ポスト2027年の基幹システム

ポスト2027年に向けたグローバル・グループ展開

日本企業のグローバル化は今後もさらに発展していきます。M&Aやパートナーシップ、リージョナル経営構造等の変化に対応していく必要があります。そのために求められるITガバナンス、明文化されたポリシーによるコントロール、グローバルなプロセス統合をITの観点から推進する人材育成のアプローチについてご紹介します。

グローバル企業における組織モデル

海外にビジネスを展開している企業の組織モデルは、戦略、計画・管理、実行の各領域をどのように本部と各拠点で裁量を分担しているかで分類できます。

  1. インターナショナル型:戦略と計画・管理のほとんどを本部が担い、実行のみを各拠点に委ねる輸出企業に多く見られる形態
  2. マルチナショナル型:本部が立案する戦略に則って、各拠点に計画・管理と実行の裁量が与えられている多国籍企業の形態
  3. トランスナショナル型:生産や調達などの個別分野で経済環境や文化差異に対応するために最適なネットワークを、各拠点が様々に張り巡らせ相互に依存する形態

前者2形態が各拠点に対する統制を重視しながら経営効率や現地適用に配慮するものであるのに対し、トランスナショナル型は各拠点の自律的な成熟化に最大の価値を置くものであり統制には馴染まない形態です。いずれの形態を採用するべきかはある時点での企業のビジネスモデルや規模、成熟度によって判断がなされるものであり、画一的に決められるものではありません。

しかし、組織マネジメントの観点から企業の成長と組織の強化を促進するためには人材の多様性が求められているように、グローバルな経営力を強化するためには各拠点にも多様な自律性が認められるべきです。従って最終的には資源・能力が分散されつつグローバル調整度の高いトランスナショナル型を目指すべきであると言えます。

【図1】グローバル企業における組織モデル

日本企業の組織形態に対する考え方

日本企業がトランスナショナル型を目指す際に障害となるのがマネジメントに対する考え方の違いです。
第一に、日本の組織は均質性が前提となっているということです。基本的な原理・ポリシーは当たり前であるがゆえに明文化せず、誰もが下積みの見習いから始まってノウハウは暗黙のコミュニケーションの中から習得し経験を積んでいくのが当然の在り方です。
第二に、ある程度の規模組織は一定の経験を積んだヒトの裁量によってマネジメントされるということです。

こうした考え方から、企業買収が行われた際に買収された企業では社内規則もシステムもそのままに、買収側の企業から中間管理職以上が出向するケースが多く見受けられます。最近ではシェアードサービスやビジネス・プロセス・アウトソーシングの考え方が定着してきているため、間接部門の統合が検討されることも増えてきましたが、収益部門の統合効果を最大化するのは依然として出向のマネジメント裁量次第になっています。

対して、欧米企業では人材や商慣習などが多様であることが前提であるため、ポリシーや禁止事項が詳細に明文化されます。マネジメントの対象もローカル組織よりプロセスに重きが置かれます。外資系日本法人では日本の会社法上社長はグローバルな営業に関する権限のみを有しており、日本国内では経理や人事に介入できないことが当然にあります。

【図2】ガバナンスに対する考え方

これからの日本のグローバル本社の在り方

このような日本企業の考え方が一概に誤りであるとはいえません。結果的に海外の拠点において自分たちのやり方が継続されたことによる安心感から労使の対立に発展することは少ないです。また、ローカルの環境への適応もスムーズになります。日本から派遣されたマネジメントの中には、現地語を学びローカルのマネジメント人材と信頼関係を築き順調な成長を実現している人も珍しくありません。

一方で、グローバルな視点で企業体全体を見渡したときそれが個別最適であることは否めません。経営効率を最大化するためにはプロセス単位での統合を推進することが不可欠です。その第一歩として企業が活動を行う上で定める「ポリシー」「ルール」「プロセス」および「IT」を標準化したプロトコルを定める必要があります。
その狙いと効果は次の通りです。

  1. マネジメントの共通化:グローバルに統一された経営指標(KPI)によるマネジメントを実現すること
  2. オペレーションの統合化:生産・調達・販売など業務プロセスのグローバル統合を実現すること
  3. コミュニケーションの共通化:世界中に散らばる社員が共通のビジネス用語で意思疎通ができること
  4. ITシステムの統合化:グローバルなデータ統合やアプリケーションの共通化を実現すること

ここで明記されたプロセスごとに統合化の推進責任者が任命され、その者によって施策が具体化されることが必要になります。このとき推進責任者とローカルの経営者は利害対立の関係ではなく、協調関係でなければなりません。

グローバルなプロセス統合

統合すべきプロセスは、次のように分類できます。
第一に、顧客接点を有するプロセス群で直接的に収益を生み出すプロセスで構成されます。顧客/営業戦略、商品/サービス開発、マーケティング/広告・宣伝、受注、アフターサービスなどがあります。各地域特性を踏まえ収益を最大化させる観点からどの部分をどのように統合、もしくは相互依存関係を構築するかを検討します。
第二に、顧客接点を有するプロセスを支援するプロセス群です。顧客や販売代理店管理、サプライヤー/調達管理などがこれにあたり、ビジネスの効率性を高める観点から統合の在り方を検討します。
第三に、企業活動のインフラとなるプロセス群です。人材管理、経理・財務管理、ITシステム管理などが対象で、ここで必要なのはビジネス推進のための組織力強化の観点です。

いずれのプロセスもビジネスユニットやエリア/リージョンの双方から見て、上述のプロトコルが詳細かつ明確になっていなければなりません。また統合効果を最大化するためには、それぞれのプロトコルの8割以上の標準化率を維持しながら、残りを独自プロトコルと許容することで組織運営の柔軟さと差別化要素を確保します。

【図3】業務プロセス統合の考え方

IT組織のグローバル対応

日本企業がトランスナショナル型の組織を目指そうとしたとき、あるいはグローバルなプロセス統合を行おうとしたとき、IT組織もこれに対応した新しい役割が求められます。
まず、企業活動のインフラとしてITシステム統合の実行責任者がプロトコルを定義し具体的な施策を打ち出していかなくてはなりません。一方で、ビジネスユニットやエリア/リージョン別の個別事情をITの観点から把握し、プロトコルへの反映や独自施策の立案を行う必要もあります。

この役割を担うためにはグローバルなコミュニケーション能力と、実際にビジネスに対する理解と洞察力が求められます。多くの日本企業ではシステム要員にレガシーシステムの保守・運用の役割しか求めてこなかった経緯があり、直近でこの能力を満たす人材を豊富に抱えていることは多くありません。役割のシフトを実現するためにはビジネスユニットや他地域との間で体験的異動などの人材交流を行い、単なるシステム技術者から視点を広げた実践的IT専門家を育成する必要があります。IT環境に長く身を置いた社員は、さまざまなベンダーが提供しているグローバルビジネス対応の統合パッケージシステムやクラウド上のサービスに対する拒絶反応がなく狙いとするところを理解するのが速い傾向にあるからです。

これらを参考として新たな目標を持ち自社のビジネス環境を俯瞰したとき、組織・プロセスの変革推進者としての活躍が期待できます。詳細をお聞きになりたい場合は是非お問い合わせください。

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