基幹システム導入の新常識
-「アウトプットから逆算する」
◆この記事の要約
昔も今も、基幹システム導入が期待外れとなる例は減りません。
その背景には、「パッケージ選びの際は、現行業務との機能適合率に最も着目する」や、「データインプット画面の『入力しやすさ』に着目する」という、着眼点のズレがあります。基幹システムへの本来の期待は、「新システムからのデータアウトプットで、各領域・階層のビジネス判断を行う」にあるはずです。
そこで本稿では、ビジネス要求とKPI設計を起点に、「アウトプットからシステムを再定義」し、データ経営を実現するための新常識を事例とともに解説します。
- DX失敗の本質:基幹システムに求める投資果実(ビジネス要求)の未合意。未合意のまま推進したツケは、新システムの稼働後に、「新システムは使いにくい」という低次元の不満の形で顕在化する。 ※投資効果感覚のズレ
- ビジネス要求の再定義:中期経営計画や各種会議での意思決定視点に着目し、新システムから「何をアウトプットしてほしいか」を明確化。「今のインプットにできるだけ沿ってほしい」では、投資効果は生まれない。
- シンプルなデータセットとインプット効率の追求:アウトプットに必要なヒト・モノ・カネ・ワザの情報をシンプルに捉えなおし、最小単位のデータを保有する基幹システム構造に再設計。
- 改善サイクルの確立:業務プロセス・IT資産の地図化と、「プロセス・データ高次化推進者」の明確化が、新システムを基礎とした改善サイクルを生む。
なぜ、多くのDXは期待外れに終わるのか?
貴社でも、「DX」という言葉が叫ばれて久しいことでしょう。
それにも関わらず、期待したほどの成果は出ていない、と感じてはいませんか。
実は、DXの成功率が低い背景には、多くの企業に共通する「思考の罠」があります。それは、テレビ番組で紹介された健康法に人々が殺到する光景によく似ています。健康法の効果や健康になるためのメカニズムを深く理解しないまま、「これをやれば何とかなる」と流行りの手段に飛びつく、あれです。
ERP、BPR、AI導入、人的資本経営・・・これらは個々に有効な打ち手です。しかし、「自社の経営をどう変えたいのか」という羅針盤がないまま導入しても、複数のツールを単純に寄せ集めたことになってしまいます。
本質的な失敗要因は、DXの「動機」と「具体的なゴールイメージ」を、明示的に描けていないことにあります。「イメージがないものは作れない」、これはDXプロジェクトにおいても揺るぎない真実なのです。
以下の図は、「ココアさえ飲んでいれば健康になれる」や「暴飲暴食や不規則な生活をしたってココアさえあれば何とかなる」という、“解決策に無思考に飛びつく”リスクを示しています。
皆様が見聞きする、BPR、ERP、オムニチャネル、ROIC、AIなどは、まるでココアのようではありませんか。しかし、個別のDX施策をバラバラと並べたところで、「貴社はどうなりたいか」や「そのために何をするのか」という経営思想がなければ、後日「やたらと盛り上がってツールは色々買ったけれど、いったい自社はDXで何をしたかったのだっけ」となる結末が待っているのです。
【図1】DX失敗を招く「点への飛びつき」イメージ
「現場最適」の先へ。経営視点でシステムを再定義する
日本のIT化は、90年代に「現場業務の自動化」を目的として開始されました。
この時代のやり方は、現場の担当者から業務要件を吸い上げ、それをいかに忠実にシステムに落とし込んで「現場業務を自動化する」か、というものでした。現場業務自動化の目的は間接業務領域を中心に、遅くとも2000年代にはほとんどの企業が達成し終えています。では、現代のIT投資の主眼は何でしょうか。それは、「経営実態のデータ可視化」と「経営モデルの継続的な革新」の2点になっていることに異論はないでしょう。
それにもかかわらず、未だに多くの基幹システム導入プロジェクトが、90年代の「現場業務の自動化」を目的に据えています。これこそが、現代の投資効果感覚がズレる原因なのです。なにせ、もう自動化はやりつくしたのですから、効果は上がる余地はごくわずかです。
繰り返します。現代のDX目的は、「経営実態のデータ可視化」と「経営モデルの継続的な革新」の2点です。この2点のイメージを、自社の経営課題と中期経営計画から逆算して、「何のデータを」や「どの切り口で」見たいのかを具体的にイメージする――換言すれば、「自社WAY」を言語化すること。これが成功への第一ステップになります。
【図2】IT化の主眼の変遷:業務自動化からデータ経営へ
複雑な現実をシンプルに捉える「データセンス」の鍛え方
「データ経営」と聞くと、複雑な分析モデルや大量の指標を思い浮かべるかもしれません。
しかしその第一歩は、むしろ「ビジネスをシンプルに考えるクセ」をつけることです。
例えば、あなたがラーメン店を起業したと想像してみてください。家賃や材料費(カネ)、麺や器(モノ)、調理法(ワザ)、従業員(ヒト)といった経営資源が、どのように利益(モウケ)に結び付くか、そして、その利益を「店舗別」「時間帯別」「メニュー別」といった切り口で見てみたくなるのは、経営者として自然な感覚ではないでしょうか。
この自然で単純なモデル思考こそ、データセンスの原点です。ラーメン店の喩えを自社のビジネスに置き換え、「自社の『モウケ』の源泉は何か」「それを測る最小単位のデータは何か」「どんな切り口で見れば、次の一手が見えるか」を問い直すのです。このプロセスで陥りがちな罠は、現行の帳票やレポートライン再現に意識が固着し、「現行の帳票は新しいシステムでも出ますか」という問いかけに代表される思考停止です。重要なのは過去の存続ではなく、「これからの経営」のためにデータアウトプットとデータ構造をゼロベースで再設計する思考です。
【図3】ラーメン店に学ぶ単純モデル思考
KPIは「自社の羅針盤」。プロセスとIT資産の可視化が鍵
データ経営を実現するうえで、KPI/KGIの設計は避けて通れないテーマです。
困ったことに多くの日本企業では、従業員が「自分のKPIが分からないため、日々の行動に迷う」という事態が起きています。加えて、KPIに絶対的な正解はありません。他社の事例を部分的に真似るだけでは機能しないのです。KPIとは、自社が主催する経営ゲームの「独自ルール」であり、自社の戦略や文化に合わせて主体的に定め、社内外の状況に応じて改訂していくべきものです。
ある建設機械メーカーは、ERP導入を機にKPI体系を刷新するにあたり、「売上増に応じて、固定費までも増えるのはおかしい。それでは固定費といえない」という問題意識から、従来の利益指標を廃し、変動費と固定費を明確に分離した独自の収益性指標(SVC/SVM)を導入しました。
この「自社WAY」を貫いたことで、グローバルでコスト競争力のある体質へと変貌を遂げたのです。
このようなKPIを機能させるには、それを算出するための「素データ(取引トランザクション)」と「切り口(各種マスタ)」が基幹システムに正しく実装されていることが大前提です。
さらに、改善アクションにつなげるためには、業務プロセスの全体像(ビジネスプロセスマップ)と、IT資産(アプリケーションマップ)を可視化し、「どの業務でデータが生まれ、どのシステムで管理されているか」を誰もが把握できる状態にしておくことが不可欠です。
【図4】KPI設計とプロセス/アセット可視化の全体像
導入事例:3年で利益率1.5ポイント改善を実現した「効果の絞り出し」
基幹システム導入を「経営変革の起点」と位置付け、大きな成果を上げた製造業A社(年商2,000億円)の事例をご紹介します。同社は、ERP導入そのものを目的にするのではなく、以下の3ステップでプロジェクトを推進しました。
▼ステップ1:経営要求の定義とKPI設計(約6か月)
まず、中期経営計画を基に「あるべき経営管理指標」を定義しました。この時点で、各部門長が自部門のKPIを語れるようになり、会議での議論が「感覚」から「データ」へと質的に変化しました。
▼ステップ2:システム導入と業務・ITの可視化(導入期間)
基幹システムの導入と並行し、BPM/EAMツールを用いて業務プロセスとアプリケーションの全体像を「地図」として可視化しました。これにより、導入後の改善活動の土台を築きました。
▼ステップ3:継続的なモニタリングと改善(導入後1年〜3年)
導入後、可視化された「地図」を手に、全部門でボトルネック業務や価値を生まないシステムを洗い出し、廃止・統合を断行しました。この「効果の絞り出し」を粘り強く続けた結果、在庫日数の15%削減(運転資本20億円圧縮)や間接部門工数の12%削減を達成し、3年間で営業利益率を1.5ポイント改善させることに成功しました。
【図5】基幹システム導入の3フェーズと効果
まとめ
上記の事例が示すように、新システムが稼働した時点がゴールではありません。
「稼働した時点」は、新システムを用いて、経営変革の「効果を絞り出す」行動のスタートラインです。
基幹システム導入を単なる「守りのIT投資」で終わらせるか、「攻めの経営変革」の第一歩とするか。
その分水嶺は、基幹システム導入の初期、基本構想フェーズにあります。まさに、「始めが肝心」や「初心忘るるべからず」です。もし、基本構想を自社だけで遂行することに難しさを感じているなら、まずは専門家との対話を通じて、課題を整理することから始めてみてはいかがでしょうか。レイヤーズ・コンサルティングでは、あまたの基幹システム導入の伴走/リード事例を有しております。是非お気軽にご相談ください。貴社の成功に向け、効果が絞り出せるまでお付き合いいたします。
【出典】
・【図5】:「建設機械メーカーのコマツ、“ダントツ”なイノベーションを起こす4つの戦略」
(ビジネス+IT)https://www.sbbit.jp/article/cont1/30346


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