PSI計画の変革でサプライチェーン強化
~VUCA時代で儲かる計画の作り方、教えます~

コロナ感染拡大、半導体不足、資源高騰によって、日本企業が築き上げてきたサプライチェーンは大きな転換点を迎えています。状況の変化に柔軟に対応できる力を付けていくことが、今後のグローバルでの競争に勝ち残っていくポイントになります。
本稿では、PSI計画の変革を通じたサプライチェーンの強化について、ご説明させていただきます。

効率重視の時代から有事に対応できる時代へ

昨今の新型コロナウイルスの流行により、製造業においては、半導体などの重要部品の供給が需要に追いつかず、製品を製造・出荷できなくなるなど、サプライチェーン上の危機に陥ることとなりました。
また、2022年のウクライナ危機においても、エネルギーの価格高騰やサプライヤー供給網の寸断など、再び製造業に対するダメージを与えています。

従来の定型的なオペレーションによる効率化・集中化したサプライチェーンでは、このような有事が発生した場合に臨機応変に対応することが難しくなります。
各拠点で割り当てられた品目を製造・生産するなど、部分最適になっていることが多いため、有事が発生した際には部品の供給が追いつかず、製品を製造・出荷できないといった問題が発生します。

このような有事が発生する時代においては、定型のオペレーションに拘らず、常に代替生産・調達を検討して、どのような環境変化にも対応できる、どこでも製造ができる、どこからでも調達できる代替可能な生産手段を保持すべきです。

そのためには、効率重視のサプライチェーンから臨機応変に対応できるレジリエンスなサプライチェーンへ移行するためのグループ全社一気通貫のPSI計画の変革が急務となります。

【図1】PSI計画の変革

PSI計画の「現状の課題と今後のあるべき姿」

PSI計画の一般的な状況

現状、生産計画・販売計画・在庫計画は手作業で作られているケースが多く、このオペレーションでは状況の変化に迅速に対応できません。
その他にも、下記のような課題を持っているメーカー様が多くいらっしゃいます。

①各拠点毎に作成しているため、全社グローバルで最適化された計画になっていない
②営業・購買・製造等、各部門で個別に生産計画・販売計画・在庫計画を作成しており、情報連携・意思決定に時間がかかる
③モノの供給面でのみ評価しているため、カネ(損益)やリスク(持続可能性)への影響は後回し

上記のような状態では、グローバルで発生する変化に、臨機応変に対応することは難しくなってしまいます。

そもそも、PSI計画とはなにか?

PSI計画とは、Production(生産)、Sales(販売)、Inventory(在庫)の頭文字をとったもので、生産・販売・在庫を同時に計画することを指します。
PSI計画は、需要と供給に関する計画を同時に策定し、それぞれの計画間の整合性を確認します。計画により需要と供給のバランスを確保することで、欠品や過剰在庫を回避することができます。

PSI計画のあるべき姿

刻々と変化する状況に応じて、迅速に計画を立案し、スピード感のある意思決定することが重要です。
自社のサプライチェーンの中でトラブルが起きた場合にも生産や調達を代替することで、当初の納期通りに供給可能な計画を迅速に立案・実行し、スピード感のある意思決定を行う必要があります。

変革ポイント①「全社一気通貫でのPSI計画」

全社で最適なPSI計画を立案するためには、機能部門と会社(拠点)の垣根を超えて生産資源を無駄なく最大効率で活用する計画を立案しなければなりません。そのためには、「個社最適から全社最適」かつ「機能別最適から全社最適」のアプローチが不可欠となります。

個社最適から全社最適でのPSI計画

メリット

各生産拠点単位で需要計画・在庫計画・供給計画を立案した場合、A拠点では「予想以上の需要が発生し、生産が追いつかない」、B拠点では「予想よりも需要が少なく、遊休時間が発生してしまう」というように、グループ全体での生産効率が低下してしまいます。
全社最適での供給計画を立案することで、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を効率的に活用出来ます。

実現する上での留意点

全社最適での供給計画の立案を行う上では、各拠点の需要予測・在庫数量・供給能力等の情報を収集し、各拠点の部材数量と生産能力を踏まえた生産配分を行いますが、各拠点の工程・設備の共通化を行った上で、生産拠点で共有に生産可能な品目を把握し、配分をすることが重要です。
さらには、開発・設計部門から協力を得て、エンジニアリングチェーン視点で工程・設備の共通化をしていくことで、より柔軟な全社最適での生産計画が可能になります。

【図2】全社一気通貫でのPSI計画の立案

機能別最適から全社最適でのPSI計画

メリット

現在の日本においては機能部門の権限が強く、機能部門間の連携が乏しいケースが多く見受けられる一方で、全社最適での供給計画の策定にあたっては、販売・生産・調達・事業企画・物流等のように関与する部門が多く、情報連携や意思決定に時間が掛かってしまいます。
需給統制を行う横串部門を立上げ、全社最適の視点で統制を行うことで情報連携や意思決定をスピーディーに進めることができます。

実現する上での留意点

需要統制部門の役割として「全社最適の視点でグローバルのサプライチェーン構築を推進する責任」と「全社としての需要・在庫・供給計画の立案を行う権限」を持たせることや「販売及び生産・調達に関するデータ分析を行うスキル」を身に着けることが重要です。

【図3】全体最適に向けた需要統制部門の設置・強化

変革ポイント②「モノ・カネ・リスク軸の評価」

平時の時代は効率重視の一意のサプライチェーンでしたが、有事の時代に柔軟に対応するためには、複数の選択肢を持ち、都度、最適な選択を行うことが求められます。納期の遵守(モノ軸)は最低限必要となりますが、それだけではなく、利益(カネ軸)と持続可能性(リスク軸)も重視し、最適なサプライチェーンを選択すべきです。

メリット

モノを納期までに欠品せずに供給すること(モノ軸)を唯一の評価軸とした供給計画ではなく、「P/Lへの影響を可視化して利益が最大となるオペレーションを検討すること」といった利益(カネ軸)と「生産停止になるようなリスクも踏まえ、代替先の手段を確保し、工程・設備の共通化の推進」といった持続可能性(リスク軸)を重視することで、その時の状況に合わせた最適な供給計画を複数の選択肢の中から選ぶことができるようになります。

取り組み内容

  • カネ軸

供給計画検討時に、拠点毎のP/Lを算出し、全社としての利益が最大化になるように、各拠点個別の供給計画を立案します。その際、各拠点毎に割り当てる生産品目・数量や物流ルート等の複数のシナリオに応じて、P/Lを算出し、最適な供給計画を選定します。
さらに、P/Lだけではなく、必要に応じて、B/S、C/F等の数値についても確認を行うことが重要と考えます。

【図4】利益の最大化を踏まえた生産計画

  • リスク軸

「地政学的リスク」、「重大インシデント発生リスク」に分別してそれぞれの対応策を検討することが重要です。地政学リスクは、国家間紛争、テロ、災害等の当該地域における活動そのものを停止または撤退しなければいけないリスクであり、前兆の把握が難しく、各種情報のアップデートと対策検討が必要になります。重大インシデント発生リスクは、販売停止や工場での生産遅延等の需要・供給に関する重大インシデントが発生するリスクであり、比較的、事前に発生の予見を行うことが可能なため、インシデント発生の先行となる指標を設定し、モニタリングを行うことで対処します。

PSI計画を支える「システム基盤」

従来の熟練者の勘と経験に頼ったPSI計画では、グローバルでの高頻度かつ短L/Tでのシミュレーションや計画策定をやり切れなくなってしまいます。
そのため、グローバルで迅速に対応するためには、システム化が不可欠となります。

システム化としては、①PSI計画の立案・シミュレーション機能、②計画策定・モニタリングに必要な実績情報の収集機能が対象となります。特に、②の機能については、各拠点・各部門における情報の収集・連携・蓄積の整備状況を踏まえた最適なシステム基盤を選定しなければいけません。

【実績情報の整備状況(例)】

  • そもそも、各拠点でどのような実績情報を収集しているか不明
  • 各拠点から実績情報を収集しているが、定義が各拠点で異なっている
  • 各部門で蓄積している実績情報は公開・共有されていない 等

このようなケースにおいては、本来は基幹システムを導入し、各拠点のデータ収集強化と並行してPSI計画機能の導入を行うことが望ましいです。
しかしながら、基幹システムの導入を全社で行うためには、膨大な期間も費用もかかるため、先んじてデータ統合基盤を構築することでデータを収集・連携・蓄積することをおすすめします。

データ統合基盤はデータ情報収集とデータ変換機能を持つことで、各拠点のデータを全社で必要とする共通I/Fに変換し、各拠点間のデータを標準化することができます。

【図5】グローバルデータ統合基盤の特徴

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この記事の執筆者

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