2023/07/11

営業改革成功のプロセス!成功事例を紹介

#事業戦略
組織とは時が経てば経つほど、過去の成功体験に固執し変化を好まず、硬直化が進んでしまうのが常であります。しかし、利益を追求する営利企業において、その根幹の一つを成す営業部門が硬直化すれば、成長のブレーキになるだけでなく、将来的なリスク因子にもなりかねません。営業改革とは、硬直化した営業組織を見直すとともに、無駄を省き、業務を効率化できる体制を再構築することです。その一方、改革を進める上で、前例踏襲の文化や悪しきマインド、改革に伴う軋轢や摩擦など、多くの阻害要因があるのも事実です。では、真の営業改革を実現させるには、どのような手法、プロセスが最適なのでしょうか。営業改革を成功に導くポイントや自社事例を織り交ぜながら解説していきます。

1.営業改革とは

営業改革とは、自社の業績向上のために営業部門の在り方を見直し、適切な営業体制や組織に変更する仕組みづくりと言えます。短期的な売上目標達成の責任を負う営業部門は、クライアントの意向により売上・収益が左右される部門です。そのため、企業各部門の中でも保守的と言われており、売上や利益、生産性を厳しく管理しても効果が上がりづらいのが実情です。営業改革においては、営業戦略の構築にはじまり、道具・体制・推進の3つの要素を揃えて取り組む必要があります。
 
メリットとしては、業務を効率化したり、営業経費を抑制することで、売り上げや収益を向上させることができます。2つ目に、新たな市場の開拓や新規顧客を獲得できる可能性も高まるでしょう。最後に、従業員のスキルやモチベーションが高まることで生産性が向上し、働き方改革につながります。

 

デメリットは、営業経費削減などに伴い、既存の顧客取引先と関係が悪化し、一時的に売上が低下するケースがあります。また、業務フローの変更に伴い、保守的なベテラン社員から反発を招き、業務に支障が出る可能性もあるでしょう。改革にあたっては、可能な限り現場とのコンセンサスを醸成して推し進めるなど、“バランス感覚”も大事な要素となります。

2.営業部門の課題

日本企業の営業部門の課題は営業生産性が低いことに尽きます。粗利益である付加価値を、投入した営業コスト(人件費等)で割った営業生産性の数値が小さく、欧米企業の営業部門は日本企業の1.5倍~2倍稼いでいると言われています。
 
その理由は3つあります。1つ目は売る商品やサービスの価格設定が適正でなく、あまりにも低すぎるケースです。そもそも価格を上げられないと思い込んでいたり、すぐに値引きをしてしまう営業手法が背景にあります。
 
営業担当者の過剰な業務量も生産性の低下を招く要因となります。本来、商品やサービスを売ることに集中すべきなのですが、現実的には営業からの帰社後に、見積書や納品書を作成しなければなりません。営業日報など、顧客の付加価値創出につながらない仕事量が圧倒的に多すぎ、相対的に一日の労働時間の中で顧客に割く時間が少なくなります。
 
最後にアンバランスな人員配置です。日本企業の営業部門は従来、人海戦術の発想が強く、マーケティングの発想が低い傾向があります。営業の間接業務も営業部門に吸収され、各営業拠点にアシスタントを置く構造のため、総じて1人当たりの価値に換算すると、生産性が低くなります。詰まるところ、課題は『価格設定』『営業担当者の時間の使い方』『的外れな人員配置』に収斂されます。

3.営業プロセス改革の特徴

『営業対象』『営業体制』『業務内容』『業務の実施方法』の4つの切り口があります。

 

『営業対象』とは、生産性の低い営業の活動領域の見直しです。顧客や新規開拓するターゲットを変えたり、営業を行う地域を変えることで課題解決を図ります。
 
『営業体制』の視点では、顧客と担当営業のマッチングを組み換えます。顧客が少ない地域に多くの営業担当者を投入していたり、逆に多くの顧客がいるにも関わらず、人員が不足しているミスマッチを解消します。他にも、難易度の高い顧客に若手が配置されているなど、営業スキルの観点でミスマッチが起きているケースも見受けられます。
 
『業務内容』では、業務プロセスでそもそも不要な業務や過剰な業務など無駄を排除していきます。例えば、営業日報の作成をなくしたり、目的が不明確な営業会議や上長への報告フローを減らします。また、顧客データベース順に並べ替えて納品するなど、過剰サービスの業務にもメスを入れましょう。アウトソーシングや営業アシスタントへの移管など、可能な限り営業担当者が携わる必要のない業務を減らし、顧客に割く時間を生み出していきます。
 
『業務の実施方法』では、プロセスや手順を見直します。例えば、アナログで行っていた煩雑な社内手続きをシステムに置き換えたり、支店ごとでやり方が違う業務を統一したり、データを集約する際に非効率となるバラバラなフォーマットを標準化して、生産性の低い業務を効率化していくことが大切になります。

4.営業プロセス改革の成功のポイント

ファクトデータを基に改革を進めていくことがベースになります。取引額や経費、営業担当者一人ひとりの仕事量やスキルレベルなどのデータを定量情報として可視化を進めていきます。次に競合他社、異業種の違いを明確に理解することも大事でしょう。そして、何より営業改革の肝となるのが、現場のモメンタムの変容です。現場の営業担当者が改革を自分ごと化するためには、意識を高め、メンタルやマインドチェンジを図った上で改革に対するコミットメントを得ることが重要となります。
 
成果直結型が生業の営業担当者の気質として、自分にとって効果があると思えるモノ、目に見えた実績や成果が出るモノ以外、信用しない傾向があります。抽象的な話ではやる気を引き出すのが難しい一方、利益アップや顧客増、クレーム減などの成功事例が出てくることで、徐々に「自分にとってもいいことありそうだな」とマインドの変化が見られるようになります。改革の目的や方向性の『認知』に始まり、『理解』や『支持』といった気持ちの変化とともに試行・実行につなげ、『適応』や『浸透』の段階を経て体質化し、ルーチンとして実行できる『自分ごと化』へ促すフローが理想的です。

5.営業改革の事例

代理店チャネルの最適化

①クライアントの課題

主力事業の成長を支えてきた代理店・特約店網は、3,000店以上にものぼる兆大なチャネルでした。市場が成長し、年々販売数が伸びている環境下では代理店は有効に作用していましたが一転、成長が鈍化し販売数が伸びなくなると、代理店の非効率性や不透明性が浮き彫りになりました。
 
販売数を伸ばすため、代理店には多くのサポート人員が投入されていた上に、代理店のモチベーションを高めるため、過剰な販売奨励金が各エリアに個別に投入され続けていました。消耗の激しい戦い方に変貌し、代理店の利益率も年々低下の一途をたどっていました。

 

②レイヤーズのアプローチ

非効率な販売プロセスの根本的な原因として着目をしたのが、取り引きの中で発生する販売奨励金です。活き金なのか、死に金なのかの見極めを行うと同時に、販売奨励金が有効に作用しているのかを調査していきました。すると、代理店によっては13種類もの名目で、販売奨励金が支払われていましたが、その大半が販売成長につながらない値引きであることが判明したのです。
 
このような複雑かつ不透明な取り引きは、多くの手間がかかり、組織的管理が不可能となるため、代理店向け価格制度のシンプル化・標準化という形でメスを入れることにフォーカスを絞りました。さらに、見積もりプロセス自体も抜本的な変革に着手し、現地で営業担当者が個別に見積もりをしていた文化を見直した上で、AIを導入しました。これまで「値引きをする」「スピードが遅い」という人的問題がありましたが、AI化を図ることで見積もり提示スピードが早まるとともに、本部主導のプライスコントロールを実現しました。
 

③成果と顧客満足

価格制度の標準化と見積もりプロセスAI化の導入前は、代理店から多くの反発が生まれ、取引離反が発生することが危惧されていました。ところが、全国各地の代理店に対して説明を進めていくと、想定以上に代理店から理解が得られ、離反を示唆する代理店の発生数も最小限に抑えられたのです。むしろ、代理店側はフェアでオープンな取引体系を望んでいた潜在ニーズも感じられました。
 
一方、この変革への対応に難色を示したのが、自社の代理店営業担当者たちです。これまで営業活動の多くの時間を、値引きや販売奨励金の調整に費やしていましたが、その工数がほぼなくなり、自分達の活動の向け先を見失いかけていたのです。ただ、その余力を本来やるべきだったエリアマーケティング活動や代理店に対する販売指導・フォローなど、付加価値の生まれる領域へ向けることで、代理店及び自社の双方の成長促進につながる形で好転していきました。結果的には数年後、代理店チャネルの利益率の大きな伸びにつながりました。

 

6.まとめ

営業部門はその企業組織の中で生産性が低いまま取り残された部署や機能であるケースが多いです。一方で、営業部門は一人ひとり生身の営業担当者が顧客や取引先と密接に関わる外部との接点でもあります。改革において、最大の障壁となるのが、凝り固まった営業担当者のモメンタムでしょう。その前向きな変容を実現するためには、丁寧かつ丹念に改革の手順を設計し、理解と腹落ちを促しつつ意識改革を進めていくことが肝要となります。

この記事の執筆者

佐藤 隆太
佐藤 隆太
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
事業戦略事業部 副事業部長
マーケティング戦略ビジネスユニット長
マネージングディレクター

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