2023/11/06

ビジネスモデルとは?作り方や導入するメリットを解説

#事業戦略
どのような事業においても、『価値』の提供により収益・利益を生み出す仕組みであるビジネスモデルが存在します。提供する『価値』とは、顧客に販売する製品やサービスそのものに始まり、そこに付随する品質や性能、デザインをはじめ、配送やアフターサービスなど多岐にわたります。すでに確立された販売方法や価格体系、顧客との接点などの目線を少し“ずらす”ことで新たな売上機会が生まれ、提供する『価値』は変えないまま、より収益性を高めたビジネスモデルを構築することが可能となります。では、高収益化が望めるビジネスモデル変革を実現するには、どのようなステップを踏めばいいのでしょうか。この記事では、変革のメリットや事例紹介を通して、成功の秘訣をご紹介します。

1.ビジネスモデルとは

ビジネスモデルとは、製品やサービスなどの『価値』を顧客に提供するプロセスの中で収益や利益を生み出す仕組みを指します。どのような事業でも、新たなサービスや製品を生む『価値創造』と、サービス・製品から収益や利益を生み出す『価値獲得』が同時に成立しなければ、継続しません。そして、既存のビジネスモデルを基に中核となる提供価値を据え置いたまま、“稼ぎ方”をイノベーションするのがビジネスモデル変革です。例えば、サブスクリプション(以下サブスク)を導入して販売方法や価格体系を変えてみたり、顧客との接点にフォーカスし、売って終わりではなく、売った後にサービスで利益を生む仕組みを構築したり、またはサプライチェーンの中で別企業と組むことで、製品やサービスを生むプロセスの仕組みを変えるのも一手でしょう。ビジネスモデル変革では、すでに確立されたビジネスの構造をヒントに、どう収益・利益を拡大させるのかを考えます。

2.ビジネスモデルが脚光を浴びる背景

昨今、ビジネスモデルという言葉をよく耳にするようになりました。インターネットが定着する以前の1990年代から、商品の売り方を工夫する企業は存在していましたが、競合他社の情報を知る機会は限られていました。ビジネスモデルという言葉が普及したのは2000年代に入ってからになります。そこには二つの大きなきっかけがありました。
 
一つがデジタル社会の到来です。1990年代からインターネットが徐々に普及するにつれ、IT化が進み、他社情報を簡単に調べられるようになりました。それまでアナログでしか集められなかった情報を、デジタルで膨大に収集できるようになったことで、他の業種・業態の好事例を分析し、自社のビジネスに取り入れることができるようになりました。また、デジタル社会では、モノやサービスの販売、購入、アップデートまですべてをデジタル上で完結することができます。これにより、自社のビジネスの仕組みを工夫する余地が飛躍的に広がったこともビジネスモデルが普及する大きな後押しになりました。Apple社はビジネスモデル変革の先駆け的存在です。かつて音楽はCDでしか売ることができませんでしたが、音源をデータとして、iTunesというプラットフォームで売る方式に変更し、爆発的に売上を伸ばしました。さらに契約時期や契約額など顧客の個人情報を利用、解析することで新たなビジネスチャンスが広がったと言えるでしょう。
 
もう一つのきっかけは、昔に比べて、現代社会がモノや情報で溢れるようになったことです。1990年代までは、ある目的を持つ製品は限定され、選択の余地が少なく、機能や品質を差別化することでモノが売れました。ところが、今は違います。様々な機能をもつ製品が溢れ、安くて良質なモノから、高くて上質なモノまで選びきれないほどの選択肢があります。単に販売するだけでは、良いモノであったとしても必ず売れるとは限りません。そこで売り方に工夫をする必要性が生まれたのです。どのような業界においても、おしなべてビジネスモデルの再構築に取り組まなければならない問題意識が一気に広がったのです。
 
日本企業に限ると、製造業がとても元気であり、過去から高機能や高品質のモノを売って経済成長を遂げてきました。多くの日本企業はその成功したビジネスモデルに固執し、ビジネスモデルを変えていく意識が欧米企業と比べると薄く、ビジネスの変革スピードも遅々としているのが実情です。ただ、市場が成熟化した今、ビジネスモデル変革は待ったナシの状況を迎えており、今後、日本でもビジネスモデルを刷新した企業が加速度的に増えていくと考えられます。

3.ビジネスモデル変革のメリット

ビジネスモデル変革の最大のメリットは、より利益を増やせる可能性があることです。日本では、モノを作って売る『モノ売り』の考え方が根強く、そのビジネスモデルの中で収益を高めようとすれば、たくさん売る『多売』や原価を下げる『コストダウン』にフォーカスされがちですが、モノの売り方や収益の上げ方を工夫することで利益構造を変えようというのが、ビジネスモデル変革の根本的な発想となります。ビジネスの構造を俯瞰し、顧客のターゲットを広げ、一人の顧客に対し、モノを売るだけでなく、売った後のメンテナンスなどのサービス(価値)を提供し、課金ポイントを増やすことで、利益を増やす余地が格段に広がります。
 
代表的なビジネスモデルの一つにサブスクがあります。継続的に課金してもらうストック型のビジネスモデルで、一度限りの『モノ売り』よりも一度の課金での利益は少ないですが、長期的に継続して課金してもらうことで利益は積み上がります。モノを売る行為は同じですが、モノの売り方を工夫することで利益を生むポイントが増えます。さらに、顧客との接点が増えるため、顧客の利用情報も得られ、蓄積した情報を分析することで、新たな提供価値に繋げられることも大きなメリットになります。

4.利益を最大化する利益イノベーションとは

事業を存続・拡大するためには、売上や利益を増加させることが必要であり、そのためにはビジネスモデルを如何に工夫できるかが重要になります。レイヤーズでは、ビジネスモデルの変革に着目し、提供価値から生み出される利益を最大化することを『利益イノベーション』と呼んでいます。利益イノベーションは、売上獲得機会の創出である『収益多様化』と収益化・利益化を実現する『価値獲得パターン』を掛け合わせて実現します。

収益多様化

まず一つのカギとなる『収益多様化』ですが、二つの着目ポイントがあります。顧客と企業の密着度に着目する『顧客接点』と、事業を構成するプレイヤーに着目する『エコシステム』です。『顧客接点』とは、製品やサービスを提供する中で顧客との接点を深掘りするアプローチで、購入以前、利用中、利用後の三つのフェーズに分けることができます。購入前は診断やコンサルティング、利用中は点検・修理、交換、回収などのサポートサービス、利用後では買い替え局面で新たな売上機会の創出が見込めます。
 
典型的な例は自動車販売です。提供する車体自体の価値は変わらない中、販売だけではなく、メンテナンス、アップグレードのためのアクセサリー販売などで売上機会を創出しています。継続した顧客接点の中で、製品やサービスを利用した顧客が感じた課題や問題の情報を蓄積して分析・解決を図ることで、新製品や新サービスにつながるケースも少なくありません。顧客を深掘りすることで、一人の顧客から複数の収益源を持つことができます。
 
収益の多様化を図るもう一つの有効な手法が、『エコシステム』を俯瞰するアプローチとなります。『エコシステム』とは、企業をはじめ、製品やサービスが互いに連携・共存しながら大きな収益構造を構成する状態のことをいいます。ビジネスには“川上”や“川下”にプレイヤーが存在したり、競合他社や顧客に影響する意思決定者もプレイヤーと捉えることができます。『エコシステム』に対するアプローチは、競合他社の利益を横滑りできないか、“川上”のプレイヤーを顧客にできないか、など環境・制度による収益構造のゲームチェンジをし、新たな『エコシステム』を創造していく手法です。

価値獲得パターン

『価値獲得パターン』では、『収益多様化』で創出した売上獲得機会から、どのように収益化・利益化を実現するかを検討します。パターンは多種多様です。サブスクは定期的な課金が見込め、フリーミアムでは当初は無料で一定数の顧客を集客した時点で課金を開始します。マッチメイキングでは仲介手数料、フランチャイズでも登録手数料など、“稼ぎ方”はさまざまです。例えば、サブスクは一定の収益分岐点を超えると、どんどん利益を生み出し、成功すれば、大きなリターンを見込めるモデルとなります。
 
これら『価値獲得パターン』と先に述べた『収益多様化』を組み合わせ、利益イノベーションにより、利益を最大化できるビジネスモデルを構築していきます。そのプロセスとして、まずは現状のビジネスモデルの要素を分析します。ビジネスモデルを構成する収益、売上、利益の要素を分解した上で、『顧客接点』の観点から顧客課題や顧客体験、『エコシステム』の観点から競合企業や隣接企業を分析します。それらの結果を基に価値獲得パターン、課金ポイントや課金方法などを検討・決定し、最後に定量的視点と定性的視点から利益イノベーションのインパクトを評価していく流れになります。

5.事例紹介

①日用品のリサイクルビジネス

リサイクルビジネスは、使用した製品をリサイクルし、その素材を販売する構造です。その場合、販売するリサイクル素材の売上が、製品から素材を取り出す工程のコストや販売コストなどの合計額を上回らなければ、ビジネスは成立しません。
 
ある日用品のリサイクルは社会的価値や社会的意義の高い事業ですが、その日用品をリサイクル処理して抽出したプラスチックなど素材の販売だけでは利益が見込めず、ビジネスのうまみがありませんでした。
 
そこでレイヤーズは、『エコシステム』を俯瞰し、日用品の販売が隣接事業であることに着目し、リサイクル事業に加え、日用品のリサイクル品販売を抱き合わせる仕組みを立案しました。これにより、売上としては回収した使用済み日用品をリサイクルした素材の販売に加えて、日用品のリサイクル品販売が加わりました。売上が2本柱になることで、収益化できる見込みが立ちました。
 
さらにコストが重くのしかかっていた使用済み日用品の回収では、物流・配送の工程にサブスクの視点を組み合わせました。リサイクル品販売をサブスクにすることで、販売するリサイクル品の納入と使用済み品の回収を同時に行えるようになり、負担だった回収コストの圧縮に成功し、利益を生む構造が実現しました。
 
コアの提供価値である日用品のリサイクル事業は変えないまま、事業の『エコシステム』に手を加えることで、利益が出なかった当初とは全く異なる新たなビジネスモデルとなり、利益構造も大きく変革することができたのです。

②移動販売車事業

大手コンビニも参入している移動販売車事業は、地方の限界集落など買い物難民をメインターゲットにした社会的価値が高く、ニーズもある事業です。しかし、移動効率が悪く、1台に積める商品数や商品量には限界があります。さらに店舗事業が主要なため、移動車両の台数も増えにくく、利益や収益が見込めないため、自治体から買い物弱者支援施策から補助金を受け、赤字分を補填するのが一般的なビジネスモデルでした。
 
そこでレイヤーズでは、地方や過疎地にこだわる必要がなく、都会にも買い物難民がいると顧客ターゲットを再定義しました。スーパーが充実する都会でも、自宅からバイパスなど大きな幹線道路を挟んでスーパーがある場合、高齢者が買い物に行くのは一苦労です。そのような方々もターゲットに加えると、都会では移動効率が飛躍的にアップするため、狭いエリアでフランチャイズ(FC)ビジネスが可能となりました。
 
大手コンビニでも全国で100台ぐらいの保有に対し、移動販売車事業のナンバーワン企業では全国で1000台以上保有していました。その優位性を生かしつつ、積極的なFC展開を進めることにより、FCオーナーによる積極的な新規顧客の開拓を促進しました。その結果、売上額は2倍に跳ね上がり、FCオーナーの利益も16%増えました。顧客ターゲットを再定義することで、利益を最大化するビジネスモデル変革の好例と言えるでしょう。

③学術情報提供

製薬企業の営業担当(MR)や医療品卸会社の営業担当(MS)は医療機関から依頼され、論文など学術情報を提供しています。しかし、学術情報の提供は営業活動の一環であるため、医療機関からの対価は発生しません。大手企業では社内に学術情報のエキスパートを抱え、その人件費とそれに付随する事務所スペース等のファシリティは営業コストとして計上していました。
 
そこで、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の形で、中小の競合企業をターゲットに学術情報を外販する動きがありました。しかし、学術情報はアナログで調べなければならないため、多くの人手を要します。一度受託すると、断るわけにいかず、最大需要に対応するために、人件費やファシリティコストも最大化してしまいます。その一方で学術情報販売はニーズに応じて売上が変動するため、どうしても収益が安定しません。そこで安定的に収益化できる仕組みづくりが大きな関門となりました。
 
レイヤーズでは、学術情報提供をナレッジビジネスと捉え、マッチングプラットフォームをイメージしたビジネスモデルを検討しました。プラットフォームを仲介役に据え、片側には顧客となる製薬会社や医療品卸会社、もう一方には学術エキスパートを置きました。学術提供のオーダーがあれば、プラットフォーム上で学術エキスパートとマッチングさせ、必要な時に必要な分だけ学術情報を提供できる体制を整えました。
 
この仕組みでは学術エキスパートには稼働する時だけ対価を払うようになったため、負担の重かった人件費とファシリティコストを変動費化することができました。売上はマッチングによるナレッジ仲介収入となり、顧客を増やすことで安定化が図れます。仮に顧客数が損益分岐点に達しなくても、人件費が固定費ではないため、赤字幅を大きく圧縮できます。類似のナレッジビジネスでは営業利益率20%程度を見込めます。このビジネスモデルも医療機関に学術情報を提供するコアの提供価値は変えず、人件費とファシリティコストを変動費化して赤字リスクを軽減しつつ、収益化できる構造へ変革した例となります。

6.まとめ

新たなビジネスモデルを構築していくポイントは、まずビジネスに関わるプレイヤーを洗い出し、収益を得ているポイントを『見える化』することです。今のビジネスプロセスの中で、“取りこぼし”を探す視点がとても重要となります。接点になっていない課金ポイントを発見し、新たに対価を得られる方法を探ります。新たな接点の顧客ニーズを満たす価値については、時間なのか、提供方法なのかなどを幅広く柔軟に検討しましょう。そして、収益化する上で価値獲得パターンをゼロベースで構築するのは困難を極めます。サブスクをはじめ、メンバーシップ(会員制)、YouTubeに代表されるフリーミアムなど、マネタイズするパターンはさまざまです。そのビジネスに適したパターンに当てはめつつ、その中で生まれたデメリットについては、補完する別のパターンを組み合わせ、最適なビジネスモデルを構築することが成功への近道となるでしょう。

この記事の執筆者

川副 翔太郎
川副 翔太郎
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部
マネージャー

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