2022/10/13

ジョブ型雇用・ジョブ型人事制度とは?メリット・デメリットとメンバーシップ型との違い

#ヒューマンリソースマネジメント
「ジョブ型を総合的に勘案しながら検討することが有益」――。
2020年1月、一般社団法人 日本経済団体連合会(以下、経団連)が春季労使交渉を前にこう提言し、業務内容や責任の範囲を明確にしたジョブ型雇用を推奨しました。

終身雇用や年功序列を前提としたメンバーシップ型雇用からの脱却を図るため、それまでも注目を集めていましたが、経団連が後押ししたことによって、日本の大企業にも導入する流れが加速しました。

人財獲得競争力を高め、延いては企業の国際競争力の向上や企業間競争の生き残りには、もはや欠かせないとの見方もあるジョブ型とはどのような仕組みなのでしょうか。
メリットやデメリット、導入までの流れや注意点を分かりやすく解説します。

1.ジョブ型とは

ジョブ型とは労働マーケットに準じ、専門性の高い人財を獲得する雇用制度です。
特定のポストに求められる役割・責任(職務内容)やスキル要件を明確にしたポスト要件に基づき、成果に基づいて評価を行います。

つまり、人財への期待値が明確で、それに見合った人財を労働マーケットから雇用します。獲得した人財に対しては、同じ年齢や職階であっても、異なる報酬額が提示されることは必然であり、ポスト・ポジションごとに評価基準も設定できます。

2.ジョブ型が注目される背景

ジョブ型は従来、欧米ではスタンダードな雇用制度でしたが、市場のグローバル化により、日本にも広がりつつあります。それに伴い、国境に関係なく、ヒト・モノ・カネの流動性のハードルが低くなりました。そうなると、国内の優秀な人財も、実力・成果主義を重視する外資系企業に採用されていきます。
 
いまだに多くの日本企業の雇用はメンバーシップ型に軸足を置いていますが、労働市場に準拠し、役割・責任に対して報酬を設定するジョブ型を広げなければ、人財の獲得競争力が下がるのは必然です。もし、メンバーシップ型で優秀な人財を獲得できたとしても、横並びの報酬・評価制度の下では、人財流出は避けられません。
 
つまり、グローバル競争の下、メンバーシップ型からジョブ型へ移行せざるを得ない状況が生まれているのです。

3.メンバーシップ型との違い

メンバーシップ型雇用とは、役割や責任が不明確で曖昧です。あえてそのように設定することで、暗黙知の中、終身的な雇用が保証されているとも言えるでしょう。従来、大企業を中心に日本特有の雇用形態でもありました。初期報酬は横並び、昇格・昇給の基準も抽象的です。ある一定の職階までは日本的な年功序列の下、横並びの昇格・昇給になるケースが多くなります。
 
一方、概ね総合職と一般職の2つ程度の大括りな棲み分けしか無い為、多様な職種や職務内容を経験できる確率が高まります。長期的な人財育成の観点では、人財のポテンシャルを引き出し、人財の得意分野を見つけられる可能性が高まります。
 
それに対して、ジョブ型はポスト要件に基づき、役割・責任は明確に提示されます。定義された役割・責任の遂行が求められ、役割と責任の達成に必要な全てが求めらます。給与体系も成果に応じて定まります。社員の属性に関係なく、成果(実行結果・業績 等)によって支払われる額が決まります。
 
また、多様な働き方が増えつつある現代社会において、従来の評価体系、雇用体系を志向しない人財に対しても柔軟に対応できる雇用システムと言えるでしょう。

4.ジョブ型のメリット・デメリット

メリット

ジョブ型の最大のメリットは人財の獲得競争力の向上です。専門性を追求する人財を雇用・育成しやすくなります。人財の専門性が高いため、育成の方向性も明確に設定しやすく、人財一人ひとりのキャリア形成においても、大きく逸脱することなく、スムーズに育てることができます。

デメリット

ジョブ型のデメリットは、成果(実行結果・業績 等)に対し報酬を支払う特性上、所属企業へのロイヤリティーやエンゲージメントがメンバーシップ型よりも劣る懸念が高まります。また、雇用する人財も一つの職務を半永久的に続けることは非常に困難なため、将来的なキャリアを描ける環境を企業側が提示・用意できなければ、人財流出は避けられません。

5.ジョブ型の導入方法

大きく2パターンあります。
 
1つは組織が機能するために肝となる特定のポジションや、経営戦略を達成する上でカギを握るポストを見定め、限定的にポスト要件を具体化していく手法です。
 
もう1つは特定のポストやポジションに限定せず、全ポジション、全ポストを対象にドラスティックにジョブ型制度に置き換えるパターンです。
 
ただ、一般論として、後者を実行する意義を持ち合わせる日本企業は、そう多くありません。具体的にポスト要件を定義し、労働水準を意識しながら報酬を設定するのは企業のコアとなるポスト・ポジションに限定する前者の方が環境変化対応に対する硬直性リスクを軽減できます。
 
ジョブ型に移行したポジションを参考に、メンバーシップ型のポジションやポストの報酬や昇格条件を再設定していく流れが現実的な進め方となるでしょう。

要件を定義する

役割内容や責任の範囲、役職などの要件概要を定義します。その方法は大きく2通りあり、社員自らが要件を書き出す記述法と、人事担当者や上司がヒアリングする面接法があります。役割・責任が定義できれば、必要なスキル、求める人物像などの人財要件とともに、ポスト要件を作成します。

ポスト・ポジションに対する報酬を設計

報酬設計の基準は労働マーケット準拠の報酬水準となります。人事、営業、技術職などの職種のみならず、役割・責任の大きさごとに報酬を設定していきます。
 
重要なのは評価軸を明確にすることです。役割の重要度や責任の大きさに応じて報酬を設定するのは大前提ですし、評価される側である人財に理解や納得感を得られる報酬体系を構築できるかがポイントとなります。

管理職から導入

管理職などマネジメント側のポストから導入する手法が混乱を招かず、スムーズな導入を見込めます。一定の権限・裁量を付与されており、果たすべき責任が明確なため、導入に理解を得られやすい背景があります。
 
メンバーシップ型では、一般社員の職階が下がれば下がるほど、役割、権限、責任が曖昧になります。その意味でも管理職を対象に導入を始めるのは理に適っています。一般社員に対して導入を進めるのであれば、AI人財やデータアナリストなど特定の専門人財でなければ難しいでしょう。

6.導入にあたっての注意点および留意点

絶対にやってはいけないのは、報酬を設定する際、企業が自社の論理を働かせてしまうことです。自社論理は内部論理であって、労働市場では通用しません。明確な職務や責任に対する報酬は一企業が決めるのではなく、労働市場が決めるものだという認識が大前提となります。
 
メンバーシップ型の日本企業への導入には、ポジションやポストを最小単位とし、いくつかのカテゴリーに分けつつ、役割・責任という形で少し抽象度を高めて導入する手法も有効です。その場合、例えば、職種は同じ営業職でも事業別に細分化し、事業ごとに同等のポストやポジションで役割や責任をカテゴライズするイメージです。
 
今でも多くの日本企業では人事異動や長期雇用の企業文化があります。同程度のポストやポジションをカテゴライズすることで、社内で人財の流動性を持たせることができます。人財がキャリアを形成していく中、ケイパビリティを広げる上でもよい効果を発揮するでしょう。明確な詳細職務を定義しないため、抽象度を高めた役割・責任に対する報酬体系は緩やかに設定できます。

7.導入の成否

ジョブ型は社員教育や社員育成など人事の他のテーマと同様、成果を見極めるには一定期間が必要となります。
 
有名な事例として、大手メーカーが成果主義を導入しましたが、失敗した例があります。なぜ失敗と結論付けられたかと言えば、大量に人財が流出したからです。
 
ただ、新たな人事・評価制度が導入されてから1、2カ月で退職する人はそう多くはいません。制度上の評価期間が半年であれば、そのフィードバックがあった後にインパクトが出ます。社員が評価制度を自分事にするのは評価時期です。
 
つまり、成果を判断するには少なくとも1年程度は必要となります。そのインパクトを踏まえ、企業文化が揺らがず、新たな制度が定着すれば、成功となります。逆に社員から不満の声が高まり、退職者が増加すれば、失敗の確率が高まるので、制度の見直しを迫られるでしょう。
 
このような成り行き任せの失敗を防ぐため、自社の雇用・人事制度を支える「思想」を明確に位置付け、制度導入前に社内理解を獲得する必要があります。

8.ジョブ型の導入事例

当社が関わった事例でも、「思想」ならびにその前段階にある経営戦略や事業特性を踏まえてジョブ型を導入しています。
 
ある例では、管理職層にはジョブ型導入の考え方を色濃く導入し、ポストの要件・重要度や報酬水準を明確に定めました。幹部として役割を明確にして経営を担わせるだけでなく、外部からの有望人材起用も念頭に置いてのことです。
 
他方、非管理職層ではジョブ型の色合いを薄めて、柔軟な配置や現場の助け合い等のメンバーシップ型で醸成されてきた美点を残しています。
 
このように、ジョブ型と一言に言っても、各社の戦略・強みや置かれた状況によって最適な制度内容は異なることがお判りいただけるでしょう。

9.ジョブ型雇用・人事制度のまとめ

今の日本社会の潮流に照らし合わせても、日本企業にとってジョブ型導入は抗うことのできない大きな流れと考えられます。現状、業績が好調であったり、大きく成長している企業は、メンバーシップ型に対して日本独自の雇用文化の良さを強調されるかもしれません。
 
しかし、グローバル競争で勝ち残るためには、ジョブ型の思想である報酬と評価のロジックを人事・雇用制度に埋め込まければ、将来的には人財流出につながり、人財獲得競争でも後塵を拝す問題に直面するでしょう。企業が培ってきた文化や社員の気持ちに寄り添いながらも、競争力を高め、成長を拡大していくためには、管理職や専門的なポスト・ポジションへのジョブ型導入は避けて通れない道だと思われます。
 
一方、当社では、これまで日本企業で培われてきた日本的な企業経営にも多くの良さが存在していると認識しています。日本的な経営とジョブ型は二項対立で考えるものではありません。むしろ、企業の理念、方針と世の中の潮流を鑑みつつ、双方の良い点を取り入れ、各企業が独自の雇用スタンスを確立していくことが重要であると考えております。
 
昨今の日本においては、「ジョブ型とはジョブディスクリプションを作成すること」と勘違いされ、本質が理解されていない風潮に対し、真のジョブ型とは“そもそも型として存在(欧米には実在しない)しない”ものであると考え、レイヤーズ・コンサルティングでは「ポスト主義による人事制度」としてコンサルティングサービスを提供しております。

この記事の執筆者

田﨑 文教
田﨑 文教
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
HR事業部
シニアマネージャー