ROICは正しく活用しないと意味がない!
活用場面とそのポイント

不確実性の高い昨今、完全なる未来予測はAIにもできません。そんな世の中で、企業が生き残っていくために必要なことは何でしょうか。 
近年、当社にも問い合わせが増えているROICですが、やみくもに導入するだけでは意思決定の判断材料にはなり得ません。 
「なぜROICを導入するのか」「どのようにROICを活用するのか」しっかり理解をし、推進をしていく必要があります。特に現場に浸透させるためには、一朝一夕にはいきません。
 
今回はROICの活用場面と、ROIC経営を実践するために必要なデータを見ていきます。

ROICの二つの活用場面

ROIC(Return on Invested Capital)は、企業の資本収益性を測定し、資源の最適配分や事業改善における指針として用いられます。この指標は、経営層から現場に至るまで多面的に活用され、主に2つの場面でその真価を発揮します。

【図1】ROICの二つの活用場面

1. 経営活用としてのROIC

まず、ROICの経営活用は、全社的なリソース配分を最適化し、企業全体の利益率を向上させるために重要です。
【図1】の左側に示されるように、ポートフォリオマネジメントとしてのROIC活用は、各事業の資本収益性を評価し、事業ごとに最適な資源を配分するための意思決定に役立ちます。
例えば、ROICが高い事業により多くのリソースを配分し、低い事業に対しては戦略の見直しを図るといった取り組みが求められます。これにより、企業は限られたリソースを効率的に活用し、全体としての経営効率を高めることができます。
この経営視点でのROIC活用には、売上高、コスト、棚卸資産、固定資産、投下資本回転率といった複数の経営KPIを組み合わせて計測・分析することが必要です。
これにより、経営者は各事業の資本効率を客観的に把握し、リソースの最適配分を行う基盤を築けます。

2. 事業・現場活用としてのROIC

一方、ROICは事業レベルでも価値を生み出します。【図1】の右側に示されている「事業サイドKPI」では、ROICを高めるために必要な具体的な指標が多岐にわたることがわかります。
事業部門は、売上数量、販売単価、原価、販売費、営業利益などの要素を細かくモニタリングし、日々の業務改善に結びつけます。これにより、ROICを現場でのパフォーマンス向上に結びつけ、全社的な財務成果を支えることが可能となります。
事業部門におけるROICの改善に向けた取り組みは、財務データと非財務データを駆使して業務の最適化を図ります。例えば、販売戦略の見直しや在庫管理の効率化など、細かなKPIの管理を通じて、投下資本の回収率を高める施策を推進します。

このように、ROICは経営層が行う全社的なリソース配分の指針として、また現場での改善活動を促進するための具体的な目標として、それぞれのレベルで活用されます。これにより、企業は持続的な成長と競争力の向上を実現できるのです。

経営活用におけるROIC

先述の通り、ROICは、企業の資本効率を測定する指標として、経営のあらゆる場面で意思決定を支える重要な役割を果たしています。
特に、全社的な戦略を構築し、資源配分を最適化する際には、ROICを活用したシミュレーションと実行計画が不可欠です。
これにより、企業は持続的な成長と競争力を維持するための基盤を構築できます。

ROICを経営の意思決定に組み込む際には、単に現在の数値を評価するだけでは十分ではありません。経営の観点から、ROICは「将来を見据えた」指標として活用されるべきです。
例えば、ある事業セグメントのROICが現時点で3.2%であったとしても、その数字は単なる報告にとどまらず、将来的にどのような施策が必要かを示す手がかりと捉えます。現状分析に基づき、どこにどれだけの投資を行い、事業のROICをどう引き上げるかを戦略的にシミュレーションすることが求められます。

【図2】仮想企業におけるセグメントポートフォリオ

また、ROICを戦略的に経営活用する際には、各事業やセグメントを超え、さらに細分化したSBU(戦略事業単位)での分析が効果的です。
これは、セグメントレベルでは広範すぎて具体的な施策の実行や意思決定に踏み込むには限界があるためです。SBU単位でROICを分析することで、個々の事業が持つ課題や成長機会をより詳細に把握できます。どのSBUが将来的に資本効率を高めるためのテコ入れを必要としているのか、あるいはカーブアウトが適切かを判断することが可能となります。

【図3】SBU単位のROICシミュレーション

さらに、ROICを将来的な視点で活用するためには、各事業の投資戦略や施策のインパクトを複数のシナリオで検証するシステムが必要です。例えば、新規投資がP/LやB/Sにどう影響するのか、具体的に試算・シミュレーションすることで、経営層はリスクを最小限に抑えた意思決定を行えます。こうしたシミュレーションを通じて、企業全体としてのROIC向上を目指し、リソース配分の最適化を図ります。

【図4】ROICは将来を語る指標

ただ、ROICは企業の事業評価において重要な指標ですが、万能ではありません。
特に、事業ライフサイクルの「導入期」や「成長前期」にある事業は、初期投資が多く赤字が発生しやすいため、ROICだけで評価すると早期撤退の判断を招く危険があります。
こうした成長段階では、売上や利益、成長率、市場シェアといった他の指標を組み合わせて評価することが適切です。逆に、「成長後期」や「成熟期」の事業では、ROICが効率性を測る、適した指標となり得ます。

【図5】事業評価をする際の注意点

ROICは単なる数値以上のもので、経営層が未来を見据えた判断を下すためのコンパスです。この指標を活用して、企業は事業戦略を最適化し、将来の成長と競争優位性を確保するための道筋を明確にすることができます。

事業・現場活用におけるROIC

ROICは経営にとって不可欠な指標ですが、これを事業・現場に浸透させることは簡単ではありません。
「ROICってどういう行動を取ればいいのか?」や、「入力や集計が負担になるのでは?」といった現場の声はよく耳にします。こうした疑問を解消し、現場にROICを定着させるためには、以下の3つのポイントに焦点を当てることが重要です。

【図6】ROICの事業・現場への浸透ポイント

まず1点目は、「ROIC改善の行動指針を示し、KPIをベースに現場と対話する」ことです。
ROICはそのままの形で現場に展開するのは難しいため、行動指針として現場が理解しやすい形に翻訳し、KPIに変換することが求められます。
具体的な例として、オムロンの無駄・ムラを排除し、それを投資に回してより高い価値を生むサイクルが挙げられます。
このような行動指針を掲げ、現場の活動に結びつけてKPIとして追跡することで、ROIC改善に向けた具体的な動きが実現できます。

2点目は、「利活用を具体化する」ことです。
現場でどの情報をどのタイミングでアウトプットし、どのように活用するかを明確化しなければなりません。これにより、ROIC向上を目的とした施策の設計からPDCAサイクルの実行までがスムーズになります。
情報活用のプロセスが明確化されていれば、改善策の立案から実施、そしてその結果のフィードバックまで、一貫した流れで業務改善を図ることができます。

3点目は、「データの入力・集計は極力自動化する」ことです。
手入力や手集計が増えると、現場での負担が大きくなり、改革意識が一気に低下します。
したがって、新たにデータを取得する方法だけでなく、既存のデータを活用し、取れるものは自動化するなど、現場の負担軽減を考慮した工夫が求められます。これにより、現場の意識を高め、ROIC改善に向けた継続的な取り組みを支える環境が整備されます。

これらのポイントを踏まえたKPIベースの対話は、行動や分析を『型』として定着させることに繋がります。
型が整備されることで、KPIの変化を迅速に捉え、影響度を分析し、施策を即時に展開できる初動の速さが生まれます。また、会社全体のデータ活用品質も向上し、変化に対する追従性が高まります。
これは、ROICとともに近年注目を集めているFP&A(財務計画・分析)の第一歩でもあります。FP&Aは単なる組織論を超え、ファイナンス視点で事業の執行責任を担い、コントロールを行う役割を持ちます。KPIを通じた業務品質の向上は、事業の実行力とROIC改善の両立に寄与する重要な要素です。

【図7】FP&Aプロセスの12の原則

ROIC経営実践における必要データ

ここまで、ROICの二つの主要な活用領域—経営活用と事業・現場活用—について説明してきましたが、それぞれに求められるデータは異なり、多岐にわたります。
単にP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)を作成し、そのまま集計・連結するだけでは、ROIC経営を効果的に実践することはできません。
経営判断に不可欠なデータは、詳細な明細情報やKPI、具体的な施策の進捗を含むデータです。ここではその一例をご紹介します。

I. 経営活用に必要なデータ

経営層がROICを活用して戦略的な意思決定を行うためには、全社およびセグメント別の実績P/LとB/Sが基本的なデータとなります。
しかし、それだけでなく、SBU(戦略事業単位)ごとの記載や関連パラメータ、相手先別明細など、事業の詳細を把握するための情報が求められます。
投資の明細やその計画も不可欠であり、特に中期計画においては売上向上施策、原価低減施策、費用圧縮施策など、具体的な戦略の詳細をデータとして備えることが重要です。
これらのデータは、経営層が短期的な見込みと長期的な計画を立てる際に役立ち、ROICの向上を目的とした持続的な施策を支えるものです。

II. 事業・現場活用に必要なデータ

事業レベルでROICを活用し、日々の運用に役立てるためには、さらに細かなデータが必要です。
例えば、在庫明細や債権・債務明細、各種KPIを構成する細かい項目、そして投資の実績・計画といった情報が挙げられます。
これにより、現場はROICを具体的な業務改善に結びつけ、PDCAサイクルを回して施策を進めることができます。各KPIの達成に向けた施策一覧なども、現場での迅速な意思決定を可能にし、ROIC向上のための取り組みを現場レベルで具現化する助けとなります。

ROIC経営を効果的に行うには、経営層と現場の両方がアクセスできる一貫性のあるデータ基盤が不可欠です。
各レベルでのデータ活用により、全社的な戦略を具体的な事業計画に落とし込み、現場レベルでの実行力を高めます。
経営層は中期計画や全社戦略に基づいてデータを分析し、現場はKPIに沿った日常の業務改善を行うことで、組織全体としてのROIC向上に寄与します。

このように、ROIC経営の実践には、単なる財務データの集計ではなく、その裏付けとなる具体的な明細情報や施策のデータが必要です。経営層と現場が一体となってデータを活用することで、ROICを通じた持続可能な企業成長が実現されるのです。

【図8】ROIC経営実践における必要データ(一例)

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