高度経理人財育成のすゝめ
~次世代CFOと業務改革推進者の育成~
今回は、次世代CFOと業務改革推進者、高度経理人財をどう育成すればよいのか、様々な企業で経理人財の成長を見てきた経験から考察します。
【CFO組織とは】
CFOを核に熱き思いと冷徹な計算で企業価値創造をドライブする集団
広くは、経営戦略、経営管理、財務会計、ファイナンス戦略、税務戦略、内部統制、リスクマネジメント、監査、サステナビリティ、IR等の領域を担当
将来の経理人財は今のオペレーションの延長では育たない
戦後、5,000万人から1995年には8,700万人にまで増えた日本の生産年齢人口が、2050年にはまた戦後の5,000万人レベルまで減ると予想されていることをご存じでしょうか。今はまだ、女性と高齢者の就業率向上により、労働力人口自体は6,500万人~7,000万人の間で横ばいですが、2040年には1,000万人減って、5,500万人~6,000万人程度と予想されています。
今でも、「経理の募集をかけているが、人が採用できない」というお悩みを聞くことがよくあります。今後は更に日本全体で労働者不足が深刻化し、経理もその影響を受けるであろうことは間違いありません。
他方、RPAやAI、あるいは電子商取引の拡大により、企業や業務によってはこれまでとは桁違いの効率化が実現されつつあります。これまで経理に求められてきた正確性やスピード、継続性は、人間よりもはるかに機械のほうが得意な分野です。DX人財不足や商慣習、紙や手書きといったハードルで実現する時期は異なりますが、いずれ伝票処理や決算処理は機械に道を譲り、人間の仕事ではなくなるのではないでしょうか。
人が足りなくなるけれど、機械で補えるなら「めでたしめでたし」で、気にすることはないのではないか、と思われるかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。
確かに伝票処理や決算処理はいずれ機械化するでしょうが、今からこれらのオペレーション業務を手放せる場合と、10年経ってようやく人の手を離れるのでは、経理人財の成長期間に10年間の差が出てしまいます。いかに早く、時代に合わせた体制にシフトし、これからの時代に求められる人財の育成に舵を切るかが重要と言えます。
【図1】日本の人口の推移
出典:「平成 29 年版情報通信白書」(総務省)
不確実な時代に有利な分権型組織と事業部CFO
ここ数年はコロナウイルスの感染拡大、ウクライナ危機とそれに端を発する燃料価格の高騰など、世界規模で想定外の出来事が起きています。こうした不確実な経済環境の中で、企業がそれでも安定的に持続的な成長を遂げるには、リスク分散という意味で中央集権型組織よりも分権型組織のほうが有利と考えられます。現場に判断を委ねることで、判断するために積極的に状況を読みにいくといった、現場のアンテナの強化も期待できます。
しかしながら、もちろん、ただ権限委譲するわけにはいきません。権限委譲される側の経営スキルの向上も同時に求められます。例えば、各事業、あるいは市場の単位である程度の権限委譲をするなら、その単位ごとにその事業や市場についてのCEO的な役割が果たせる人間、CFO的な役割が果たせる人間が必要です。
CEO的な役割という意味では、事業部長や支店長とそれを支える企画組織が役割を担っている(あるいは担うことになる)と考えられますが、CFO的な役割を誰が果たすのかというと丁度いい人がいない、というケースが多いようです。
一般的な日本企業の場合、事業部や支店に所属する経理メンバーは、コーポレートの経理部以上に伝票処理や決算処理の占める比率が高く、人数も一般的には少ないため専門スキルを維持向上することは難しく、組織的にもあくまで事業部や支店の所属であってCFOの配下ではありません。コーポレートの経理の中には各事業や市場を担当する担当者がいる場合もありますが、どこまで現場やビジネスを知っているかというと企業や担当自身によって大きな開きがあり、現場から提出された情報を元に決算処理をしているだけという場合も少なくありません。
CFOから権限移譲を受けて各事業や支店の中でCFO的な役割を果たす事業部CFO(事業部とは限りませんが便宜上そう呼びます)となるには、CFOラインと各事業や支店の2ボスマネージャーの元で双方の期待・役割を果たせる能力と、事業に対する理解、事業をもっと良くしようと考えるマインド、会計スキルの全てを保持していることが望ましいと考えられます。
【図2】事業部CFOと事業部長/CFO双方へのレポートラインイメージ
次世代CFOを事業部CFO“チーム”で育てる
では丁度良い人がいない場合にどうすればよいでしょうか。
今そのようなポジションがなく、そういった経験をした方もいないという前提であれば、最もそれに近そうなメンバー数人でチームを作り、特定の事業やエリアのCFOとして役割を果たすことをミッションとして専任でやらせてみる、というのがひとつの方法として考えられます。
事業に詳しいメンバーと経理知識のあるメンバーを組み合わせてチームを組成するなどが考えられると思いますが、ここで注意が必要なのは、そのメンバー間では「役割分担をしない」ことです。知識や経験を持ち寄った上でとことん議論をすることで、お互いの知見を学び合うことができます。
またこれは、役割を分担してお互いの職分を侵さないというサラリーマンの発想から、互いの持てるものを持ち寄って高め合い貢献し合うという経営者の発想への転換にもつながると考えられます。
事業部長なり支店長なりを説得することも、現場を動かすことも、実際に効果を上げることもどれも難しいことです。この難度の高いテーマに共に全力で取り組むことこそが、お互いの知見を学び合い、経営的な発想を身に着け、前向きでタフなマインドを醸成するためにも、最高の成長環境であると考えます。
それは事業部CFOを担える人を育てるにとどまらず、次世代のCFO候補の育成にもつながることでしょう。
全社の業務改革を牽引する“業務改革推進者”
もうひとつ、今の時代で重要な人財は、全社業務改革の推進者です。
経理人財の話で全社の業務改革というのは不思議に思われるかもしれませんが、ERPの導入プロジェクトなどを見ていても、経理部門出身のメンバーが(経理の仕事じゃないなどと線を引かず)プロジェクト全体の成功のために他チームにも入り込んで要件決定を推進している企業は、比較的プロジェクトがうまくいっていると感じています。
結局のところ取り引きは最後に会計データになるわけですし、会計データには絶対に譲れない要件があります。上流の仕事の仕方、データの入り方に要件決定の段階で経理が口を出す必要があります。そうでないと、運用テストまでいって、正しく支払いができないとか、実績を入れてみたら今のシステムと同じ結果にならなかったなど、稼働ストップとなるような問題が発覚してしまいます。
ERP導入は例ですが、最終的に会計データにつながる業務については、正確で効率的で内部統制要件を満たした業務プロセスや自動化の方法を考える必要があるということです。これに経理出身者が積極的に関与し、場合によっては部門を横断的に巻き込んで推進者として活躍することが、全社の業務効率化に大きく寄与すると考えられます。
実際にCFO組織の中に業務改革を推進する部署を作り、ERP導入を皮切りに、ERPを使わない部署も含めて、全社の業務改革を推進していったという事例もあります。
【図3】経理財務部門が全社の業務改革を推進した事例
業務改革推進者は業務改革プロジェクトで育てる
では、業務改革推進者はどのように育てればよいのでしょう。
あるメーカーの経理部門では、人財をオペレーションができる能力と、改革ができる能力の二軸で評価し、経理部門の教育プログラムの中にBPR研修というプログラムも設けて、メンバーの改革能力の底上げを図っています。
BPRの基礎知識がついたら、次に必要なのは企業内の情報と業務の流れを理解することだと思われます。現行業務やシステムに関するドキュメントがあれば、これを読み込み理解することで達成できますが、実はこれが難しい会社が多く、現行の業務はもちろん、システム機能でさえドキュメントが揃っていないケースが散見されます。
このような場合は、まず現行業務・システムの可視化をするプロジェクトを立ち上げ、育成したいメンバーに推進をさせることが有効です。ドキュメントの整備と同時にメンバーの業務・システムの理解が達成できます。
可視化ができたら、ようやく業務改革自体の検討に入ることができます。現行業務で課題があれば解決策を考え、課題がなくても昨今のテクノロジーを使うことで大きく効果が出そうな業務はないかを検討します。単に今Excelでやっているものをそのまま自動化するのではなく、できるだけ源流から自動で正しいデータが登録されるようにすることがポイントとなります。このような取り組みを通して、業務改革の知見を持った業務改革推進者を育成することができると考えます。
企業によっては必要とされるスキルはまた別のものであるケースもあると思いますが、何にしても今後果たすべき役割とそれに必要なスキルがあるならば、実際にその役割を果たす中でこそ、そのスキルを伸ばすことができることでしょう。
そうはいっても、今の人財だけでは成功させることが難しい、という場合は、我々のような外部のコンサルを使って成功体験をさせることも有効です(実際に自社の人財育成を重視したサポートをして欲しいと依頼されることもあります)。
また、新しいスキルを身に着けさせるには、その仕事に没頭させる必要があります。今やっているオペレーションをやらなくていい状態を作る必要があるのですが、社内リソースが足りない中でなかなかそれも難しいというケースも多いと思われます。
そのような場合は社外のBPOが役に立ちますので、詳しくは「中核人財をオペレーションから解放する専門業務BPO」の記事をご参照ください。
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この記事の執筆者
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青柳 智子経営管理事業部 兼 BPO事業部
バイスマネージングディレクター -
木村 祐也経営管理事業部
マネージャー
職種別ソリューション