VUCA時代におけるグループガバナンス改革
~真のグループ本社になるために~
こうした不確実性の高い環境における企業変革の第一歩としては、まず「本社」を強い執行体制を支える「グループ本社」として作り変える必要があります。
今回は、強い執行体制を支える攻めのグループ本社改革と守りのガバナンス構築の具体的内容と事例をご紹介いたします。
VUCAの時代に今までの常識は通用しない
VUCAと言われる時代においては、今まで考えたことのない出来事が起きたり、今までの常識が全く通用しない出来事が起きたりしています。こうした経営環境においては、今までのマネジメントの考え方は通用しなくなって来ております。例えば、インセンティブはモチベーションを上げると長年信じられてきましたが、現在ではインセンティブは中長期的にはモチベーションを下げると言われております。
また、意思決定も従来の上意下達型から前線型に変化してきており、組織的には自律型組織によって適応していくべきとも言われております。しかし、今の日本企業の多くは求心力としての「グループ本社」が弱く、このまま遠心力の働く自律型組織に移行すれば、多くの問題が発生することが予想されます。VUCA時代に適応していくためには、先ずは、「グループ本社」を強化するグループガバナンス改革が急務と言えます。
CXOを軸とした強い執行体制の確立
昨今、デジタル・トランスフォーメーション、サステナビリティ・トランスフォーメーションといった言葉に代表されるように企業の変革が求められています。こうしたトランスフォーメーションを素早く進めていくためには、トップマネジメントのトランスフォーメーションへの意思がグループの末端まで届く、「CXOを軸とした強い執行体制」が必要です。
しかし、今回のコロナ禍の不透明な経営環境の中において、素早く舵取りしたくても事業部門・グループ各社をグリップできておらず適切なコントロールができなかったり、混乱が生じたりした企業も多いと聞いております。このように日本企業の本社は、「親会社の本社」の域から脱しておらず、「グループ本社」にトランスフォーム出来ていないのではないでしょうか。
【図1】日本企業における「よくある本社」の課題とは
強い執行体制を支える攻めのグループ本社変革
前述のように不透明な経営環境下ではCEO、CFO、CHRO等のCXOが一体となって変革していく強い執行体制が必要です。そのためには、「本社」を「グループ各社をグリップできる横串機能としてのグループ本社」に変革しなければいけません。具体的には、機能ごとのCXOラインで指揮命令権、レポートライン、人事権等を有したガバナンス体制確立を目指すべきです。
【図2】グループ各社をグリップできる横串機能としてのグループ本社への変革
BP・CoE・OPEの観点からのグループ本社機能の見直し
グループ本社機能としては、経営企画・管理、経理・財務、人事、ITなどの機能毎に、ビジネスアドバイザーとしてのBP(Business Partner)、専門家集団としてのCoE(Center of Excellence)、オペレーションを担うOPE(Operation Excellence )と言った観点から役割を定義します。企業ごとに機能の重要度などが異なりますので、具体的な3つの役割も異なります。
【図3】グループ本社の3つの役割
また、BP・CoE・OPEについては、そこにおける人財像を明らかにすべきです。一般に日本企業では、人事制度がジェネラリスト育成を主眼としているため様々な機能分野にローテーションすることが多く、せっかく機能に特化した人財を育てようとしてもどこかで異動してしまうということがよく見受けられます。しかし、横串機能としてのグループ本社は、専門性の高い人財が必要となりますから、こうした人事制度では育成は困難です。各機能における人財像を明確にし、プロフェッショナル人材を長期的視点で育成することが重要であり、そのために人事制度改革にも手を付ける必要があります。そういった意味でもJOB型人事は今後の日本企業の重要なテーマとなります。
【図4】BP・CoE・OPEにおける人財像
本社の存在価値は何か?を再定義しなければ、事業部門は従わない
グループ本社機構を形だけBP・CoE・OPEに変えただけではダメです。事業部門からすれば、グループ本社はコストセンターであり、事業部門に面倒なことを押し付ける部門でしかないといった声がよく聞こえてきます。例えば、DXのための高額な人財を欲しいと人事部に相談しても「当社の人事制度ではできない」というように「出来ない理由を考える部門」と思われているのです。従って、グループ本社は、「出来ない理由を考える部門=管理部門=コストセンター」ではなく、「どうすれば出来るかを考える部門=事業価値創造部門」として変革しなければいけません。つまり、「本社の存在価値は何か?」「なんのために存在しているのか?」といった根源的な部分(心の根っこの部分)を変革しなければ、事業部門は従わないのです。
【図5】本社の存在価値を再定義する
横串としてのBP・CoE・OPEを配置する
BP・CoE・OPEの基本的な配置としては、BPは事業ラインに合わせて配置し、CoEはグループ本社に配置し、OPEはSSとして地域統括会社等に配置し、その上で各々具体的役割・レポートライン・事業との関係等を定義していきます。当然企業ごとに事業の数、事業展開エリア、重要とする機能、子会社の沿革等が異なりますので、この配置は企業ごとに異なります。また、環境に対応するスピードやリスク等も踏まえ検討することも重要です。
【図6】BP・CoE・OPEを配置
グループ本社は、ビジネスプラットフォームを構築すべき
日本企業においては、『事業運営の基盤=ビジネスプラットフォーム』を事業部門・子会社に任せ切りでバラバラとなり、全体最適や価値創造の足枷になっていることが多く見受けられます。例えば、基幹業務システムがグループ全体で統一されている企業は少なく、また同一のERP製品を利用していても設定やデータがバラバラで実質的に別々のシステムと同様となっているケースが多いのが実情です。
このような状況でCEOが一言発すれば、本社や子会社の管理部門が膨大なExcelワークや打合せに数週間~数カ月間忙殺されてしまうことになりかねません。これでは、何をするにも動きが遅くなってしまいます。従って、グループ本社としては、各社が利用できる共通言語化されたビジネスプラットフォームを構築することが重要なのです。
【図7】ビジネスプラットフォームのイメージ
強い執行体制を支える守りのグループガバナンス基盤の再構築
危機対応がニューノーマルとなる環境では、経営者のアクセルとブレーキを頻繁に踏み替えることが必要です。これを担保するためには守りのグループガバナンス基盤を再構築することも必要です。
有事の際には、グループの末端で不祥事・不正が発生するリスクが高くなります(不祥事の宝庫)。しかし、多くの企業では、子会社・関連会社(特に海外)については実態把握・統制が弱いのが実態です。これでは、有事のリスク管理はできません。場合によっては『地の果てまで見ていく』強力なガバナンス(内部統制・内部監査等)を構築すべきです。
【図8】子会社群に対する強力なガバナンス(内部統制・内部監査等)
守りのグループガバナンスとしては、現地子会社、RHQ、HQ、内部監査部門等 多段階の防波堤(ディフェンスライン)をプラットフォームとして構築します。特に、ITテクノロジーやデータを使った統制は日本企業の弱点であり、リモートワークを前提とした、内部統制・監査のDX化が急務となっています。
【図9】グループガバナンスとして多段階の防波堤
事業部門・子会社の事業活動や各種取引をモニタリングする上では、グループにおける経営情報の適正性、均質性を担保するデータガバナンスの実現が重要です。しかし、前述のように各社のシステムがバラバラで、グループ経営情報と言っても制度連結会計ベースの情報に留まっている会社も多く見受けられます。これでは、内部統制・コンプライアンス・リスクマネジメントなどの観点から十分といえません。グループガバナンスを強化する上でも、グループ統合情報基盤の構築は急ぐべきと考えます。
あるべき本社像の検討
ある企業では、急速なグローバル化にともない、本社、地域統括会社、事業会社の三層構造で事業を運営してきました。しかし、規模の拡大と伴に間接部門の肥大化が起こり、本社、地域統括会社、事業会社の機能配置の見直しが求められました。当初、横串機能を強化すると伴に地域統括会社にSSCを設置する計画でいましたが、本社の組織が長年の組織変更により、組織のミッションや機能が曖昧であることが判明しました。そこで、再度組織を機能の面から再整理するとともに、その組織のミッションを明確化しました。また、事業会社の視点から同じような機能はまとめ、本社組織を一本化することも実施しました。例えば、内部監査、品質監査、ISO監査、環境監査等の監査・検査といった機能をまとめて経営監査部を設定しました。このように、各組織の機能、ミッションを明らかにした上で、BP、CoE、OPEの機能定義と機能配置を行い、横串機能の強化を図りました。
以上のように、グループガバナンスの強化は、今の本社を「グループ本社」として如何に変えていくかに他なりません。グループ本社は、各事業のアドバイザーであり、専門家集団としてグループプラットフォームを構築・運営する役割を果たすべきと言えます。
是非皆様と一緒にグループガバナンスの強化を実現していきたいと思っております。
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