強い本社が、日本を強くする
~本社復活の処方箋~

日本企業が、長期に低迷を続けている原因として、高度成長期における多角化した事業がコングロマリット・ディスカウントを起こしていることが挙げられています。
では何故日本企業はコングロマリット・ディスカウントを解消できないのでしょうか。その原因の一つにコーポレート本社の弱さがあります。

今回は、事業価値以上の企業価値を創造し、コングロマリット・プレミアムを生み出すためにコーポレート本社が何をやるべきかをご紹介します。

日本企業は、コングロマリット・ディスカウントに陥っている

事業が生み出す価値が事業価値です。複数の事業を抱えた企業の企業価値が、各事業価値の合計より小さい場合、コングロマリット・ディスカウントと呼ばれます。逆に、大きい場合は、コングロマリット・プレミアムと呼ばれます。

資本市場においては、多角化より専業化が求められることが多く、モノ言う株主がコングロマリット・ディスカウントを解消するために、事業のカーブアウトを主張するのはこのためです。

日本企業の多くは、このコングロマリット・ディスカウントに陥っていると言われています。では何故日本企業は、コングロマリット・ディスカウントに陥っているのでしょうか。本来多角化は、事業間のシナジー効果を期待していますが、日本企業はマイナスのシナジー効果(アナジー効果)が起きているということです。

【図1】コングロマリット・ディスカウントとコングロマリット・プレミアム

「見えない資本」のシナジー効果を創出するのが本社の役割

昨今では、事業における「見えない資本」(インビジブル・キャピタル;非財務資本)の重要性が説かれています。

【図2】「見えない資本」(インビジブル・キャピタル;非財務資本)

事業間のシナジー効果とは、各事業の持つ「見えない資本」がシナジー効果を生み出し、一つ一つの事業が持っている「見えない資本」よりも企業全体の「見えない資本」が大きくなると言うことです。例えば、製品ブランドの価値よりコーポレートブレンドの価値が勝っている状態です。
しかし、日本企業は、この「見えない資本」を重要視しておらず、上手くマネジメント出来ていないため、コングロマリットとしてのシナジー効果を発揮できていないのです。

事業間で「見えない資本」のシナジー効果を生み出すためには何をすればいいでしょうか。
各事業間で「見えない資本」のシナジー効果を生み出すためには、見えない資本を(見えないが故に)グループを貫いてマネジメントする強力な横串機能が、シナジー効果を意識的に生み出す働きかけをしなければいけません。これがコーポレート本社の役割です。換言すれば、コングロマリット・ディスカウントを解消できないのは、コーポレート本社が弱いからです。

日本企業の本社は弱い

コングロマリット・プレミアムを生み出すためには、それぞれの事業が持つ「見えない資本」を本社が統合的にマネジメントすることが重要です。見えない資本には、人的資本、知的資本、社会・関係資本、自然資本、製造資本などがありますから、これらを価値の創造・保全・毀損プロセスの中で、事業横串でマネジメントしていくのが本社の役割といえます。

【図3】価値の創造・保全・毀損プロセス

例えば、コーポレートにおけるマーケティング部門は製品ブランドの価値の合計よりもコーポレートのブランド価値を高める役割があり、財務部門は個々の事業が生み出すキャッシュフローの現在と将来の状況を鑑み、資金を最適な事業へ振り向けることで企業価値を高める役割があるということです。

こうした観点から見ると、日本企業の本社は弱いと言わざるを得ません。
なぜならば、多くの日本企業の本社が親会社の本社としての存在だけであり、コーポレート全体としての価値を高めようという認識が少ないからです。

失われた30年の間、本社部門はコストカットの対象になってきました。経営者からは「我社の本社コストは高いのではないか」と言われ、事業部門からは「本社はコストセンターであり、自分たちの利益を食いつぶしている存在」と言われ、本社は疲弊しているように見受けられます。

こうした本社を改革するためには、本社は何のために存在するのか、本社の存在意義を再度見直すことが必要です。そうした本社の役割を見直す時に、「見えない資本」のシナジーを生み出す役割を本社の役割として明確に打ち出すことが重要です。

本社による「見えない資本」のプレミアム創出

「見えない資本」をどのように生み出せば良いでしょうか。
人的資本で言えば、各事業や各グループ会社に存在する人材情報を一元化し、コーポレートとして最適な人材を最適な事業に配分していくことが必要です。日本企業の場合、グローバルで人財情報が一元化できていないケースが多く見受けられます。

「社会・関係資本」で言えば、顧客基盤の統合も重要なテーマです。1つの会社の各事業担当者が同じお客様の同じ部署に行っているというような笑話もあります。各事業共通でかつグローバルな顧客については、コーポレートがグローバルアカウントとして力強く推進していかなければシナジー効果は発揮できません。
昨今ではサスティナビリティの観点から人権や地域社会に対する対応を迫られています。こうした事は、各国の事業主体に任せるのではなく、コーポレートが推進していかなければいけません。特に人権の問題は、その国の企業にとっては当たり前であったとしても、グローバルで見れば人権問題を起こしている場合があるからです。

「知的資本」で言えば、オープン・クローズ戦略の推進があります。メーカーの最も重要な知的資本は設計情報ですから、設計の共通化を図るのも一つです。日本企業の場合、事業ごとに採用する部品をバラバラで購入したり、設計・製造したりしているケースが多く見受けられます。これをコーポレートとして共通化を推進することによって、設計としてのシナジー効果(QCD向上)を生み出すことができます。

【図4】部品のオープン・クローズ戦略

「見えない資本」の創出部門を明確化する

見えない資本については、最近では価値創造サイクルとして統合報告書等にも記載している企業が多くなってきています。しかし、実際には見えない資本を本社のどの部門が担当しているか明確でなかったり、リソースが不十分であったりするケースが多いのが実状です。

【図5】資本×部門マトリクス

こうした価値創造サイクルを確実に回していく上でも、見えない資本をマネジメントし、プレミアムを生み出す役割がどの本社組織にあるかを明確にすることが重要です。

今回は、事業価値以上の企業価値を創造するためにコーポレート本社が何をやるべきかをご紹介しました。詳細については、是非お問い合わせください。皆様と一緒に日本企業の企業価値向上を実現していきたいと思います。

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