会計システム刷新

【第20回】Fit to Standardって何?
どうやって実現するの?

◆この記事の要約

本記事では、ERP・会計パッケージ導入でアドオンやカスタマイズの山を避ける「Fit to Standard」の考え方と実現方法を解説します。Fit & Gapの蹉跌を踏まえ、Fit to Process/Fit to Data、標準機能の使い倒しとユーザー主体の推進で、塩漬け状態から脱却するポイントを整理します。

  • Fit & Gapの蹉跌:追加開発(アドオン・カスタマイズ)が保守運用費用を増大させ、最新バージョンを使えない塩漬け状態となり、迅速な経営意思決定の足かせとなり得る。
  • Fit to Standardとは:標準機能に業務プロセスを合わせ、カスタマイズを最小限にして導入コスト削減・期間短縮・メンテナンス容易化を狙う。鍵は「Fit to Process」と「Fit to Data」。
  • 実践ポイント(システム面):標準機能の理解、業務のシンプル化、クラウドサービス/RPA/ローコード・ノーコード/BIツールの標準機能の組み合わせ、上流システムを含めたシステム機能配置の最適化。
  • 推進ポイント(プロジェクト面):経営・業務・システムのグランドデザイン、As-Is調査(プロセスマイニング活用)、Fit to Standardの腹落ち、ユーザー主体でデモや実機検証に関わり「動くけれど使われない」を防ぐ。
2000年前後の会計ビッグバンにおいて、日本国内でERPの導入企業が増加しました。しかし、自社の業務プロセスに最適化されたシステム導入を目的とした「Fit & Gap」アプローチであったため、結果としてERPへの追加開発(アドオンやカスタマイズ)の山となり、システムが今でも塩漬け状態(最新のソフトウェアバージョンを使用できない状態)となっている企業も数多くあります。これは、単なる保守メンテナンスコストの増大だけでなく、迅速な経営意思決定の足かせにもなっています。
 
デジタルテクノロジーの進歩と共に、ERP・会計パッケージの機能拡充や各種周辺サービスの提供などが行われている今だからこそ、「Fit to Standard」アプローチでシステム機能を使い倒し、「経営に資するシステム」として会計システム更改を実現してはいかがでしょうか。
 
そこで今回は、 ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新」のキホンのキとして、システム標準機能で導入する「Fit to Standard」の実践ポイントをご紹介します。

Fit & Gapの蹉跌

ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)は、企業の経営資源を統合的に管理するマネジメント手法を実現するために作られたソフトウェアです。すなわち、財務・会計・人事・生産・販売・購買などの基幹業務を一元的に管理し、経営者の資源配分といった経営判断に役立てることを目的にして作られたものです。これがERPの基本的な考え方です。

【図1】ERPの役割

しかし、ERPが日本で広まった2000年前後では、ERP標準機能に業務を合わせるやり方ではなく、「Fit & Gap」アプローチにより、Gapを追加開発して業務にERPを合わせるやり方が主流でした。このFit & Gapアプローチは、ERPへの膨大なアドオンを生み、当初想定以上に開発費用が膨らみ、多大な保守運用費用が掛かる結果となりました。Fit & Gapアプローチはどうしても現行業務プロセスや操作性などをもとにERPで足りていない機能を洗い出す形になるため、結果的に現行業務の不足機能を追加開発で補うということになりがちです。

それに対し、ERP標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」というアプローチが、近年注目を集めています。短期間で低コストでの導入が実現可能なメリットもありますが、「Fit to Standard」の目的を理解せず、いざ導入してみると、結果としてはアドオンだらけになることも多く、現場では動くが経営者にとって使えないシステムになっていることも多く見受けられます。

※ERPの本質
ERPは、「企業資源計画」と訳され、企業の経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を統合的に管理・最適化するためのシステムやソフトウェアのことです。ERPの本来の意味は、「経営戦略としてのポートフォリオ戦略に応じた資源配分計画のための意思決定を支援するシステム」の意味です。

しかし、現実的には企業の日々の取引(伝票)を正確に記録するシステムとしての側面が未だに強いといえます。グローバルでERPを導入したある経営者は、「ERPは伝票を正しく入れれば、正しく処理し、正しく出てくるものであり、それ以上のものでも、それ以下のものでもない」と断言しています。そういった点からは、ERPはかつていわれていたEDP(Electronic Data Processing)の範疇から未だ抜け切れていないともいえます。

Fit to Standardとは何か

Fit to Standardとは、ERPや会計パッケージの導入時に、システムの標準機能に自社の業務プロセスをできる限り合わせる導入手法です。カスタマイズを最小限に抑えることで、導入コストの削減、期間短縮、メンテナンスの容易化を実現します。

Fit to Standardは、従来のFit & Gap(システムを業務に合わせるアプローチ)と異なり、業務変革を前提とし、クラウドサービスの普及により近年注目されています。 このアプローチは、ERPや会計システムの標準機能(例:仕訳入力、財務報告、税務対応)を活用し、業務の標準化を図る点が鍵です。ただし、成功には徹底した準備とチェンジマネジメントが必要です。

Fit to Standardの2つの側面

ERPや会計パッケージは、現場が利用する業務システムつまり「オペレーションシステム」である一方、入力データは経営判断のための元情報となるため「意思決定システム」という面も持ちます。システム導入の目的として、オペレーションシステムとしては、いかに生産性向上のために業務をシステム化できるか、生産性向上に寄与できるかが問われます。また、意思決定システムとしては、経営判断のためにどのようにデータ活用できるのかが重要になってきます。

したがって、Fit to Standardも、オペレーションシステムの側面として業務変革により自社の独自業務のシンプル化を図る「Fit to Process」と、データ活用を意識して必要データを定め、データガバナンスを確立する「Fit to Data」の2つがあります。

【図2】「Fit to Process」と「Fit to Data」のバランスが重要

より重要なのはFit to Data

業務プロセスに合わせたFit & Gapアプローチは、どのようなデータが発生するのかあまり意識しないものでした。そのため、別途データをかき集めて経営管理を実現していることも多く、情報の粒度・鮮度・精度において経営の要求に応え切れないものも少なくありません。また、現場の業務効率化を目指した点でも、経営を意識したアプローチではありませんでした。かつてのERP導入の失敗は、この「オペレーションシステム」の側面に片寄り過ぎていたからだともいえます。

今後は、いかに経営に必要なデータを迅速に出し、真の意思決定に貢献できることが重要です。そのためにデータ活用を目的としたFit to Dataアプローチにより、正しいデータを迅速に活用することができるシステムを目指すべきです。これにより、経営の要求に応えられる「経営を意識したシステム=真の意思決定ができるシステム」が実現できるのではないでしょうか。

【図3】「Fit To Dataアプローチ」によるデータ活用

Fit to Standardの実践ポイント

Fit to Standardを実践するうえで、重要なポイントが4つあります。

1.ERPや会計パッケージの標準機能を理解する

Fit to Standardを実践するうえでの1つ目のポイントが、ERPや会計パッケージの標準機能を理解することです。

ERPや会計パッケージ導入にあたっては、ユーザー部門、IT部門、ITベンダーがプロジェクト参画することが一般的です。しかし、ユーザー部門は業務要件検討に注力するあまり、ERPや会計パッケージの標準機能の理解を後回しにして、自らの業務要件をどのように新システムで実現するかをIT部門やITベンダーに丸投げにしがちです。Fit to Standardを実践するうえでは、IT部門のみならず、ユーザー部門もERPや会計パッケージの標準機能を理解し、ERPや会計パッケージに組み込まれた標準機能を使い倒して、どのように現行業務を効率的に推進するかを検討することが重要です。

また、ITベンダーに対して、単に業務要件を伝えるだけでなく、業務要件の意図(会計方針・会計慣行・会計処理など)を理解してもらい、ERPや会計パッケージのスペシャリストの視点から、ユーザー部門とIT部門の検討に参加してもらうことも必要です。しかし、昨今ではITベンダーが業務変革をユーザー側に一任することが多く、我々レイヤーズ・コンサルティングのような業務とシステムに精通したコンサルタントがこれを担うことが非常に多くなっていることから、コンサルタントの活用もひとつの選択肢です。

2.業務をシンプル化する

Fit to Standardを実践するうえでの2つ目のポイントが、業務をシンプル化することです。

現行システムは、自社の会計方針・会計慣行・会計処理を前提に設計されていることが一般的です。従来の会計方針・会計慣行・会計処理であっても、本来の業務目的を鑑みると複雑化している可能性があります。例えば、買掛金の支払に、支払手段、支払サイト等が様々あり、その組み合わせに対応したシステム機能を要求するケースなどです。

ERPや会計パッケージは、世の中で一般的に行われている最大公約数で作られています。現行システムですでに多くのアドオン・カスタマイズがあれば、本来不必要な業務運用を行っている可能性もあります。Fit to Standardを実践するうえでは、本来の業務目的に立ち返り、複雑化している会計方針・会計慣行・会計処理を業務変革し、シンプル化することが重要です。

3.他のソフトなどの標準機能を組み合わせる

Fit to Standardを実践するうえでの3つ目のポイントが、他のソフトウェアやクラウドサービスなどの標準機能を組み合わせて活用することです。

ERPや会計パッケージは、最大公約数的な機能となっているため、業務の簡素化を行ったうえで業務をシステムに合わせるように要件定義を行ったとしても、標準機能では対応しきれないことが往々に発生します。その際に、単一のERPや会計パッケージでやり切ろうとせず、ユーザー部門の要求に合った他のソフトウェアやクラウドサービスを活用するように割り切ることも重要です。例えば、従業員の旅費精算などのクラウドサービスには、ERPや会計パッケージよりも使い勝手よく、導入・運用コストも安いものも少なくありません。また、取引先との取引を電子データでやり取りしようとするならば、現在ではクラウドの商取引プラットフォームを利用した方が便利です。

また、ERPやパッケージの標準機能では対応しきれない業務要件の大半は、インプット処理の効率化・簡略化や独自のアウトプット帳票の追加などが占めます。こうしたインプットやアウトプットにおいては、RPAでインプット系を代替したり、ローコード・ノーコード開発ツールを用いて安価に開発したり、BIツールを用いた帳票の代用など様々なツールを組み合わせて、ERPや会計パッケージの苦手分野をカバーしていくことがトレンドとなっています。

ただし、ERPやパッケージの標準機能では対応しきれない場合、安易にこれらの活用を検討するのではなく、「当該業務要件が、ERPや会計パッケージの標準機能を工夫して活用することで対応できないか」や、「他のソフトウェアやクラウドサービス、RPA活用した場合のコストが、当業務要件を手運用で対応した場合のコストに見合うのか」などを検討したうえで選択することが重要です。

4.システム機能配置を最適化する

Fit to Standardを実践するうえでの4つ目のポイントのが、上流システムを含めてシステム機能配置を最適化することです。

会計システムは販売・購買といった様々な上流システムからのデータを受け取る「最下流」に位置するため、上流システムとの機能配置が問題になります。例えば、債権債務管理の領域は、多くの企業で業務が複雑化しており、アドオン開発の山となっています。こうした業務については最下流の会計システムに機能を配置するより、上流システムに機能を配置したほうが効率的な場合も少なくありません。Fit to Standardのためには、部門の壁を超えてシステム機能の最適配置を検討することが重要です。

また、最下流であるがゆえに、上流からのデータ形式や粒度の不統一が、そのままインターフェースサブシステムなどの会計システムの複雑さに直結します。これを解決するためには、データ連携基盤を整備して連携データを標準化したり、管理会計で必要となるデータ要件をあらかじめシステム設計に織り込んだりと、専門的な知見に基づいたアーキテクチャー設計が不可欠となります。

プロジェクト推進における実践ポイント

Fit to Standard を実現するためには、プロジェクト推進においても工夫が必要です。Fit to Standardでプロジェクトを推進するうえで、重要なポイントが4つあります。

1.グランドデザインを策定する

プロジェクト推進での1つ目のポイントが、成功の羅針盤となる「三位一体のグランドデザイン」を策定することです。

すなわち、プロジェクトの初期段階で、「経営・業務・システム」という三つの観点から、ブレのない刷新方針、すなわち「グランドデザイン」を描くことにあります。

【図4】グランドデザインの3つの観点

これら三つの観点は、互いに密接に連携しています。この羅針盤となるグランドデザインを最初にしっかりと描くことこそが、航海の成功を左右するのです。

【図5】経理財務部門が何を目指すか、グランドデザインを描く

2.As-Isをしっかり押さえる

プロジェクト推進での2つ目のポイントが、Fit to Standardで業務変革を行うといえども、まずはAs-Is調査で現行業務をしっかり押さえていくことです。

As-Is調査を怠って網羅的に現状確認をしなかったために、要件定義フェーズ以降での手戻りや、最悪の場合には稼働後に業務が行えないといったことが発生することも少なくありません。例えば、例外業務が思いのほか多かったり、行われているはずの業務が実際には行われていなかったり、または全く別に方法で行われていたりするケースなどがあります。したがって、まずは急がば回れで、プロセスの網羅性を押さえた業務の棚卸ということを行っていくことが重要です。

実際の業務の棚卸については、最近では、プロセスマイニングのツールを用いて行うのが、トレンドとなっています。プロセスマイニングとはシステムから出力されたログデータ(イベントログ)をベースに実際の業務プロセスを見える化する手法です。プロセスマイニングのツールでは、単に業務プロセスを見える化するだけでなく、「標準化・整流化すべきプロセスの洗い出し」や「自動化対象アクティビティの候補抽出」、「作業のパフォーマンス管理」、「監査・不正防止」にも使用できるため、ERP導入時の業務の見える化だけでなく、導入後にも様々な場面で活用できます。

3.プロジェクト内でFit to Standardを腹落ちする

プロジェクト推進での3つ目のポイントが、プロジェクトメンバーがFit to Standardという方針に腹落ちしたうえでプロジェクト推進することです。

Fit to Standardを御旗に上げておきながら、結果的にはアドオン・カスタマイズが散見するといったことが生じる原因の1つが、IT部門がFit to Standardを打ち出したものの、ユーザー部門の納得感を得られぬままプロジェクトが進むことです。プロジェクトキックオフ時点から、IT部門とユーザー部門が、相互にコミュニケーションを取り、Fit to Standardの方針や期待効果を把握・理解し、腹落ちしたうえで、プロジェクト推進することが重要です。

また、ITベンダーが参画し始める要件定義の開始時には、ITベンダーに対しても、Fit to Standardの方針を伝え、原則アドオン・カスタマイズを行わないことを認識してもらうことで、アドオン・カスタマイズ提案ではなく、標準機能をうまく使うコツを引き出すことも重要です。

4.ユーザー主体でプロジェクトを推進する

プロジェクト推進での4つ目のポイントが、ユーザー主体でのプロジェクト推進です。

ユーザーは業務要件を検討するだけで、あとはIT部門やベンダーに丸投げするスクラッチ開発の時代は終わりました。実際にシステムを使う業務部門のユーザーが、ERPや会計パッケージの標準機能を理解し、デモや実機検証に主体的に関わり、「自分たちがこのシステムで業務を適切に運用できるようにする」という当事者意識を持つこと、これこそが現場の反発を防ぎ、「動くけれど使われない」システムを生まないための最重要ポイントです。

【図6】ユーザー主体でのプロジェクト推進

特に、昨今のクラウドサービスでは、サービスプロバイダーは広く使われる標準機能を充実されることがその役割で、そのサービスを上手に使いこなすのはユーザー側の役割であるという考え方が一般的になり、従来型の丸投げはほとんど期待できないのも実情です。

まとめ

今回は、「Fit & Gap」の反省を踏まえ、会計システム更改においてシステム標準機能で導入する「Fit to Standard」の実践ポイントをご紹介しました。なお、個別のERPや会計パッケージ等のポイントについては、是非レイヤーズ・コンサルティングにお問い合わせください。

ソリューションに関するオンライン相談ソリューションに関するオンライン相談 最新情報をお届け!メルマガ登録最新情報をお届け!メルマガ登録
いますぐ会計システム刷新事例を見る

お仕事のご相談や、ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。
セミナー開催予定など最新ニュースをご希望の方はメルマガ登録をお願いいたします。