カーブアウト・カーブインモデルによる事業再生

日本企業は欧米企業と比較して、低収益事業の見直しに消極的である傾向にあります。将来の成長が見込めない事業を抱える企業において事業再生・再編を実現するには、社内の体質や既存体制に囚われない抜本的かつ大胆な改革が必要です。その実現に有効な手法として、外部リソースを利用した事業再生である「カーブアウト・カーブインモデル」をご紹介します。

企業価値が伸び悩む日本企業の現実

ご存知のとおり、バブル崩壊以降の30数年間で高水準の企業価値を有する日本企業は激減しています。寂しいことに、1989年(平成元年)時価総額世界ランキングTOP50で、日本企業は32社の日本企業がランクインしていたのに対し、2024年(令和6年)にTOP50入りしたのは、トヨタ自動車の1社のみとなっています。現在の日本企業はPBR・ROEが低い、低収益事業を抱え込みがち、イノベーションの成功率が低いといった傾向があり、この慢性的な低収益体質が世界に後れを取る原因となっています。日本企業が返り咲くには、事業構造改革による高収益体質への抜本的な変革が必要です。

そこで当社では事業構造改革の重点ポイントとして、カーブアウト・カーブインモデルによる事業再生、利益イノベーション手法によるビジネスモデル変革、伴走型スタートアップ投資による事業シナジー創出の3点を掲げています。今回はその中で、1点目のカーブアウト・カーブインモデルによる事業再生についてご紹介します。

日本企業は欧米企業と比較し、低収益事業の見直しに消極的な傾向にあります。実際に、経済産業省「第1回事業再編研究会(事務局説明資料)」によると、上場企業1社あたりの事業切り出し件数の日欧米比較(平成30年)において、日本企業の事業切り出し件数は欧米企業の約3分の1程度であることが報告されています(日本0.06件、米国0.18件、欧州0.16件)。

では将来の成長が見込めない事業を抱える企業において、何が事業再建・再編の課題となっているのでしょうか。まず、経営判断における課題があります。低収益体質に慣れ切った自社内においては経営層も事業再建の経験が少ないため、大胆な改革へ舵を切ることが難しくなります。また、事業再建を決断してもその推進力が弱ければ、社内改革・改善活動が一時的なものとなり、中途半端な変革で終わってしまいます。そこで外部から適した人材を投入しようとしても、激しい獲得競争に勝てない、社内事情でマネジメント層を刷新できないといった人事面のハードルにぶつかることもあります。

以上の課題やハードルを克服するためには、社内体質や既存体制に囚われない抜本的かつ大胆な改革が必要になります。ここで有効なのが、事業オーナーを変えるレベルの刺激を起爆剤とした事業再生を実現する「カーブアウト・カーブインモデル」です。

【図1】企業価値を高める3つの鍵

カーブアウト・カーブインモデルのスキーム

カーブアウト・カーブインモデルとは、事業会社が事業再生を目的に子会社や事業部門をファンドに売却し、ファンドによって業績回復が達成され事業価値が向上した段階で買い戻しをするスキームです。
このスキームでは、事業会社自ら3段階のプロセスを推進する必要があります。

第1プロセスは、切り出し資本の選定・外部資本の投入です。
まず、事業の収益性や将来性を客観的な指標で評価し、切り出す事業を選定します。次に、切り出し事業の特性に応じて譲渡・新会社設立・会社分割等の切り出し方法を検討し、適切なファンドへ事業をカーブアウトします。
第2プロセスは、改革の実施です。
カーブアウト後はファンドが改革を主導することになりますが、事業会社も将来のカーブインを見据えて改革をモニタリングする必要があります。特に、改革初期に実施する100日プラン策定フェーズでは、事業会社のキーマンが経営層として残り、現場の実情をプランへ反映することが不可欠となります。
第3プロセスは、カーブイン検討・実施です。
事業会社にて経営状況や事業利益率等の改善度合いを確認し、コア事業とのシナジーも考慮しながら、カーブインの可否を判断します。カーブイン実施を決断した場合には、ファンドと売買条件のすり合わせた後、買い戻しを実行します。

以上のようにカーブアウト・カーブインモデルでは、切り出し事業の再生だけでなくコア事業とのシナジー維持・向上も命題となるため、事業会社がファンドと一体となり改革を推進することが必須です。

【図2】カーブアウト・カーブインモデルの実行プロセス

薬局・病院経営支援サービス事業における事業再生

では、ファンドが入ることでどのような改革が実行されるのでしょうか。ファンドによる事業再生では、まず買収後3か月を目途に投資先の成長戦略・コスト改善施策(100日プラン)を検討します。その後の100日プラン実行フェーズにおいては、蓄積されたナレッジをもとに生産性向上・コスト低減等の施策を推し進め、高収益体質への迅速な変革を目指します。

ここで事例として当社がご支援した案件から、ファンドによる薬局・病院経営支援サービス事業における事業再生についてご紹介します。この事例においては、100日プランの策定を「現場主導型」で実施したことが成功への鍵となりました。まず手始めに、当社にて現場のキーマン200名を選定し、インタビュー・業務実態調査によってリアルな現場課題を抽出しました。営業部門の業務工数が可視化されたことで、コア業務である顧客への提案活動に工数全体の20%しかかけられていないという課題が浮き彫りとなりました。続いてミドル層とのディスカッションを通じ、営業の生産性向上を妨げる問題点を23個抽出し、生産性向上施策(100日プラン)を策定しました。

トップ層には、ボトムアップで個別に具体的な実行施策を提示したことが評価され、スムーズな合意形成につながりました。結果として、3か月の超短期で従前のしがらみを無くした成長戦略を策定し、約30%の工数削減を実現するに至りました。

【図3】現場主導型100日プラン敢行

カーブイン・カーブアウトの成立条件

最後に、カーブイン・カーブアウトモデルの成立ポイントをご紹介します。特に重要なのは、ファンドにとってローリスク・ミドルリターンとなる案件を組成することです。事業規模が中規模程度(事業価値~50憶円)の案件を扱う国内ファンドは、事業再生をパーパスとする企業も多く、事前交渉において手堅いリターンを約束することで事業会社の意向に沿った改革を進めてもらいやすくなります。また、買い戻しの際は売却金額の2~3倍の額になることが通例のため、買い戻し時の資金面のハードルを下げる意味でも事業価値(売却金額)50憶円規模までの事業を対象とすることが望ましいといえます。

【図4】カーブアウト・カーブアウトモデルの成立条件

ここまで述べてきたとおり、切り出し事業の価値向上のみならずコア事業とのシナジー拡大を目指すカーブアウト・カーブインモデルでは、ファンドに支配権を与えつつも事業会社でもオーナーシップを持って改革を促進することが重要となります。当社では、「ファンドの選定・売却~事業再生~買い戻し」まで一気通貫でご支援し、事業会社と二人三脚で事業再生を推進させていただいております。ご要望に合わせて、カーブイン・カーブアウトモデルの詳細やファンドを活用した事業再生の実例をご紹介可能ですので、是非お気軽にお問い合わせください。

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