ワーク・エンゲージメント実践編
~人をしっかり見ていますか?~
変化の時代を勝ち抜くために
激しく移り変わる市場環境下で、企業が継続的に価値を創造するには、既存の人事指標だけ追うのでなく、より包括的な人財マネジメント視点が不可欠です。多忙な業務に埋没されてしまうと、組織の動向や従業員の声を見落としがちです。そこで注目されるのが、従業員の活力を測る「ワーク・エンゲージメント」の概念です。ワーク・エンゲージメントは生産性と正の相関を有することが検証済みで、単なるモチベーションアップ施策とは一線を画します。
しかし、数値を測定するだけでは十分ではありません。データを正しく分析して深く掘り下げるプロセスを経てこそ、組織に内在する問題や活力を阻害する要因を明確にできます。経営戦略を実行する際に、このワーク・エンゲージメントを意識的かつ継続的に扱うことは、いわば経営者の「道しるべ」となります。すなわち、ワーク・エンゲージメントの分析・向上の取り組みを人事部門で閉じずに、「生産性を高める主体はあくまで現場である」という認識を、経営・事業・従業員が三位一体で共有し取り組むことが、VUCAの時代を勝ち抜く強固な土台になるのです。
やりっぱなしサーベイの危険性
多くの企業がエンゲージメント・サーベイを行い、結果を見ているようですが、その後の施策やサーベイ自体が「やりっぱなし」になりがちです。人事部門がどんなに熱心でも、現場との連携が希薄であれば、従業員の声が活かし切れず具体的な改善策が進まない事態に陥ります。加えて、サーベイ結果を表層的に眺めるだけで、背景に巣食うリアルな課題を捉えきれないことも少なくありません。
また、個人の仕事の捉え方や心理状態を把握せず、結果だけ評価してフィードバックすると、生産性を高める有意義な対応が取れない恐れがあります。それどころか、仕事への態度認知と活動水準次第では、組織全体の活力を損ねる「ワーカホリズム」「バーンアウト」等の深刻なリスクに悪化し得る点も見過ごせません。こうした状態を放置すると、生産性が低下するばかりか優秀な人財を失う原因ともなります。経営者はこれらの課題が本質的に何に起因するのかを捉え、現場主導の改善が促進される体制づくりを急がねばなりません。換言すれば、組織運営におけるリサーチ結果や指標の「手段としての使い方」が重要であり、経営者はここに的を絞ったマネジメントをすべきと考えます。
手段としてのワーク・エンゲージメント
このような課題に対処するうえでの重要な戦略は、「ワーク・エンゲージメント」を手段として用いることです。鍵となるのは、経営者や管理職(ピープルマネージャー)が現場の声に耳を傾け、数値の変動の深層にある背景を探ることであり、単なるアンケート結果の概観ではありません。その際には、組織全体の傾向分析から踏込んで部門・チームごとに絞り込む「ドリルダウン分析」を行い、さらには個々人の心境変化も捉えるようにします。
併せて重要なのは、「ウーダループ(OODA)」のサイクルの構築です。観察(Observe)から判断(Orient)、決定(Decide)、行動(Act)のプロセスを迅速に回し、再度観察に戻るサイクルを現場で回します。ここでは、ワーク・エンゲージメントの数値や従業員の声が羅針盤の役割を果たし、ピープルマネージャーが適切なタイミングで介入や支援を行います。つまり、サーベイはあくまで「測るための道具」であり、そこからの深掘りと対策を続けるプロセスが真に価値を生み出すのです。これを一年単位等の長いスパンだけでなく、必要に応じてパルスサーベイを活用して細やかにモニタリングし、変化に俊敏に対応する「アジリティ」を高める仕組みを整えることが肝要です。
【図1】手段としてのワーク・エンゲージメント
ピープルマネージャーと自己表出の実践事例
ワーク・エンゲージメントを有効に機能させるには、「ピープルマネージャー」の存在が欠かせません。ここでいうピープルマネージャーとは、事業部門と人事の橋渡し役として、チームメンバーの日常の変化や声をいち早くキャッチし、必要な場へつなぐ役割を担う人財です。肩書きや部門にかかわらず、人への興味や寄り添う姿勢があれば、誰でもピープルマネージャーになる素地があります。現場で軽微な変化をも察知し、「なぜ元気がないのか」「どの施策が効果を発揮しているか」を素早く判断・行動することが必要だからです。
加えて、個人が自分の強みや価値観を発見し、イキイキと働ける状態を支援する「自己表出」の仕組みが効果を発揮します。例えば、アイデアコンテストやワークショップを通じて自分のクリエイティブな一面を見出したり、ペアコーチングで気付かなかった強みに気づいたりする方もいます。こうした取り組みは、「挑戦しがいのあるタフな仕事がやりがいになる」といった表面的動機だけでなく、実は「部下育成でも活力を得られる」新たな発見を生み出すかもしれません。それには、心理的安全性の高い環境づくりが不可欠です。すなわち、周囲に否定される心配なく発言・提案できる状態を普段から醸成しておくことが成功要因です。
【図2】自己の表出化に向けて
未来を拓く展望とさらなる飛躍
ワーク・エンゲージメントを軸に、ピープルマネージャーが現場と連携しながら自己表出を促す体制は、企業の競争力を飛躍的に高める可能性を秘めています。さらに、この仕組みを戦略的に運用することで、組織全体が活力を維持しながら成長を続け、経営目標を着実に達成する道筋が見えてきます。一方、制度や指標を整備しても、人間同士のコミュニケーションや信頼関係がなければ、その真価は十分に発揮されません。日常のフィードバックや相互理解こそ、組織文化を変革し、企業の未来を支える強固な基盤となるのです。
貴社が独力でこれらを設計・運用するうえでノウハウやリソース不足に直面する場合には、専門的知見を有する当社コンサルタントの支援により、人的資本経営とワーク・エンゲージメントのスピーディーかつ効果的な活用が可能です。制度構築や施策実践に不安や課題をお持ちであれば、お気軽に当社にご相談ください。新たな一歩を踏み出すことで、組織が生み出す成果の可能性は大きく広がっていくのです。
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この記事の執筆者
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金元 伸太郎取締役
HR事業部 事業部長
ISO30414コンサルタント -
小宮 泰一HR事業部
ディレクター -
細川 毅騎HR事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション