SCMを昭和から令和にアップデート
~シン・PSI計画の必要性~

今日の市場環境は、顧客ニーズの多様化や中東・ウクライナ紛争、自然災害といった不測の事態に日々さらされています。一方で、日本の製造業においては、中長期の計画を立てて忠実に実行する、いわゆるPDCAサイクルに従う“昭和のスタイル”が生き続ける企業が多く見られます。市場変化やリスク顕在化に対する反応の遅さも目につき、その結果、品質・納期に気を取られるあまり損益管理がおろそかになり、本来得るべき適正利益を確保できていません。
 
VUCA時代といわれる現代においては、日本企業の強みである品質・納期に加え、どのような状況でも利益を確保し続けるマネジメントを強化していくことが競争力の鍵となります。
そこで本記事では、令和の時代に対応するためのSCM実現のノウハウを紹介します。

令和時代に求められるSCMとは

昭和から続く従来のSCMは、計画を立てて実行し、その結果を評価して次の行動に生かす、といういわゆるPDCAサイクルを実行するというもので、平時における中長期的な計画と継続的な改善に適していました。
しかし現代においては、急速に変わる市場と複雑化するグローバルな競争環境の中で、柔軟で俊敏なサプライチェーンが求められています。従来のPDCAから脱却し、OODAループのように観察と情勢判断によって現状を素早く察知し、察知した段階で意思決定し行動する、という動きをハイスピード・ハイサイクルで遂行することが求められています。一方で、単にこれらを実行しようとしても、様々な障壁によって一筋縄ではいかないケースが多く見受けられます。

従来の日本企業の多くは、顧客が求めるモノをいかに納期どおりに納品するかという供給視点が優先されてきました。そのため状況の変化においては、納期・品質を守ることを重要視し、損益に対する影響の把握は後回しにされ、事後に把握されるというケースが散見されます。現代においては納期や品質だけでなく損益はもちろん、環境や人権といった持続可能性の要素を含めた影響を同時に考慮する必要があります。

加えて、こうした影響把握をスピーディーに行ったうえで、迅速な意思決定を下す必要があります。
しかし、多くの企業は変化の察知をタイムリーに行えていないばかりか、変化に対し最適なアクションを適時に打てていない状況です。変化に対する対処を迅速に行うだけでなく、リスク発生の高まりを事前に察知し、手立てを講じることも十分にできていません。

令和のサプライチェーンマネジメントを実現させるためには、こうした障壁を取り除く必要があります。こういった課題解決のためにどのような取り組みをすべきか、次項よりご説明します。

【図1】令和のSCMのあるべき姿と解決すべき障壁

損益視点を欠かさない

従来のサプライチェーンでは、品質や納期が重視される一方、利益管理は月次や年次での会計の締めに合わせた事後確認にとどまり、結果として利益を圧迫するケースが散見されました。しかし、グローバル競争が激化する現代においては、品質・納期の優位性を維持しつつも、利益を最大化する方法で供給できているか迅速に評価・判断し、意思決定を行う必要があります。

そのためには、今までのように事前に策定した販売・在庫・生産計画(以下、PSI計画)に基づく損益確認だけでなく、有事発生時には早急にPSI計画の見直しを行い、その都度損益のシミュレーションを行う必要があります。場合によっては、事前に計画した生産配分ではなく、各拠点における製品別実際原価を踏まえた損益シミュレーションを通じて、生産拠点の変更等の意思決定を迅速に行う必要があります。
損益シミュレーションを行うためには、販売・在庫計画をもとに生産計画を策定する際、負荷能力計算に加えて、各拠点の損益分岐点を考慮する必要があります。その後、計算結果に基づき、P/L上での収益性評価、B/S上での利益率評価、C/F上での資金繰り評価を行っていきます。

ある大手家電メーカーの事例では、需給調整プロセスにおいて、PSI計画の策定とともに、各拠点のP/L・B/S・C/Fも作成し、納期だけでなく各拠点の損益分岐点に対する収支状況を確認し、必要に応じて拠点間での配分見直しを行うようにしました。従来行っていた月次での意思決定を待たずに、変化があった場合には都度確認を行い、全社としての利益が最大となるようにスピーディーな意思決定を行っています。
また損益だけでなく、近年では環境や人権に関する影響把握も必須条件となります。環境については、生産拠点や物流等の情報をもとに温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、環境負荷を定量的に評価する必要があります。人権については、仕入先・委託先における生産地域・状況等を定期的に評価し、リスクを加味したうえでサプライチェーンを決める必要があります。

【図2】損益視点を欠かさない

昭和の3Kマネジメントからの脱却を

企業経営を左右するPSI計画の策定業務が属人化され、特定の従業員に業務がかたより替えがきかないという企業が今日も数多く見られます。なぜなら、計画策定に必要となる考慮すべき事項が多岐にわたり、熟練の担当者が「経験」と「勘」を頼りに、「根性」の手作業(Excel)で作りあげる従来の典型的なオペレーションから脱却できないためです。しかし、変化が激しい現代においては、過去の「経験」はあまり役に立たず、「勘」と「根性」だけでは立ち行きません。

現代のSCMにおいては、情報を正しく収集・分析し、PSI計画への反映を高頻度・短いリードタイムで実施しなければなりません。加えて自社だけではなく、子会社や委託先を含むグローバルの各拠点を含めたグループ全社一気通貫で最適化することが必須になってきています。膨大な情報の処理とリアルタイム性の両立は当然ヒト作業では成し遂げられません。ゆえにDX化が必要となってきます。

【図3】PSI計画は3Kからデジタルへ

このようなPSI計画の策定における多様な情報を取得・分析し、過去の傾向等から最適な数量を導出し、その場合の損益を算出する業務については、DX・AIが得意な分野であり、人作業による抜け漏れを排したシミュレーションを行うことが可能となっています。
以前はこのような業務を実現するまでの仕組みづくりに多大な期間と投資が避けられませんでしたが、近年では需給調整用のパッケージツールが複数リリースされております。これにより自社でやりたいシミュレーションが可能なパッケージを選択できるようになり、以前と比較して短期かつ安価での導入も可能になっています。

加えて重要なポイントは、必要情報の整備・収集です。計画策定・見直しにおいて、多くの工数を要するのは、拠点や部門の垣根を越えて様々な情報を収集・精査していくことです。しかしながら、必要な情報が一元管理されていないことが多く、そもそも各拠点によって情報の整備レベルが異なっています。一般的には、基幹システムを全社で導入することによって、各拠点・各部門の情報を整備できますが、基幹システム導入には多大な時間と費用を要してしまうことも事実です。そのため、基幹システム構築に先んじて各システムのデータを統合基盤に集め、共通で使用できるようにデータの加工・変換を行う仕組みを構築することも一つの方策となります。

【図4】各拠点のデータを標準化して統合管理

多様化するリスクの管理を強化し、先手を打つ

現代においてはリスクも例外なく多様化しています。こうした市場環境に順応するうえで重要なポイントは、有事が発生した場合迅速に影響を把握し、対策をとることです。さらに、有事発生の前にその発生のリスクを織り込み、先回りして備えることができればそれに越したことはありません。

有事発生リスクは大きく分けると、地政学リスクと重大インシデント発生リスクの2つに分類されると考えられます。地政学リスクについては、国家間紛争やテロ、災害等予見が難しいケースが多いため、各種情報のアップデートや対策の検討を常日頃から実施しておく必要があります。
一方、重大インシデント発生リスクについては、発生要因を洗い出し、各要因の変化を察知するための先行指標(KRI: Key Risk Indicator)を設定し、日々モニタリングすることが効果的です。

例えば、自社工場の生産停止を重大インシデントと置いた場合、その発生要因として人財不足・部材供給不足・設備故障等が挙げられます。こういったリスクは発生してしまうと、自社工場の生産停止となり、損益に与える影響があまりにも大きすぎるので、事前に先行指標であるKRIを設定し、管理する必要性があります。例えば、従業員の離職率・供給チェーンの遅延発生率・取引先の財政情報・設備の歩留率等をKRIとして設定し、日々モニタリングします。あわせてリスク発生確率が高まった際の対応策として、従業員の追加採用・代替サプライヤーとの取り引き・代替設備の調達等の方策を予め定めておきます。

これにより、設定したKRIのいずれかが変動した場合に、自社工場の生産停止という重大インシデントの発生を事前に予測するとともに、そのインシデントが発生した場合への対応策を事前に検討することで、重大インシデントが発生した場合でも迅速に対応することが可能になります。

【図5】サプライチェーンの有事発生リスクを先回りして管理

まとめ

ここまで紹介してきたように、先行き不透明な令和の製造業界を勝ち抜くため、サプライチェーンのハイスピード化の必要性は待ったなしの状態です。そのために必要な取り組みとして、損益も視野に入れたマネジメント、計画策定業務のデジタル化、そしてリスクを先回りしての管理を挙げてきました。
しかし、多くの企業ではこれらの足かせとなる部門間のしがらみや、情報・データの分断が見られるのもまた事実で、読者の皆様も心当たりがあるのではないでしょうか。

当社では部門を横断しての業務改善や企業全体における情報の一元管理の支援を多数実施しております。ここまで記した内容の実現方法や、実現にあたってのお悩みポイントがございましたら、お気兼ねなくご相談ください。

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この記事の執筆者

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