VUCAの時代のシナリオ経営の勧め
~年次の経営計画・予算って本当に必要?~
しかし、多くの企業では経営計画を毎年膨大な工数を掛け、せっせせっせと立案しています。半年以上かけた積上計画が最後にトップの一言で上積みされ、頭を抱えている経営企画・経営管理部門もよく見かけます。VUCA時代に本当にこのような経営計画立案のままで良いのでしょうか。
今回は、「VUCA時代における経営=シナリオ経営」のポイントをご紹介します。
VUCA時代のシナリオ経営とは
現在と過去を考えた場合、人は現在を必然と考えたがります。しかし、現在は複数の選択肢の中から選ばれたものであり、どの現在になったかは確率論なのです。
スモールワールド仮説を提唱したダンカン・ワッツの著書「偶然の科学」では、「歴史は一度しか起こらないから、歴史から教訓は学べない」とあります。
【図1】現在は必然か、偶然か
VUCA時代においても1つの未来を予測することは意味がありません。ボラティリティの高い外部環境要因、内部環境要因を特定し、その変化をシナリオとして複数想定、その対応策(転ばぬ先の杖)を幾つも用意するしかないのです。これが、シナリオ経営です。
複数のシナリオは、「環境変化が市場に与えるインパクト」と「その環境変化が将来起こる可能性」を軸に優先順位付けされます。
経営計画や予算は、直近のトレンドなど、現在の状態を起点に策定されることが一般的です。しかし、これらの計画は未来が現在の延長線上に存在していることを前提に、一つの未来を想定しているに過ぎません。それでは、想定外の環境変化に適切に対応することは出来ません。市場環境の変化が激しく不確実性が高まっているVUCAの時代において、シナリオ経営は計画策定の有効な手段なのです。
環境要因のボラティリティを特定する
予測に対して実績の振れ幅が大きい(不確実性の高い)外部環境要因や内部環境要因を、当社ではKVI(Key Volatility Indicator)と呼びます。
各企業置かれた環境自体のボラティリティが異なりますので、KVIも各社毎に異なります。
例えば、ビール業界で気温は重要なKVIとなります。長期の天気予報等がありますが、1年先、数カ月先の日の気温を予測することは現実的に困難だからです。
もし、気温とビール総需要の相関関係が弱く、気温から総需要の予測が困難であれば、ビール総需要がKVIになります。逆に、強い相関関係があり、気温からビール総需要の予測が可能ならば、ビール総需要は広義(※)のKPI(Key Performance Indicator)になります。
(※)一般的にKPIは内部指標を指すため
最近では、AI等によって各種指標の予測精度も向上していますので、以前KVIだったものもKPIになっていくと思われます。
自社のシェアは、広告宣伝等による消費者のマインドシェア、店頭のフェイスシェア等によって決まってきますので、ある程度予測可能でありKPIになります。
自社のビール販売高も、シェアが安定していれば、総需要から予測可能ですのでKPIになります。
このように自社にとって何がKVIであり、なにがKPIであるかを明確にします。KPIのうち、コントロール可能なものはパフォーマンス評価の目標値(例えばシェア○%)として設定していきます。
【図2】KVIとKPI
ボラティリティに応じたシナリオを用意する
何がKVIになるかは、毎年大きく変わるものではありません。それぞれの指標のボラティリティの幅は変わりますが、多くの場合業種ごとにKVIは決まります。
一方で、環境変化に応じて期間限定的にKVIとなるものもあります。例えば、近年ですと新型コロナウイルスが与える各指標への影響などがそれに該当します。
次に、KVIの振れ幅に応じてシナリオを想定し対応策を用意します。シナリオと対応策は、KVIが大きく変わらなければ、一度用意しておけば良いことになります。また、KPIについても、目標値からの乖離度に応じて対応策を用意していきます。
ボラティリティに対してシナリオと対応策を用意していくことは、各社において実施されているリスクマネジメントそのものです。
日本人は悪いことを言葉に出すことを非常に躊躇する「言霊文化」があります。また、リスクを直視せず、気合い、根性、精神論で乗り切ろうとする昭和の方々も多くいます。対応を決めておけば、ボラティリティというリスクは「恐怖(危険や危機)」ではなく、「不確実性(確率論)」となるのです。
実際のビジネスでは、こうした想定シナリオを超えた変化があります。しかし、複数シナリオを用意しておけば、想定外のケースの場合が発生した時だけに集中して対応策を検討すればよくなります。意思決定の混乱も少なく、スピーディに対応が可能になります。
一年の経営計画は本当に必要か
前述のように、多くの企業で計画策定に膨大な工数と期間をかけています。会社によっては半年かけて立案している会社もあります。しかし、未来が予測不能、又は予測困難なVUCAの時代に、年次経営計画を詳細に立案することの意味は薄れてきています。年次経営計画は、出発点として年間の大きな目標や方針、施策概要をつくることで十分ではないでしょうか。
逆に、短い期間では予測管理を徹底すべきです。企業の経営環境の不確実性によりますが、日、週、月、四半期タームで複数シナリオによる予測を行い、具体的な施策や実行プランを検討・実施すべきです。
具体的には、直近の経営環境から、KVIの変化を幾つかのパターンで予測し、KVIに影響を受けるKPIを予測していくのです。
予測は、KVIを予測可能な期間をサイクルとします。KPIは、体系化・ネットワーク化されたKPI群として定義します。これらの予測は人間系でもある程度実施できますが、高サイクルで予測を実施していくには計画策定システム・予測システムといったデジタルテクノロジーの活用が必須となります。
なお、KVIのボラティリティの結果の数字に対して各組織がコミットメントしても意味がありません。
前述のシェアのように、管理可能なパフォーマンス指標となりうるKPIに対して各組織がコミットメントし、それをコントロールしていきます。脱予算管理と呼ばれる手法は、これと同様な考え方に基づくものです。
【図3】シナリオ別予測管理の強化
ボラティリティをどうマネジメントするか
ボラティリティの高い環境要因(KVI)の変化は常に監視していく必要があります。また、KPIも変化しますので、常に目標値や閾値とのブレを監視する必要があります。
経営陣は、先程のように年次経営計画の策定に膨大な工数を割くのではなく、こうした戦略的な不確実性の管理に全ての精力を注ぎ込むべきと言えます。
ボラティリティが高い場合、変化の最先端に権限を委譲することが重要です。ボラティリティに応じたトライ&エラーを変化の最先端の現場で繰り返す自律分散型経営を目指すことも一つです。
また、こうしたKVIやKPIの監視を行う専門組織をつくることも有効です。その組織が常に異常値を見つけ出し、どのシナリオで対応しなければいけないかを実行部門と決定します。また、想定以上の異常値の場合、原因を特定し、対応策を実行部門と協議しながら決定、実行に移していきます。
変化に応じてシナリオを切り替えていくことも重要です。ボラティリティへの対応は、変化することが常態になります。変更は悪ではなく、朝令暮改は変化への適応であり当然のこと、変化を新しいこととしてポジティブに捉えていくようなマインドチェンジも必要です。
今回は、「VUCA時代における経営=シナリオ経営のポイント」をご紹介しました。
シナリオ経営の詳細についてご興味のある方は、是非お問い合わせください。
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