在庫は悪か?
~VUCA時代の在庫戦略~
これまで多くの企業で「在庫は悪。減らすべきもの」と捉えられてきましたが、変化の激しい今の時代において、在庫は「ものづくりにおける変動や不確実性を吸収し、円滑な企業活動を成り立たせるために必要なもの」であると捉えなければなりません。
しかし、場当たり的な判断では需給対応の柔軟性は乏しく過剰在庫のリスクが大きくなります。今回は変動の激しい時代においてより戦略的に在庫を確保するためのポイントをご紹介します。
在庫は責任問題がつきまとう(現場だけでは迅速な意思決定はできない)
在庫には常に責任問題がつきまとうため、現場だけでは大胆な意思決定が図れません。在庫の位置付けと責任範囲を区別して、メリハリのある在庫戦略を立てることがVUCA時代においては重要になります。
通常生産として必要な安全在庫やサイクル在庫は、常に現場でPDCAを回して計算方式・ロジック・パラメーターの見直しを行い、予測精度を高めて適正化し続けていく管理が求められます。
一方で、社会情勢やサプライチェーン環境の大幅な変化といった有事対策としての在庫は、“戦略在庫”として経営判断で迅速な意思決定を行っていかなければ手遅れになってしまいます。
このように同じ在庫であっても一括りで曖昧に管理するのではなく、経営と現場の責任範囲を明確化して「大胆かつ迅速な意思決定」と「適正化のPDCAサイクル」を両輪で実現することがVUCA時代の在庫管理のポイントとなります。
【図1】在庫の位置付けとメリハリのある在庫戦略
本当に在庫すべきものを見極めよ
資材調達におけるリスクはDelivery/Cost/Quality/Sustainabilityの4つに大別されます。部材やサプライヤーの特性に応じて、どの様なリスクヘッジ策をとるかを見極めなければなりません。
【図2】資材調達におけるリスクと対応策
DeliveryリスクやCostリスクが高い部材の内、更に「替えがきかない/ききにくい(代替性)」ものについて優先的に在庫確保を図っていく必要があります。
代替性判断の切り口としては、例えば部材自体の新規性がどれだけ高いか、製品として部材機能にどれだけ依存しているか、製造性として特殊な工程・工法を必要としないか、などが考えられます。
【図3】在庫としてリスクヘッジすべきもの
また、必要な部材をどのような形態で保持すべきかについても見極めが必要です。単に自社への納入部材として在庫するだけでなく、サプライチェーン全体を俯瞰して戦略的にストックポイントを設定していくことが求められます。
重要な視点は“部材の汎用性”です。サプライチェーンの川上に遡るほど部材の汎用性は高くなります。変動が激しい時代においては、サプライヤーの工程まで切り込んで販売/生産計画の見直しや代替部材の開発に適用しやすい形態で保持しておくことが重要です。
そのためには、サプライヤーの工程LTも把握し、自社の要求LTを満たすストックポイントを見極める事も必要になります。要求LTを満たさない場合には生産部門と連携し、発注サイクル・量の見直しや更に川下にストックポイントを分散させるといった対策も視野にいれて検討を行っていきます。
【図4】サプライチェーン全体を俯瞰してストックポイントを見極める
過去のデータに基づく在庫量は当てにならない
通常生産に必要な安全在庫やサイクル在庫は、過去データに基づき精度向上を図っていきますが、有事対策としての戦略在庫は適正量の予測が困難です。
そのため視点を変えて、“有事が起こった際にどれだけの時間を稼ぐべきか”というアプローチで必要量を判断します。事前にリスクを想定し、どのような対策が考えられるか、その実行にどれぐらいの期間がかかるかをシミュレーションしておく事が重要です。
例えば、半導体や電子部品の様に、部材変更によって設計変更や仕様の影響確認が必要なものは「代替品適用にかかるLT」をシミュレーションします。また特定のサプライヤーへの依存度が高い部材は「サプライヤーの切り替えにかかるLT」をシミュレーションすることが必要になります。
【図5】有事対策シミュレーションで必要在庫量を判断
グローバル化・複雑化したサプライチェーンを取り巻く環境変化はますます予測できない時代に突入しています。部材不足が企業存続に関わる最重要課題となっている今、より戦略的に在庫を確保し、柔軟に戦略を見直していくための体制づくりは急務となっています。
今回ご紹介した内容に関する詳細については、是非お問い合わせください。
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この記事の執筆者
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土井 卓也SCM事業部
シニアマネージャー -
角山 悠紀ERPイノベーション事業部
シニアコンサルタント
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