2025/02/05NEW

AI時代に備える生産計画 ~基本の”キ”から最新情報まで~

#サプライチェーンマネジメント
2024年度のノーベル物理学賞と化学賞をAI研究者が受賞したことをはじめ、世界のトレンドの中心となるAI。生産計画においてもAI活用の波が押し寄せています。この波に乗り遅れまいと「AIを導入したい」という声をよく耳にしますが、残念ながらAIは打ち出の小槌ではありません。

本コラムではAI×生産計画を正しく理解いただくため、生産計画にAIを導入することでどういったメリットがあるか、AIを入れるためにやるべきことは何か、AI時代を迎えるにあたっての生産計画策定のポイントはどこにあるのかをご紹介いたします。

生産計画とは?
~今さら聞けない考え方とAIの活かし方~

生産計画とは?

生産計画は、製品を過不足なく、かつ効率よく生産するための重要なプロセスで、企業の利益を最大化するために欠かせないものです。計画は、需要の正確な予測と、設備・人員といったリソースの適正配分により、効率的なものとする必要があります。

 

生産計画には、一般に大日程計画・中日程計画・小日程計画の3種類あり、それぞれの目的を達成する形でサイクルを回していく必要があります。

 

a) 大日程計画
四半期~年間単位での概算生産量を決め、生産のために必要となる生産設備や人員投入といった、準備に時間を要するリソースに関する計画となります。
b) 中日程計画
1~3か月単位で、納期に間に合わせるためにいつ製造着手すればよいか、また製品・部品に関して、どの品目をどれくらい製造するのか、製造のためにどの程度原材料を調達するのかを定めた計画です。
c) 小日程計画
日次単位で、いつ・どの品目を・いくつ・どの設備で・誰が担当するのか、また、どの仕入先から・いつ・どの品目を・いくつ納入してもらうか、現場担当者が動ける細かい単位で策定する計画です。

【図1】生産計画の種類

生産計画とAIはどう活かせるか

上記のようなミッションを実現するうえで、AIは多面的に活用可能です。まず大日程に対しては、AIによる機械学習や時系列分析による需要予測と、その結果に基づくシミュレーションにより、生産設備や人員計画の精度向上が期待できます。

 

次に中日程に対しては、刻一刻と変化する市場動向を、自動計算によって在庫・調達計画へ柔軟かつ迅速に反映可能となります。最後に小日程計画に対しては、急な注文変更や材料調達遅延、設備故障や欠勤によるリソース不足が発生した場合にも、速やかに影響範囲や代替案が提示されるようになります。

 

こうしたように、生産計画にAIを活用することのイメージはそこまで難しくありません。故にとにかくAIを入れればうまくいくと思われがちですが、実際にはそうではありません。AIを活用する上での壁は何か、そしてその壁を打破するためには何をすべきか、次項以降でご説明します。

AI導入の壁① 属人化した計画策定

生産計画策定は先に記した通り、考慮すべき因子が多岐にわたり、かつ複雑に相関します。そのため、誰でもできるものではなく、ごく一部の担当者が職人技によって作り上げているケースがよく見られます。そして限られた担当者が持つノウハウや判断基準は、勘と経験という暗黙知となっており、策定された生産計画の妥当性や根拠が分からないといった状態になっている企業が多く見られます。属人化から脱却するため、AIに期待する人が多く見られますが、残念ながら、この状態でAIを入れて自動化したとしてもうまくいきません。なぜなら、AIが計画策定するために収集すべき情報や、収集した結果から生産計画に落とし込むための基準が明確になっていないためです。

 

その理由は2点です。まず、計画策定が属人化すると、その人の業務状況により作業遅延が発生する、あるいは突発的な不在が発生した場合リカバリすることができず、業務が停滞するリスクを有することになります。また、計画策定の根拠が他人から見えづらくなり、業務の改善・精度向上が行いづらくなります。

 

属人化された状態を解消するためには、生産計画の立て方や判断基準を明確化し、ドキュメントにまとめることで暗黙知を形式知とすることが求められます。長年積み重ねたノウハウの形式知化は簡単ではありませんが、どういった情報を根拠としているのか、どういった制約条件があるのか丁寧に情報を整理することで、計画の根拠を視える化していきます。

 

明確となったルール・判断基準をAIにインプットすることで、生産計画策定業務へのAI活用が可能となります。

AI導入の壁② バラバラなままのデータ

AIが要求に対する回答を生成する際のよりどころは言うまでもなくデータです。データが正しくなければ、正しい回答を導出することはできません。しかし、長年の企業活動の中でシステム導入やデータ追加を都度行ってきたが故に、複数システムで連携なく管理がされている、システム間でデータが紐づかない、取引先や品目等の同一データが部門ごとやシステムごとに複数存在してコードも異なる、といったようにデータがバラバラな状態が多く見られます。こうした状態で生産計画にAIを導入したとしても、正確な予測・推計を行われない、データ処理が複雑化することによってより時間がかかる、データの矛盾を都度手動で調整しなければいけないといった状態に陥ります。

 

AI導入の効果を最大化するには、計画の基盤となる情報を明確にし、それをどこから収集するか整理することが重要です。また、拠点や部門間で粒度、単位等形式が異なるデータがある場合、これを統一することが求められます。

 

バラバラなデータを一元化するための方法として、一般的には基幹システムを全社で導入することによって、各拠点・各部門の情報を整備する方法があります。しかし、基幹システム導入には多大な時間と費用を要してしまうことも事実です。そのため、基幹システム構築に先んじて各システムのデータを統合基盤に集め、AIが正しいデータを正しい方法で処理できるよう、共通で使用できるようにデータの加工・変換を行う仕組みを構築することも一つの方策となります。

【図2】各事業・各拠点のデータを標準化して統合管理

AIがもたらす生産計画の変革と選定のポイント

AI技術の急速な進歩は言うまでもなく生産計画領域においても例外ではなく、AI生産計画システムは雨後の筍のようにリリースされています。ではAIが入ることで生産計画業務はどのように変わるのでしょうか。

 

まず、人の作業よりもはるかに多くのパラメーターを効率的にインプットできるため、計画策定の効率と精度が上がります。急な計画変更が必要となった場合も、一から作り直す必要がなくなり、迅速かつ高い精度で精度高く対応できるようになります。効率的な計画策定ができますので、残業を減らすことにも寄与します。手作業がなくなることで、誤発注や発注モレ等、人的ミスもなくなります。

 

また、先述したような業務の属人化はなくなり、ノウハウを継承しやすくなります。業務や情報をしっかり整理することが前提となりますが、新入社員でも計画策定が容易にできるといった事例もあります。

 

現段階では、搭載されたAI機能は需要予測を中心に活用されていますが、少しずつ他の面でも活用が図られています。システムの選定にあたっては、これまで自社業務の特色や現在の業務・データの取得環境、目指すべき将来像を整理した上で、費用対効果、機能充足度、操作性を評価してきました。AI搭載のシステム導入にあたっては、従前の要素に加え、日々進歩するAI機能をどれほど取り込むことができるか(=拡張性)やAIが最新データを取得数する頻度等、多角的な視点で自社に合ったシステム選定が必要となります。

まとめ

ここまで、生産計画業務においてAIを導入するにあたってやるべきこと、ならびに選定のポイントを紹介してまいりました。ご紹介した内容は、AI導入の有無に関わらず多くの企業が抱えている生産計画業務における課題とほぼ同等とお分かりいただけたかと思います。

 

当社では、属人化した業務の標準化やバラバラとなったデータを整備するご支援をこれまで実施してまいりました。こうした課題が起きてないか不安、あるいは課題は認識しているものの手の付け方が分からないといったお悩みがありましたら、ご相談ください。またシステムの選定に関しても、当社は特定のシステムに固執せず、中立的な立場での選定支援の実績もございます。何を選べばよいかお困りでしたら、お気軽にお声かけください。

この記事の執筆者

赤堀 和樹
赤堀 和樹
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
SCM事業部
マネージャー
ビジネス用語集
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