さあ、“DX成功サイクル”へと入りましょう!

DXは業界・部門を問わず浸透し、あらゆるビジネス現場で耳にするワードとなりました。
DXが浸透した反面で、多くの人が課題を抱えています。

「DX担当となったが、デジタル戦略を決められない」
「全社で活用できるはずのデータが一部でしか使われない」
「DXの取り組みを行っていたが、途中で止まってしまった」

これらの課題がDX成功の阻害要因とならないためにも、目指すべき“DX成功サイクル”とは何なのか、プロジェクト事例等をもとに紐解いていきます。

イノベーティブなDXが進まない日本企業

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が発行する『DX白書2023』では、80を超える様々な観点から日米企業におけるDXの取り組みが比較されています。
日米間に存在するDX推進の進行度の差が如実に表され、国際社会での企業間競争に晒される日本企業には厳しい現実を示すデータが並んでいます。
(2024年6月27日に同法人により『DX動向2024』が公開されました。『DX動向2024』内データをもとにした考察については、後段で補足させていただきます。)

まず<DXの取り組み時期>の調査を見ると、「2016年以前」が日本8.8%・米国20.4%と差があり、日本企業は、先進的な米国企業と比較するとやや遅れてDXに動き始めたと言えます。
但し、DXに取り組み始めたという意味で言えば、その後2018年には米国にほぼ追いつきました。

しかし、残念ながら日本企業でのDXは、大きなイノベーションを志向するものとなっておらず、そのことは<DXの取り組み内容と成果>の調査において顕著です。
「アナログ・物理データのデジタル化」・「業務の効率化による生産性の向上」の2項目に対しては、「すでに十分な成果が出ている」・「すでにある程度の成果が出ている」を合わせると、日本76.1%・78.4%、米国83.2%・79.1%と差は小さい一方で、「既存製品・サービスの高付加価値化」・「新規製品・サービスの創出」・「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」・「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」・「企業文化や組織マインドの根本的な変革」の5項目では、日本35.8%・24.8%・46.3%・21.5%・31.6%に対して、米国70.1%・66.8%・66.4%・71.3%・69.0%と非常に大きな差が生まれてしまっています。

【図1】DXの取り組み時期、DXの取り組み内容と成果

“DX成功サイクル”へと入るためのポイント

イノベーションを起こすDXで成功を収めるにはどのようにすればよいのでしょうか。
まず、経営陣によってDXそのものが目的として掲げられるのではなく、全社的な大きな目標達成の手段としてDX施策が位置づけられることが重要です。
各部門が目標を因数分解して達成に向けて邁進できる、明確かつポジティブな目標がよいです。

次に、推進体制ですが、プロジェクトチームに業務部門・IT部門の両者が参加する必要があります。
プロジェクトを進めるうえでは、システム・ツール導入と業務プロセス改革が並行して議論される必要があります。新しいシステム・ツールに合わせて業務のプロセスを変えること、また競争力に関わる点ではシステム・ツールのカスタマイズを考えること、この2点を業務部門・IT部門の両者がそれぞれの視点から意見を交わすことが求められます。

そして、単にシステム・ツールを導入して終わりではなく、継続的な進化が企画されていく必要があります。全社目標に対してどれだけ貢献しているか、どうすればさらに効果が高まるか、効果検証によって現在地を確認したうえで、次のDXの取り組みにつなげていくことが求められます。

私が過去に携わった大手電気機器メーカーのプロジェクトでは、“新製品をどんどん出す会社になる”というポジティブかつ明確な目標の下で、製品開発プロセス改革及びデジタル活用に取り組みました。プロセスに関わる全部門がプロジェクトチームに参加し、新しいデジタルツールの活用や、新しい業務プロセスにおける役割分担のディスカッションが前向きに展開されました。結果、製品開発のリードタイムが短縮し、新製品の発表も以前より増えています。さらに、プロジェクトチームは新しいツールの導入後も継続的に改善の議論を重ねていきました。

【図2】DX成功サイクル・失敗サイクル

組織の壁を越える必要性は認識しているが…

さて、『DX白書2023』のデータをさらに見ていくと、日本企業はDXを進めるためには組織の壁を越えた協力が必要だと認識しているものの、実現しきれていないという歯がゆい状況が浮かび上がります。

<DX推進のための企業文化・風土の状況>についての調査に着目すると、今後あるべき姿として実に97.3%の日本企業が「必要である」と回答したのが、「職位間や部門間含め社内の風通しがよく、情報共有がうまくいっている」です。
一方で、現状「できている」と回答している日本企業は17.3%にとどまり、多くの企業が「必要だができていない」状況に陥っています。(この点、米国企業では66.8%が「できている」と回答していて差は歴然です。)また、<経営者・IT部門・業務部門の協調>の調査においても、「十分にできている」と回答した日本企業はわずか5.9%、「まあまあできている」を合わせても37.1%です。

結果として導入したシステムも、思い描く理想の姿よりも活用範囲が限定的になっています。<ITシステムに求める機能の重要度>の調査では、「部門間で標準化したデータ分析基盤」について、「重要である」・「まあまあ重要である」と回答した日本企業は合わせて64.4%であり、米国企業の65.0%とほぼ同じ認識を示しています。

しかし、<ITシステムに求める機能の達成度>の調査では、「部門間で標準化したデータ分析基盤」を「達成している」が37.1%、「まあまあ達成している」まで含めると80.1%にも及んでいる米国企業に対し、日本企業で「達成している」のはわずか4.6%、「まあまあ達成している」を合わせても28.5%にとどまります。

【図3】部門間協調の必要性に対する認識と現状

最新のDX動向で注目したい日本企業の変化の萌芽

IPAは、上述した『DX白書2023』から調査項目の大部分を引き継ぐ形で、日本国内における調査データを鮮度の高いものにアップデートする形で取りまとめ、2024年6月27日に『DX動向2024』を発表しました。
本コラムで取り上げた調査においても、<DXの取り組み内容と成果>・<DX推進のための企業文化・風土の状況>・<経営者・IT部門・業務部門の協調>の3つの調査データについて、最新の調査結果が発表されています。

調査結果に注目すると、直近1年間において劇的な変化が起こったと述べるまでには至りません。しかしながら、<DXの取り組み内容と成果>の調査において、「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」で成果が出ている企業の割合(「すでに十分な成果が出ている」・「すでにある程度の成果が出ている」の合算値)が、46.3%から52.9%に増加しました。また、<経営者・IT部門・業務部門の協調>の調査においても「十分にできている」・「まあまあできている」とする企業がそれぞれ増加しました。

DXを活用して組織の壁を超える改革・全社一体となった改革が、少しずつではあるものの着実に前進していることが示されたため、今後も各企業での取り組み拡大とそれに合わせたプロダクトの進化が予想されます。組織横断でのプロセス改革を通じて十分な成果を得るためのトランスフォーメーションが、各企業において必須の時代が到来している、と言えるでしょう。

【図4】2023年度における日本企業の変化の萌芽

DX成功へレイヤーズがご支援できること

ここまで述べてきたようにDXの実現においては、全社的な戦略・目標に紐づいてDX施策が位置づけられること、そして施策実現に向けて業務部門・IT部門が一体となることが重要となります。

私が関わったプロジェクトの事例を、もう一つご紹介させていただきます。
大手住宅設備メーカーにおけるグループ連結管理会計システム構築・運用の支援では、管理会計へ新しい切り口を導入するチャレンジングな目標を掲げたうえで、業務部門・IT部門・海外グループ会社を巻き込んだプロジェクトチームで進めていきました。
特にキモとなったのは、現地システムと本社システム間のデータ連携を実現するマスターマッピングであり、システム構築フェーズから稼働後の運用フェーズに至るまで、現地各担当者と本社が協力してスピーディに対応するコミュニケーションサイクルを確立していました。
プロジェクトチームを組んでいた業務部門・IT部門両者の間に向けて、システム上で実現したい業務内容・業務内容のシステム実現方法をそれぞれ整理しながら合意を取ることで、私たちも泥臭く中身に入りながらプロジェクトを進めていった事例となります。

レイヤーズでは、戦略策定・業務改革・システム導入/運用、それぞれの局面で貴社のイノベーション・DXに必要となる力をご支援させていただきます。

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この記事の執筆者

  • 越智 啓仁
    越智 啓仁
    DX事業部
    マネージャー

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