算します。
【図7】労務費の賃率の計算
賃率の計算に用いる分子の労務費の範囲は、一般に労働の対価として明らかな基本給や加給金を採用することが多いですが、自社の労務費の管理目的や重要性等をかんがみて決定します。
労務費の消費賃率はどのような種類があるのか?
消費賃率には、個々の従業員ごとの個別賃率と、職場や工程などの部門における従業員の賃率を平均化した平均賃率があります。また、消費賃率には、実際賃率と一定期間における予定賃率があります。
【図8】消費賃率の種類
労務費を直接費と間接費にどのように分けるのか?
労務費については、原価の発生が一定単位の製品の生成に関して、直接的に認識される直接労務費と直接的に認識できない間接労務費に分けます。
直接労務費はどのように把握するのか?
製造の途中過程の仕掛品や中間品を含めて、どの製品にどれだけ作業したか、作業時間が記録できているものは直接労務費になります。直接労務費を把握するためには、作業報告書等に作業対象の製品等が記録されている必要があります。通常は、製品等を作るために製造指図書が発行されるため、この製造指図書に対する作業時間を記録し、製品等が特定されることになります。
【図9】直接労務費の把握
また、各製品にその労務費が発生していることが明確な場合は(製造工程表に作業時間が登録されている場合)、実務的には前述のバックフラッシュ法で作業時間を逆算し、直接労務費とすることもあります。
間接労務費はどのように把握するのか?
製造の途中過程の仕掛品や中間品を含めて、どの製品にどれだけ作業したか、作業時間が記録できていないものは間接労務費になります。従業員の時間の内訳でみると、下図のようになります。
【図10】直接労務費と間接労務費
また、時間記録法をとっていない場合や賃率の計算に含めていない労務費は、通常どの製品に使われたかわからないため、間接労務費になります。
まとめ
今回は、FP&Aのキホンのキとして原価計算の第一段階の計算である「費目別計算」のうち労務費計算をご紹介しました。詳細については、是非お問い合わせください。
なお、材料費、経費については別途ご紹介させていただきます。




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この記事の執筆者
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上山 吾郎経営管理事業部
マネージングディレクター -
佐藤 美穂子経営管理事業部
ディレクター -
徳永 大経営管理事業部
シニアマネージャー
職種別ソリューション