インサイドアウト視点の発想では企業は変われない
「自社の強みを活かした戦略」は、一見正しく見えます。しかし、それが顧客にとって本当に価値のあるものかどうかは別の問題です。
本記事では、企業起点の思考がなぜ変革を阻むのか、そして今なぜ「アウトサイドイン」の視点が重要なのかを実例とともに解説します。
読者の皆様が自社の取り組みを見直すヒントになれば幸いです。
インサイドアウトアプローチの限界
企業戦略を立てる際、多くの企業はまず「自社の強みは何か」「既存の技術や資産をどう活用できるか」という発想から出発します。この思考法は「インサイドアウトアプローチ」と呼ばれ、自社の内部資源を起点に戦略を設計する思考法です。
VUCAの時代以前は市場のニーズが画一的であり、顧客が得られる情報も限られていました。そのため、企業が提示する製品やサービス自体の機能や価値がそのまま顧客の価値基準として受け入れられやすく、競争優位に直結する環境でした。このような環境下では自社の強みを活かすインサイドアウト型の経営が合理的でした。
しかし、現在ではこの手法は限界を迎えつつあります。顧客の価値基準の変化や市場の不確実性が増す中で、顧客は単なる機能やスペックよりも「それによって何が実現できるか」という成果を重視する傾向が強まっています。
また、変化の激しい市場環境では自社の論理から出発する戦略は過去の経験や枠組みに依存しやすく、新たな変革を妨げる要因にもなります。その結果、市場の兆しに気づいても行動が遅れ、競争力を失うリスクが高まります。
このような背景から顧客が求める成果を理解せずに自社の論理だけで価値を定義するインサイドアウト型のみの戦略は現在の市場では通用しづらくなってきています。また、急激に変化する環境に対して内部視点から出発した戦略では柔軟に対応することが難しくなります。
こうした状況においては、「顧客が得たい成果は何か」を出発点に戦略を設計する「アウトサイドインアプローチ」が求められます。
【図1】インサイドアウト・アウトによる自社都合のビジネス形態
アウトサイドインアプローチの意義と効果
インサイドアウトアプローチが限界を迎えてきている今、企業が環境変化や顧客ニーズの多様化に対応するには、外部から内部を見直す「アウトサイドインアプローチ」が重要になってきています。これは顧客や市場の変化、そして顧客が得たい「成果」を起点に戦略や提供価値を逆算的に設計する思考法です。ここでいう成果とは、コスト削減や業務効率化、収益性向上といった顧客が対価を払ってでも実現したい目標を指しています。
このアプローチの意義は大きく二点あります。
一点目は、顧客の行動や成果に基づいて価値を再定義できることです。従来のように自社の技術やスペックを軸に戦略を設計するのではなく、「顧客にとって対価を払ってでも達成したい目的は何か」という視点から発想を始めます。これにより顧客の本質的なニーズを捉えた提案やサービスを実現できるようになります。
二点目は、変化への対応力を高められることです。顧客行動や市場構造の変化を捉えながら戦略を柔軟に組み替えていくため、インサイドアウト型にありがちな硬直性を解消することができます。環境変化を自社の設計論理に取り込むことで、スピーディーかつ継続的な価値提供が可能になります。
アウトサイドインアプローチは、単なる顧客の改善要望に応じるだけの受け身の姿勢ではなく、顧客が達成したい成果を出発点に自社の価値を構造的に再設計する思考です。現在のように市場が不確実性を増していく中で企業が柔軟かつ持続的に成長していくためには、このアプローチが不可欠であるといえます。
【図2】アウトサイドインによる顧客起点のビジネス形態
アウトサイドインアプローチの手法
アウトサイドインアプローチの実践において、単に顧客の声や要望を集めるだけでは不十分です。実践していくうえで重要なのは、顧客が何を「成果」として求めているかを明確にし、それを起点に自社の提供価値を再設計していくことです。そのための代表的な手法が「アウトサイドインアプローチの業務改革」です。
アウトサイドインアプローチの業務改革とは、「顧客にとっての価値とは何か」を明確にし、その顧客価値に沿って企業のあるべき姿や変革目標を定める経営手法です。対象は商品・サービスにとどまらず、業務プロセスや組織体制、情報システムといった企業活動全体に及び、顧客価値を軸に全体最適を目指すことが前提となります。
特にアウトサイドインアプローチの業務改革では、顧客との接点(MOT:Moment Of Truth)に着目し、「顧客が価値を感じる体験は何か」を特定します。さらに、その体験要素を可視化・数値化し、顧客が求める水準と現状の提供状態とのギャップを分析します。これにより、自社の強みも「できること」ではなく、「顧客成果への貢献度」という視点で再定義され、効果的な改革施策を立案することができます。
さらに、顧客成果を起点としたこの設計思想は、社内の部門連携にも大きな効果をもたらします。営業・開発・企画・サポートなどが「目指す成果」を共通言語として持つことで、判断基準や優先順位に統一感が生まれ、より迅速な意思決定が可能になります。
【図3】アウトサイドインアプローチの業務改革による自社の強みの再定義
アウトサイドインアプローチの実例
アウトサイドインアプローチは様々な業種において実践されています。ここでは、事例として二つの企業をご紹介します。
・製造業の事例
ある製造業の企業では、元々複合機の処理速度やコスト削減率といった製品のスペックの良さを訴求軸として提案していました。しかし、顧客が求めていたのは「印刷準備の削減」「ミスの減少」といった業務上の成果でした。そこで、同社ではアウトサイドインアプローチの業務改革を活用し、「顧客が価値を感じる瞬間(MOT)とは何か」という観点から顧客の業務フローを分析しました。その結果をもとに提案手法そのものを再設計し、目標達成に直結する業務成果を明示する提案へと変えました。
これにより業務改善効果が顧客に明確に伝わり、価格競争から脱却に加えて、継続契約や提案単価の向上にも繋がりました。
・メディア企業
あるメディア企業では、顧客の「自分に合ったコンテンツをすぐに見つけ快適に視聴したい」という期待に着目し、視聴体験全体の最適化に取り組みました。視聴履歴に基づいた番組レコメンド機能の強化、各種デバイスへの視聴環境の提供、さらには視覚障害者向けの操作性改善など顧客行動を起点としたサービスを提供しています。その結果、視聴時間の増加や継続利用率の向上、顧客満足度の高いサービスの提供を実現しています。
まとめ
顧客の価値観や行動が大きく変化する中で、従来のように自社の強みを起点とした戦略は、環境変化に対応することが難しくなっています。自社の都合で価値を定義する「インサイドアウトアプローチ」は顧客の期待とずれやすく、効果的な戦略を打ち出すのが困難になりつつあります。
不確実性の高い現代において、顧客が求めているのは製品やサービスのスペックではなく、「それを通じて何が実現できるか」といった成果視点の価値です。企業が競争力を維持・強化するには、この顧客起点の「アウトサイドインアプローチ」による戦略設計が欠かせません。
顧客起点の戦略を実現する上では、アウトサイドインアプローチの業務改革のような手法を活用し、「顧客が価値を感じる瞬間」を軸にプロセス・組織・サービスを再構築することが効果的です。顧客起点をもとに再設計を行った企業は、価格やスペックではなく、「顧客の価値」を届けることで持続的な競争優位を確立しています。
今こそ企業は「自社がどうしたいか」ではなく、「顧客が何を達成したいのか」に軸足を移す必要があります。
当社は、こうした変革を根付かせるために顧客の成果視点を起点とした戦略立案・業務設計・仕組み改革を目的としたコンサルティングサービスを提供しています。




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この記事の執筆者
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藤原 七海DX事業部
マネージャー -
齋藤 優弥DX事業部
コンサルタント
職種別ソリューション