“おもい”を起点にイノベーションを生み出す
~価値創造を支援する「布石の人事」~

中期経営計画・成長戦略に”イノベーション”を掲げたはいいが、実のところは「まだまだこれから」「苦慮している」等の声が多数。イノベーション推進室を組織化するだけでいいのか?事業部門の現場任せで芽が育つのか?企業のイノベーション創出への模索は今後も続いていく中で、私たちは「人事がイノベーションを加速させるために何をすべきか」という観点での「布石の人事」についてご紹介します。

そもそも「イノベーション」とは

近年の“イノベーション”に関する動きを振り返ってみます。企業がイノベーションを興すための方法を探る狙いで「イノベーション経営を進める大企業経営者が100人になれば、日本は再びイノベーション国家になる」との思いから、経済産業省「イノベーション100委員会」が2015年に組成されて議論が重ねられています。また、2019年7月には、ISO(国際標準化機構)にてイノベーション・マネジメントシステムの国際規格(ISO 56002)が発行され、その考え方・要点も反映した「日本企業における価値創造マネジメントに関する行動指針」が策定・公表されています。企業がイノベーションを生み出そうとする際に直面する課題が挙げられ、それを克服するための重要項目(経営者への7つの問いかけと12の推奨行動)、企業の先進的な取り組み、今後の変革の一助となる考え方や実践方法等が整理されています。
その指針では、“イノベーション”は以下のように定義されています。

 

  1. 社会・顧客の課題解決につながる革新的な手法(技術・アイディア)で新たな価値(製品・サービス)を創造し、
  2. 社会・顧客への普及・浸透を通じて
  3. ビジネス上の対価(キャッシュ)を獲得する

この一連の活動を「イノベーション」と呼ぶ

 

今回は、「1.」に該当するイノベーションの最初のステップを「価値創造フェーズ」と呼ばせてもらい、人事としてどのようなことをなすべきかをご説明いたします。

“おもい”なき「プロジェクト」

「事業戦略と人材戦略の連動」と叫ばれていますが、新規事業への取組み実態はどうでしょうか?
先ず、新規事業構想・戦略を事業責任者・経営企画部門が立てる。
その構想実現に向けて、最適な組織を設計し、定期異動で人を動かす。または、プロジェクトを立ち上げメンバを人選する。「既存事業のエースにお前やれ!」といったご指名もよくあるケースです。そして選ばれた人が「構想書」を受け取って、やれることをやる。
このような実態だと、「戦略をつくって組織・職務に人をあてはめる流れでの、戦略をつくる人とやる人の不一致」や「現場から抜いても影響のない人を集めた妥協の人選」が起こっていると想像されます。とある調査では、「66%の人が普段の仕事で自分の才能を使っていない」と答えたというデータもあります。

新規事業・イノベーションには、「熱きおもい」が全ての活動の燃料になるのですが、燃料なき組織・人で「創造」ができるのでしょうか?我々は、戦略起点ではなく、人の“おもい”を起点とした、下図のような流れを作ることが必要と考えます。

【図1】“おもい”を起点にイノベーションにつなげる流れ

「自分の人生を懸けてでも達成したい」という“おもい”を持つ「主冒者(リスクを負ってでも挑戦する冒険の主導者)」が現れます。その一人の“おもい”に心底共鳴する人が集まって(組織化され)、共鳴者は「管理されて決められた仕事をする」のではなく、任されて自由に探索的活動を行う。こういった流れができるような組織風土・仕組みを構築・整備することが、特に「価値創造フェーズ」では重要になるでしょう。

価値創造を支援する「布石の人事」のポイント

以上のような「価値創造フェーズ」で、価値創造を支援するという目的での人事を「布石の人事」と名づけました。幾つか、実践すべき人事施策の例をご紹介していきます。

①おもいを表出する組織風土
先程、“おもい”を持つ「主冒者」が現れてスタートすると述べましたが、“おもい”を持ち、そのおもいを表明している人はどれくらいいるのでしょうか。ただでさえ、日本人は恥の文化と言われ、世間体や人の視線を気にしてしまいます。自分の人生を「自分らしく」生きるために、心に秘めた気持ちを解き放ちあい、仲間と心を通じ合わせて、事をなす。このような考え方・行動が当たり前にできるような組織風土を作っていくことが第一歩です。その上で、先ずは一人ひとりが自分の「おもい」を自覚・探求するための時間・場を人事が企画・提供していくことが必要になっていくでしょう。

②戦略的余白づくり
おもいを形にしていくための知の探索活動は、一見「ムダ」に見える時間が必要です。無関係なものに興味を注ぎ深掘る時間、仲間とのたわいない時間も重要です。価値創造フェーズに関わる「主冒者、共鳴者のメンバー」に対しては、健康管理のための労務時間管理だけではなく、時間の使い方として、スケジュールの中に戦略的に「余白」をつくることを推奨し、それを非稼働時間として「悪」と評価しない規律づくり等も人事が企画・実践していくことが必要になっていくでしょう。

「布石の人事」を実践するHRBP

こういった「布石の人事」を実践する主体者として「HRBP」を配置して取り組んでいくことも考えてみては如何でしょうか。
昨今、HR BP(Human Resource Business Partner)という戦略人事を担う役割・考え方が浸透してきています。弊社では、HR BPを「事業・現場で人に寄り添い、部門長・メンバーを「ヒト」軸でドライブ・アシストする人」と定義しています。
これを新規事業組織に配置し、部門長、各イニシアチブ・プロジェクトのメンバーに、イノベーションを生み出す活動ができるように、人事・組織風土改革施策等の「布石の人事」の企画・実行する体制づくりが重要だと思います。

価値創造を支援する「布石の人事」はこれだけではありません。イノベーションを目的とした「おもいに対する共鳴者を集結する仕組み」、「評価制度の再構築」、「タレントマネジメントシステムの活用強化」等、様々な施策・取組事例がございます。事例とともにご紹介いたしますので、是非ともお問い合わせいただければ幸いです。

【図2】「布石の人事」を実践するHRBP

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