これからの業務改革のススメ
~コスト増やBANIに対応するために~
そこで今回は、業務改革を実践するうえでの2つのポイントをご紹介いたします。
いま求められる業務改革の進め方のポイント
「生産性向上に向けた事業構造改革~第2のルイスの転換点への対応~」のとおり、日本では第2のルイスの転換点を迎えています。今後も国内の労働人口は縮小し続け、人件費は上昇していくと想定されることから、コストの上昇に見合うように生産性を高めることの必要性が高まります。実際に、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた「企業IT動向調査2024」にも、業務プロセスの効率化(省力化、業務コスト削減)が重要な投資領域であるという結果が報告されています。
また、生成AIによる事務業務の省力化の実現やERP標準機能を活用したうえで、周辺機能をSaaS型のアプリケーションで補完し、効率化や統制強化の取り組みが複数企業で行われていることを考慮すると、生産性向上やコストダウンの取り組みは、その時の技術・サービスの動向を踏まえて、スピーディーに・小回りの利くかたちで対応することが重要です。
以上のことから、これまでの業務改革の取り組みで行われてきた大規模なプロジェクトで対応するよりも、新しい技術・手法を都度取り込みながら小規模な改革をスピーディーに繰り返していくほうが時代に適しているでしょう。では次項より、こうしたスピーディーかつ連続的な改革を進めていくポイントとして、以下の2点をご紹介いたします。
ポイント①「身の丈に合ったゴールを設定すること」
ポイント②「小規模・連続的な改革を実現するための仕組みを作ること」
【図1】これからの業務改革の取り組み概要
「身の丈に合ったゴール設定」の考え方・進め方
本章ではポイント①「身の丈に合ったゴールを設定する方法」をご説明いたします。
業務改革の取り組みを始める際に、まず現在の業務内容を確認します。自社の業務の種類やパターンを棚卸し、各業務がどのように実施されているかを確認します。そのうえで、【図2】のレベル定義に基づき、現在のレベルを業務別に判定します。このレベルの基準は場当たり的で管理されていないやり方をレベル1とし、最適化して再現性のあるやり方をレベル5としています。
次に、最終的になりたい姿(レベル)を関係者で議論して整理します。取り組みのゴールとしては、全社的なミッション・パーパスや中・長期経営計画、組織機能別の目標等の取り組みの背景や経緯に応じて様々なものがあると思いますが、ここでは業務別にそのゴールを実現するための最終的なレベルと内容を設定することが重要です。
ただし、いきなり最終的なレベルを実現することは難しい場合があります。そのため、一度の取り組みで実現するのではなく、頑張れば実現できる・身の丈に合ったレベルを設定しておき、更なるレベル向上は次の機会にするという段階的な取り組みを計画することがポイントです。また、すべての業務でレベル5を目指す必要はなく、重要性の低い業務や競争力の源泉にならないような業務は、現状維持やレベルを下げることも有益です。
【図2】業務の成熟レベルの基準
段階的な業務レベルの向上の取り組み事例の紹介
ここでは、前章で紹介したポイント①に関する営業部門の業務改革事例を紹介します。
当社がご支援したある企業では、組織的営業の実現を改革目標に設定していましたが、現状の業務実態は営業日報をグループウェアに記録している程度にとどまっていました。日報の内容はテキストベースになっており、報告すべき事項も決まっておらずバラつきがある等の課題があり、レベル1と判定しました。
目標を達成するためには、レベル4程度までレベルアップする必要がありましたが、今回はまず業務をシステム化することをゴールに設定しました。その背景として、営業担当者が収集すべき顧客情報も定義されていない等の問題から、組織的に営業活動を管理・支援する土台となる顧客情報が十分に記録・管理できていないため、システムや仕組みの導入だけでは定着しないと考えたからです。
今回はレベル2~3にあたる収集すべき顧客情報や営業活動の管理項目を定義し、簡易的な営業管理ツールを導入するとともに、それを運用するための仕組みやツールの整備(チェックリスト、営業会議の内容の整備等)を行いました。この取り組みの運用の実行後には顧客情報をシステムに記録し、その情報を活用した会議を運営することで、組織的営業の基礎が実現できてきました。
現在は、次のレベル4をゴールにした顧客戦略の立案・管理のやり方、営業管理ツールの高度化、プロアクティブな営業活動を実行する仕組みの構築を開始しています。
小規模な改革を連続して実行するための仕組みの紹介
ポイント②「小規模・連続的な改革を実現するための仕組みを作ること」では、複数の施策の取り組み実績がございますので、今回はその中の「業務の文書化」の施策支援事例をご紹介しながらご説明します。
当社でご支援した某企業では、SFAを導入し営業業務改革を行った際、当社がご支援した某企業において、SFAを導入し営業業務改革を行った際、SFA導入の要件定義やテストがある程度完了したタイミングで、「次にどのようなアクションを行えば新システムの運用がうまくいくのか」とご相談をいただいたことがあります。そこでまずは、新システムのマニュアルを整備することをご提案しました。マニュアルがないと社内で新システムの運用を正しく広めることは困難なためです。
マニュアルを整備するにはAs-Isを理解する必要がありますが、As-Isでよくある課題は「格納場所が集約されていない」「最新版がわからない」「一気通貫で業務の流れが記載されていない」が挙げられます。To-Be業務では、まずマニュアル体系を整え、その体系に沿って内容を整理・記載する必要があります。合わせてマニュアルを更新する際のルールまで整備しておくとよいでしょう。マニュアルが作成できた後は社内への教育を行います。運用が定着し、習熟したタイミングで次の営業改革は何を行うか、SFA開発ベンダーを巻き込みながら検討することで、連続的に改革を進めることができます。
業務改革をひととおり実施して運用を開始する際に、改革を行った業務の内容を文書化することにより、業務担当者へ新業務内容を的確に伝えることができ、スムーズに実行してもらうことが可能となります。
マニュアルについてのポイントは他にもありますので、次項にてご紹介させていただきます。
業務改革後のマニュアルのポイント
マニュアルについてのポイントは業務の手順だけでなく、改革した業務の目的や重要性を記載することです。業務担当者にその意義を適切に理解してもらい、意識を高めてもらうことが重要となります。これにより、業務担当者には記載された進め方をこなすのではなく、より合目的的な行動を促すことや、次の業務改革に向けた課題や今回の業務内容の問題点を幅広く抽出することが期待できます。
上記のポイントを達成するために、当社では【図3】のような体系で業務を記述した文書を作成することをご提案し、【図3】の文書の体系は様々な切り口・粒度でまとめ、前章に挙げたポイント②を満たせるように設計しています。
実際の取り組みにあたっては、重要視する切り口等に応じて項目や文書の種類を追加する等のカスタマイズをして対応していますが、このように多面的に記載することで、業務改革の取り組みに参加するシステムベンダーやBPO事業者等の外部の関係者にとっても理解しやすくなるだけでなく、通常の運用時にも社内の他部署からの異動者や新任者への教育資料としても活用できます。また、業務改革の活動を一過性のものではなく連続的なものにして取り組んでいくことが可能になります。
【図3】アウトプット資料の体系
今回の記事では、人件費の高騰や新技術が次々と台頭する時勢の中で、スピーディー・連続的な改革を実行していくためのいくつかのポイントをご紹介しました。この他にも組織面での仕組みづくりや、早期の改革施策の導入による改革機運の醸成という様なポイントがありますので、また別の機会にご紹介できましたら幸いです。




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この記事の執筆者
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八向 到事業戦略事業部 副事業部長
マネージングディレクター
新規事業開発担当 -
中谷 賢治事業戦略事業部
プロフェッショナルディレクター -
秋元 瑞稀事業戦略事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション