1on1の本当の目的は「成長曲線」を見ること
◆この記事の要約
本記事では、人財育成とマネジメントを「成長曲線」という視点から解説します。人の成長はS字曲線を描き、停滞期そのものではなく、その期間を長引かせることが問題です。コンフォートゾーン・ストレッチゾーン・パニックゾーンの考え方をもとに、1on1の本当の目的や、メンバーの成長を促すマネジメントのあり方について考察します。
- 人の成長は直線ではなく、停滞と飛躍を繰り返すS字曲線で進む
- 成長の鍵は、コンフォートゾーンではなくストレッチゾーンで挑戦する環境づくりにある
- 1on1の本当の目的は、「成長曲線の現在地」を見極めること
- 褒めることよりも自己効力感を高める勇気づけと、性弱説に立った環境設計が重要である
今回は「成長曲線」という視点から、人財育成とマネジメントの本質、1on1の本当の目的についてご紹介します。
成長は一直線ではない ~慣れた頃 成長曲線 眠りだす~
「入社して最初の1年は目覚ましい成長を見せていたのに、最近は伸び悩んでいるように見える」
マネージャーであれば、メンバーに対して一度はそんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。同じ仕事を5年経験してもやっていることが毎年同じことであれば1年で経験したことを5回やっているだけです。経験を積めば積むほど成長し、年数に比例して能力が向上すると考えがちですが、実際の人の成長は、そのような単純なものではありません。
多くの場合、人の成長はS字曲線を描きます。新しい仕事に挑戦した直後は、覚えることが多く、日々新しい発見があります。そのため短期間で大きく成長します。しかし、ある程度仕事に慣れてくると、成長速度は一旦落ち着きます。同じ仕事を繰り返すことで成果は安定しますが、学びの量は減り、成長が止まったように見える時期が訪れます。そして、その状態を乗り越えて新しい挑戦や役割を得たときに、再び大きく成長していくのです。
重要なのは、この横ばい期間を失敗や停滞と決めつけないことです。むしろ、新しい知識や経験を自分のものとして定着させるためには必要な期間ともいえます。問題は、その状態に長く居続けてしまうことです。仕事に慣れ、自信もつき、成果も出せるようになると、人は無意識のうちに居心地の良い場所へ留まろうとします。すると成長は緩やかになり、やがて組織全体の活力も失われていきます。
キャロル・ドゥエック教授の「成長マインドセット」の研究でも、人の能力は生まれつき決まっているのではなく、努力や学習、経験によって伸ばせるものだと捉え、その考え方のほうが人は学習意欲が高まることが知られています。つまり重要なのは、今どれだけ成果を出しているかではなく、「次の成長曲線に向かっているか」という視点なのです。
人財育成とは、目の前の成果だけを見ることではありません。その人が今、成長曲線のどこにいるのかを見極め、次の成長ステージへ進むきっかけをつくることです。マネジメントの役割とは、人を評価すること以上に、人の成長を止めない環境をつくることにあります。
【図1】人の成長はS字曲線を描く
成長を止めるコンフォートゾーン ~伸びるのは 少し背伸びの その先で~
3年かけてもあまり成長していない人がいる一方で、わずか1年で大きく成長する人もいます。この違いは能力の差なのでしょうか。実は大きな違いは、その人がどの「環境」に身を置いているかです。
心理学や教育学の分野では、「コンフォートゾーン」「ストレッチゾーン」「パニックゾーン」という考え方があります。コンフォートゾーンは慣れた仕事を安心してこなせる状態です。成果も出しやすく、失敗も少ないため居心地は良いのですが、新しい学びはあまり生まれません。一方、ストレッチゾーンは少し背伸びが必要な状態です。できるかどうか分からない仕事に挑戦し、不安や緊張もあります。人が最も成長するのはこの領域です。一人では難しい領域でもサポートを受けながら達成することで成長していきます。教育学者ヴィゴツキーが提唱した「最近接発達領域:ZPD(一人ではできないが、誰かの助けがあればできる領域)」そのものです。ヴィゴツキーは、人は「すでにできること」を繰り返してもあまり成長しない、少し背伸びをして、誰かの支援を受けながら挑戦するときに最も成長する、と考えました。
逆に難しすぎる課題を与えられるとパニックゾーンに入ります。何をしてよいか分からず、自信を失い、やがて挑戦そのものを避けるようになります。
マネジメントの難しさはここにあります。簡単すぎれば成長しない。難しすぎれば潰れてしまう。その人にとって適切なストレッチを見極めなければなりません。だからこそ、マネージャーは単に業務を割り振る管理者ではなく、成長機会を設計する存在であるべきです。今の仕事は簡単すぎないか、逆に負荷が高すぎないか、その見極めこそが育成の出発点です。
成長曲線が横ばいになる原因の多くは、本人の能力不足ではありません。挑戦が足りないか、挑戦が過剰かのどちらかです。人財育成の本質とは、メンバーを無理に頑張らせることではなく、一人ひとりを最適なストレッチゾーンへ導くことなのです。
【図2】ストレッチゾーン
1on1は雑談の場ではない ~聞くべきは 悩みではなく 現在地~
最近、多くの企業で1on1が導入されています。上司とメンバーが定期的に対話し、信頼関係を築く取り組みとして注目されています。しかし、1on1が形だけになってしまっているケースも少なくないと感じています。
「最近どう?」「困っていることはある?」と雑談をして終わる。確かに関係性づくりは大切です。しかし、それだけでは人は成長しません。1on1の本当の目的は、その人の成長曲線の現在地を見極めることです。
今の仕事は簡単すぎてコンフォートゾーンに入っていないか。逆に難しすぎてパニックゾーンに陥っていないか。そして、少し背伸びをしながら成長できるストレッチゾーンにいるのか。その状態を把握することこそが1on1の価値です。
例えば、「最近楽しいです」という言葉が出たとしても安心はできません。仕事が楽しい理由が成長実感なのか、それとも慣れた仕事を繰り返している安心感なのかによって意味は大きく異なります。また、「最近大変です」という言葉も同じです。成長につながる適度な負荷なのか、それとも潰れてしまうほどの負荷なのかを見極める必要があります。
つまり、1on1で確認すべきなのは気分や感情だけではありません。今の仕事への自信はどうか、やる気はあるか、難易度は適切か、成長実感はあるか、次に挑戦したいことは何か、こうした対話を通じて、その人の成長状態を診断していくことが重要です。
優秀なマネージャーほど、1on1をコミュニケーションの場で終わらせません。メンバーの成長曲線を観察し、次にどのような挑戦機会を与えるべきかを考える場として活用しています。
1on1は仲良くなるための時間ではありません。メンバーの未来を考え、次の成長曲線へ導くための時間なのです。
【図3】1on1で確認すべき5つの視点
褒めるより勇気づける ~自信とは 挑戦のあとに ついてくる~
人財育成について語ると、「とにかく褒めることが大事だ」と言われることがあります。もちろん、相手を認めることは大切です。しかし、育成において本当に重要なのは、褒めることではなく勇気づけることです。
例えば、難しい仕事に挑戦しようとしているメンバーがいるとします。そのときに「君は優秀だね」と褒めることもできます。しかし、それ以上に大切なのは、「大丈夫、やってみよう」「私もサポートするから挑戦してみよう」「責任は俺がとるから好きにやれ」と背中を押すことではないでしょうか。
心理学者アルバート・バンデューラは、人が主体的に行動を起こすためには「自己効力感」、つまり「自分ならできそうだ」という感覚が重要だと述べています。能力があるから挑戦するのではありません。できそうだと思えるから挑戦するのです。
だからこそ、マネージャーはメンバーの状態によって関わり方を変える必要があります。やる気も自信もあり、実力も十分なら思い切って任せればよいでしょう。やる気も実力もあるのに自信がないなら、背中を押してあげることが必要です。やる気はあるが実力が不足しているなら、伴走しながら成長を支援するべきです。自信も実力もない状態で、いきなり挑戦を求めても成果にはつながりません。まずは小さな成功体験を積ませ、自信を育てることが先になります。
育成とは全員に同じ接し方をすることではありません。その人が今どの状態にいるのかを見極め、必要な支援を提供することです。人は期待されたから成長するのではなく、「自分にもできるかもしれない」と思えたときに成長を始めます。マネージャーの役割は評価者である前に、挑戦への勇気を引き出す支援者であるべきなのです。
【図4】やる気と実力のマトリクス
人は強くないという前提 ~強さより 支える土壌 人伸ばす~
人財育成について考えるとき、多くの企業が見落としがちな前提があります。それは、「人は思っているほど強くない」ということです。性善説でも性悪説でもなく、「性弱説」で人を見ることが大切です。人は正しいことをしたいと思っています。しかし、実際には周囲の空気に流され、上司の顔色をうかがい、多数派に同調してしまうことがあります。
心理学者アッシュの同調実験では、明らかに間違った答えであっても、周囲が同じ答えを言うと多くの人がそれに合わせてしまうことが示されました。つまり、人は意志が弱いのではなく、環境の影響を強く受ける存在なのです。
だからこそ、人財育成を本人の努力や根性の問題にしてはいけません。挑戦しない社員を責める前に、その人が挑戦できる環境になっているかを考えるべきです。失敗しても責められないか。助けを求められるか。未経験の仕事に手を挙げられるか。こうした環境がなければ、人は自然とコンフォートゾーンに閉じこもります。成長する組織と成長しない組織の違いは、優秀な人財の有無ではありません。挑戦しやすい環境があるかどうかです。挑戦したこと自体を評価する組織にしていくことで、新しいアイデアや行動が生まれやすくなります。
人財育成を個人の資質や能力の問題として捉える企業は少なくありません。しかし本当に見るべきなのは、その人を取り巻く環境です。人は環境の影響を強く受ける存在です。だからこそマネジメントの本質は、人を変えることではなく、人がより良い行動を選びやすい環境をつくることにあるのだと思います。
【図5】性善説/性悪説/性弱説
まとめ
ここまで述べてきたように、人の成長はS字曲線を描きます。その成長を加速させるには、ストレッチゾーンを見極め、1on1で状態を把握し、勇気づけによって挑戦を後押しすることが必要です。そして、その土台には「人は環境によって大きく変わる存在である」という前提があります。
マネジメントとは人を変えることではありません。人が成長しやすい環境を整えることです。もし自社の人財育成や1on1のあり方に課題を感じているのであれば、一度「成長曲線」という視点から見直してみてはいかがでしょうか。その人が今どの成長曲線のどこにいるのかを見る。そんな視点を持つことが、これからの時代の人財育成に求められているのではないでしょうか。
レイヤーズ・コンサルティングでは、人財育成やマネジメント変革、1on1の再設計、組織風土改革についてご支援できる強み・サービスがあります。お悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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この記事の執筆者
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石井 哲司経営管理事業部
マネージングディレクター
税理士 -
武貞 正浩経営管理事業部
バイスマネージングディレクター -
紫藤 紗友乃経営管理事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション









