労働力希少社会の到来
~付加価値を生む金の卵を獲得せよ~

今、日本は政府と産業界が一体となって、賃金を上げようとしています。
「賃金は多少上がっても、大幅には上がらないのでは?」と想定している方々は、時代の波を読み違えています。もう既に労働力希少社会は到来しており、大規模な労働力の移動と大幅な賃金の上昇が迫っているのです。

今回は、こうした労働力希少社会の到来に対応し、企業経営として何をすべきかのポイントをご紹介します。

日本企業は、人をコストとして見てきた

日本の平均賃金は相対的に低く、OECD加盟国の中でもスペインにも抜かれ低位グループ(25位)に属しており、経済的には決して日本企業は従業員を大切にしているとは胸を張って言える状況ではありません。これは、失われた数十年の間に、日本においては人材が「投資」ではなく「コスト」と扱われていた結果ではないでしょうか。

【図1】OECDの平均賃金の国際比較 

しかし、こうした状況はもう長く続けることはできません。
権丈英子・亜細亜大学教授は、2023年2月23日付の日本経済新聞で、

長く続いた「比較的安価な労働力を企業が手軽に利用できる時代」が今、大きく変わろうとしている。(中略)そして本格的な労働力希少社会では、個々の経営者は賃金引き上げ、すなわち付加価値生産性の高い仕事の創出を求められる。

と述べています。
このように、日本経済は労働力希少社会へと着実に進んでいるのです。

一部業界で高騰する初任給

2022年の東京大学大学院の内定先は、ほとんどDX関連企業になっています。外資系DX関連企業の初任給が600万円以上となり、業界では話題となっています。こうした動きに戦々恐々としているのが、日系IT企業です。日系IT企業の平均給与は概ね800万円台であり、初任給は400万円前後です。一部の専門技術者を特例で高くする動きもありますが、このままでは外資系DX企業との人材獲得競争に破れ、虎の子の人材に転職され、人材面から事業の継続性に暗雲が立ち込めてしまうと考えているからです。この様にDX関連業界の人材獲得競争は過熱しており、正に高度成長期の金の卵の争奪戦のような様相を呈してきています。

また、こうした企業に就職する方々は、最初から終身雇用など望んでいません。キャリアを積んで常に別なことにチャレンジし続けることを人生の面白さと考えています。当然、3~5年立てば、中途採用市場に参加してきています。そして、条件の良い会社からのオファーを受けて、ジョブホッピングしていきます。皆さんも外資系DX関連企業の方から連絡があった時、既に別のDX関連企業に転職していた、と言った経験があると思います。

このように現時点では局地的な人材獲得競争の過熱は、少子高齢化からくる日本の労働力減少を背景に、バタフライ効果となって日本全体の人材獲得競争へと広がっていくのではないでしょうか。

【図2】一部業界で高騰する初任給

専門性の高い人材はリモートが好き

DX業界ではフリーランスとして働く人も多くいますが、最近はある傾向が顕著になってきました。それはリモート希望率が殆どだということです。彼らは、コロナの3年間でリモートでも問題なく仕事ができることが分かったのです。データアナリストなどのフリーランスの方々は月額200~300万円で働きます。彼らは、時間生産性を非常に気にし、移動といった価値を生まない時間を回避します。

当然、リモートではない仕事は彼らに敬遠されますから、実力のあるフリーランスの方々はリモートのプロジェクトに流れ行きます。実力のあるフリーランスの方々にプロジェクトから離れられることは依頼側にも損失ですから、リモートは飲まざるを得ない状況となっています。

今後の労働力希少社会において優秀で専門性の高い人材を確保するためには、リモートを前提としなければいけなくなるのではないでしょうか。

【図3】専門性の高い人材はリモートが好き

大学教授の逆襲

大学教授の方々が、今日ほど日本企業の経営に対して厳しい意見を言うことも無かったのではないでしょうか。
2014年伊藤レポートでROE8%以上の稼ぐ力の復活が求められましたが、その道は半ばです。アベノミクスで異次元の金融緩和を行って企業の成長を支援しましたが、積みあがったのは手元の現金でした。

大学教授は自らの経済理論や経営理論から日本企業の発展のためにあるべき方向性や変革を示してきました。しかし、一部企業を除きそうした提言を無視する、もしくは知ろうともしない態度に腹を立てているようです。大学教授のビジネス向けセミナーが沢山ありますが、直言で発言したり、婉曲的に発言したりと程度の差はありますが、日本企業の経営に大きな疑問や苦言を投げかけていることは確かなようです。当然、彼らの大学での講義では、もっと激しい言葉を投げかけていることは容易に想像できます。

従って、大学教授の逆襲によって、変われない企業や変革できない企業は、学生たちから見向きもされなくなるのではないでしょうか。

【図4】大学教授の逆襲

若手経営者は理論が好き

日本は、ベンチャーが少ないと言われていますが、各企業がDX化を急ぐ中で、DX分野で多くのベンチャー企業が創業されています。先程のDX関連企業からのスピンアウト人材が創業者といった企業も多くあります。

こうした若手経営者に一つの特徴があります。それは最新の経営理論の信奉者が多いということです。大学を出てまだ数年といったこともありますが、彼らは自分たちが経営の素人であることを自認しているが故に、素直に経営理論を経営に取り入れようとしています。老舗の会社では、長年の硬直化した慣習や変化を嫌う組織風土から、経営理論に対する拒否感(学問と実際は違うといった感覚)がありますが、彼らにはありません。
彼らの経営においては、パーパス重視、社会的価値重視、エンゲージメント重視、自律的運営重視など特徴があります。逆に、根回し、忖度、上意下達など伝統的な昭和の経営を嫌います。

優秀な人材がジョブホッピングしていく社会において、彼らはどちらを選ぶでしょうか。こうしたことからも、伝統的な悪い意味での日本的経営、変われない経営の企業からは、泥船から逃げるネズミのように、次々逃げ出していくのではないでしょうか。

日本企業はどうすればいいか

今までは、比較的安定的な経済環境を前提に、経済価値の追及を最優先として、戦略を立案しそのために効果的かつ効率的な組織を作って運営してきました。そこでは、一般に、アメとムチ、ヒエラルキー階層、計画と統制(PDCA)、上位下達といった経営が求められていました。

しかし、これからは将来何が起こるかわからないVUCA時代と言われています。今までの経営、組織体制のままでは、当然立ち行かなくなってしまうことが予想されます。例えば、アメとムチや上位下達といった経営手法の多くは、モチベーションを低下させると言われております。計画と統制(PDCA)は、激しい環境変化においては、もはや無力化してきているのも事実です。

では、労働力希少社会ではどんな経営や組織が求められるでしょうか。それは「人」中心の経営です。不透明な環境の中で北極星のように輝くパーパスのもと、社員1人1人は1人の大人として自律的に走りながら考えて決める(OODA)、そのような経営が求められるのではないでしょうか。特に、企業のパーパスとして社会課題の解決を掲げ、経済価値と社会価値を同時達成する存在となるためには、経済価値優先で構築した組織をこうした組織にアップデートしていく必要があるといえます。

【図5】経営と組織をアップデートする

今回は、こうした労働力希少社会の到来に対応し、昭和の経営から脱却し、人を中心とした新しい企業経営を創り上げるポイントをご紹介しました。詳細については是非お問合せください。皆様と一緒に、労働力希少社会における新しい経営や組織を構築していきたいと思っております。

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