2023/02/21

ESG情報開示に関する日本企業の現状と課題とは

#経営管理
ESG情報開示は、もはや“待ったなし”の状況に直面しています。2023年度から有価証券報告書へのサステナビリティに関する非財務情報の記載が必要になります。一方、サステナビリティ領域における日本企業の取り組みは、欧米諸国と比べて全般的に遅れをとっていると言われていますが、その中でも企業間で差が広がりつつあります。グローバル投資家から質、量ともに情報開示が求められている中、その社会要請に応える社内環境をどう整備していくのか。この記事では、ESGをはじめとするサステナビリティに関する情報開示の現状や課題解決のプロセスを解説します。

1.ESG情報開示とは

ESG情報開示とは、ESG投資に向け、企業を評価するための非財務情報を開示することです。
国連が責任投資原則(PRI)を提唱したのが2006年。その9年後の2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名したのを契機に、日本でもESG投資への関心が一気に高まりました。今では、企業が持続的かつ中長期的に成長していくために、ESG観点での施策を積極的に取り組む流れが加速しています。

2.ESG情報開示が拡大する背景

近年、機関投資家は特にE(環境)やS(社会)の視点を重視して企業を評価し、格付けする傾向が強まっています。そのため、欧米企業を中心にEやSの領域での積極的な開示が進んでいます。
GPIFがESG指標を重視する姿勢を打ち出していることも拡大の背景の一つではありますが、日本では2021年6月に公表されたコーポレートガバナンス・コードにおいて、東京証券取引所プライム市場への上場企業に対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)またはそれと同等の開示が2022年から要請されるようになりました。
また、2023年からは、有価証券報告書にサステナビリティに関する情報開示が追加されました。見方を変えれば、機関投資家を中心に企業への外部圧力がかかっている状況とも言えます。もし有価証券報告書で適切な開示ができなければ、証券取引法に違反し、市場から退場することにもなりかねません。もはや、ESGを含むサステナビリティに関する情報開示の取り組みはマストとなっています。

3.ESG情報開示の現状

ESG視点での経営の歴史が浅い日本企業の取り組みは、遅れていると言わざるを得ません。欧米諸国の後を追っているのが現状です。2022年のコーポレートガバナンス報告書を見ると、サステナビリティ情報の開示においては多くの企業が最低限の体裁を整えることで精いっぱいだった印象です。
しかし、企業は2023年以降も継続的に情報を開示しなければなりません。そのためには、実質的にサステナビリティへ取り組み、常に進捗状況を把握して開示できるような社内体制の整備が必要となります。サステナビリティ推進部などの一部の部門だけでなく、全社一体となって取り組みを推進し、マネジメントする体制・仕組みを定着させ、運用していく必要があります。企業価値を高めるための各ステークホルダーとのコミュニケーションとして、一連の取り組みの結果、重要課題への取り組みの進捗状況を開示することが理想です。

4.ESG情報開示の課題

ESG情報開示の直近の課題は、目標に対する進捗状況を継続的に把握し、企業グループ内で統一した開示をしていくための仕組み作りと、社内環境の整備です。本社だけで推進すれば良いわけではなく、グローバル企業であれば、国内はもちろん海外の生産拠点も含めた全社的な取り組みが求められます。グループ全体での情報開示をどの部署が責任を持つのか、および開示資料を作成するにあたってのスキームとプロセスを策定することも、多くの日本企業において横断的な共通課題となっています。

5.本質的な課題

上記のような有価証券報告書等での開示対応のための直近の課題も重要ですが、実はESG情報開示は単なる「開示」だけの問題ではありません。今後も事業を継続していくため、実質的にESGへの取り組み、推進するための体制・仕組みを構築できているかということが本質的な課題です。
E(環境)の視点では、気候変動への対応が最も注目されている領域です。例えば、GAFAなどの世界的な巨大テック企業がCO2排出量を条件にサプライヤーの選定に制限をかけているように、取り組みの遅れている企業は市場から排除されてしまう恐れさえあります。
また、S(社会)の人的資本については2020年に経済産業省が人材版伊藤レポートを発表するなど、日本でもここ数年で特に注目を集めていますが、欧米では人的資本に関する情報開示の指針である『ISO 30414』が既に積極的に活用されています。

6.ESGへの取り組みアプローチ

ESGを含むサステナビリティを本質的に推進するための全社的な取り組みとしては、国連グローバル・コンパクトなどが策定したSDG COMPASS(SDGsの企業行動指針)などのフレームワークを使用するなどして、もう一度、全社的な取り組みを再構築する必要があると考えます。
 
【SDG COMPASSの5ステップでの検討事項】
ステップ1:SDGsを理解する
経営トップのコミットメントが必須。また、全社で取り組みの必要性についての理解を深める。
 
ステップ2:優先課題を決定する
バリューチェーン全体を通したSDGsへの影響を棚卸し、評価する。
 
ステップ3:目標を設定する
優先課題への明確なコミットメントを示し、現場のKPIまで落とし込む。
 
ステップ4:経営へ統合する
社内でのサステナビリティの取り組みを推進する仕掛け・仕組みを構築する。
 
ステップ5:報告とコミュニケーションを行う
進捗状況を定期報告し、ステークホルダーと密にコミュニケーションをとる。
 
検討には2~3年程度の期間を要するため、まずはロードマップを策定します。そして、半年~1年単位のタイミングでマイルストーンを設定し、そこで達成すべき目標・指標を明確にしておくことが重要です。
 
ロードマップをスムーズに策定・実行するにあたっては、事前準備が欠かせません。そのポイントは2つあります。
1つ目は経営層への事前説明による理解・意識醸成です。経営トップの意向を踏まえた上で、経営幹部に対してサステナビリティ対応の必要性や取り組まない場合のデメリットなどを説明し、全員に納得感を持って本格的なサステナビリティ対応の取り組みへの合意形成を図ります。
もう1つが他社ベンチマークです。今後の目指すレベルを検討する前に、自社が強化すべきポイントを把握する必要があるため、競合他社や類似業種で目標とする企業をベンチマークします。ベンチマーク比較の方法として、ESG指標の詳細な評価項目に則して比較することで、投資家視点の課題抽出・検討を行うことができます。

7.まとめ

ESGを含めたサステナビリティに関する取り組みにおいて、いまだ多くの日本企業の現在地は道半ばです。また、ESG、サステナビリティは領域が非常に広く、各テーマに対する理解や価値観にも個人差があります。そのため、一朝一夕に実現することはできません。特にESGの取り組みが進んでいない企業では、何よりも経営層への理解と意識の浸透を図るのが第一歩となります。そして、全社的なコンセンサスの形成を図るため、経営者の取り組みへの本気度・コミットメントを全社へ示すことがカギを握るのです。

この記事の執筆者

山本 晶代
山本 晶代
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
経営管理事業部
ディレクター

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