CCC改革による資本効率の向上
~差別化とコストリーダーシップの同時達成で『稼ぐ力』を取り戻す~

益々高まるCCC改革の必要性

2014年8月伊藤レポートでROE(株主資本利益率)8%が謳われてから8年近くなります。東証一部ベースのROEは一時8%台だったものの、最近では下回っており、日本企業のROE改革はまだまだ道半ばと言えます。

一方で、資本効率向上の改革を実践するための「仕組み」を導入する企業は、着実に増えてきています。例えば、ROEやROIC(投下資本利益率)等の指標を資本効率の経営目標として設定し、これを事業(SBU)や組織単位にブレイクダウンし、現場の活動レベルの施策と紐づけたマネジメントを導入するといった取り組みです。

【図1】RIOICのブレイクダウンとCCC改革の位置付け

資本効率を実際に高めていくには、これらの仕組みを整えるとともに、具体的な資本効率向上活動を推進する必要があります。今回は資本効率向上において、基本的かつ重要施策の一つである「CCC改革」について、その具体的な改革活動のポイントと事例をご紹介します。

CCCとは

CCCとは、Cash Conversion Cycleの略で現金循環日数を指します。具体的には、「売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数」で求めます。CCCが短いということは、事業活動に必要な運転資金の回転速度が速い=「稼ぐ力」が強いということを意味します。

【図2】CCCの考え方

メーカーであれば原材料を仕入れ、生産活動を行い、得意先へ納入し、販売代金を回収する、といった一連の流れが基本ですが、得意先からの売上代金回収前に支払先に仕入代金を払わなければならない場合、その期間分の運転資金が必要になります。一方、支払と回収のタイミングが逆になった場合は、運転資金は不要になり、その資金を新たな投資に回すことも可能となります。

従って、CCC改革、即ちCCCを短くするということは、債権回収を早くする、在庫を持たない、支払を遅くする、といった事業の基本的な機能の強化を意味します。

CCC改革の3つの意義

CCC改革は、一見当たり前のことを行う地道な活動であるものの、この活動の推進には次の3つの本質的な意義があります。

会社全体としての意識変革と行動変革を起こす

CCC改革活動を行うためには、まずトップから現場まで資本効率向上の必要性、CCC改革活動の必要性を認識する必要があります。しかし、多くの日本企業はこれまでP/L中心で事業運営を行っていたため、B/Sやキャッシュフローに対する考えが乏しく、重要性を認識していないことも見受けられます。従って、B/Sやキャッシュフローに対する啓蒙活動や、CCCを業績評価指標に組み込むといったマネジメント制度の見直し等による意識変革を同時に行いながら、行動変革につなげてゆくことが重要です。

【図3】CCCにおける意識と行動の変革

リードタイム短縮を「差別化」と「コストリーダーシップ」につなげる

CCC改革は、企業の活動スピードを上げ、リードタイム(L/T)を短縮することです。顧客からの要望から対応までのリードタイムを短くすることは、顧客価値を高め、差別化につながります。プロセスのリードタイムを短くすることは、モノの滞留をなくし、資本効率を高め、コストを低下させます。従って、リードタイム短縮は、マイケル・ポーターのいう「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」を同時達成する可能性を持っています。従って、単なる改善活動と捉えるのではなく、ビジネス・トランスフォーメーション(BX)の実現手段と位置付けるべきです。

また、多くの企業で在庫削減を掲げていますが、滞留の基準が明確化されておらず、現場で異なる認識がなされていることも見受けられます。例えば、ある流通業では、メーカーで廃番となった商品、一定期間売り上げがない商品、必要量を超えて持った商品を「不要在庫」と定義したところ、店頭在庫の過半数近くがこれに該当してしまったケースなどもありました。

先ずは、事業活動のリードタイム短縮が戦略的重要事項と位置付け、リードタイム短縮の具体的ターゲットとしての「滞留」を明確に定義し、それを見える化・極小化していくことが重要です。

サプライチェーン・バリューチェーンを再構築する

仕入・製造・物流・販売といった企業活動は、一連の流れとして存在しています。従って、例えば在庫削減に取り組む場合、製造リードタイムを短縮する、工程間の仕掛在庫を削減するといった製造部門の改革はもちろんのこと、購買発注ロットを見直す、需要予測精度を上げる、受注から納品までのリードタイムを見直す、売れない商品を統廃合するといった部門横断での取り組みが必須といえます。

更に、見込生産から受注生産に切り替える、売り切り型からサブスクリプション型に変えるといったビジネスモデルの変革まで踏み込んだサプライチェーン・バリューチェーンの再構築を行うことで、大幅なCCCの改善も可能になります。このような活動を行うためには、部門横断でのプロジェクト・検討体制を整えて進めることが重要です。

CCC改革のアプローチ方法

CCC改革のアプローチには、体質改善(営業・生産・購買等の各機能の現場レベルでの改善)と特効薬(財務部門が中心となってファイナンス・スキームを導入)の2つの方法があります。先進企業では、この特効薬の活用(債権の流動化やサプライヤー・ファイナンス等)を積極的に取り入れ、大きな成果を出すことに成功していますが、特効薬は金利・手数料等のコスト負担も継続するため、キャッシュを生み出す真の体質改善が行われるわけではありません。従って、現場レベルでの活動と合わせて推進していくことが重要です。

【図4】CCCにおける改善アプローチ

CCC改革の推進上のポイント

CCC改革の推進に当たっては、下記のようなポイントに留意して進めていくことが重要です。

(1)全体分析をして重点領域を見極める

全社活動として推進していくためには、すべての領域を現場に任せて進めることは難しいと言えます。主導的立場の本社経理部門がCCCに関する数年分のデータを分析し、重点領域を見極めることが重要です。初期の重点領域は、改善インパクトが大きい(金額、日数等)、改善可能性が高い、実行難易度が低いといった観点から見極めていきます。

(2)本社が現場に入り込み実行を支援する

CCC改革施策を立案し、実行計画を立て、それを実行していく各局面では、本社経理部門が現場に入り込み、成功事例をベースに各現場で自走するための「型」を作り、横展開することが重要です。

そのためには、本社経理部門が改善余地(ポテンシャル)を具体的に算出し、目標を設定します。例えば、債権であれば、契約回収条件や標準回収条件を超えている債権を洗い出し、それぞれについて目標改善率を設定していきます。

次に、それらの改革を実行していくためには、現場の実行計画まで落とし込むことが必要です。前述の債権の例で言えば、得意先との力関係から交渉の優先順位を設定し、交渉担当者・交渉タイミングを明確化、得意先との交渉シナリオの落し込みまで行います。

以上のように本社経理部門が現場レベルまで入り込み、現場を巻き込みながら自走化へ誘導していきます。

(3)部門横断的なプロジェクト推進体制の構築

CCC改革活動は、部門横断で意識改革を伴う活動であるため、CFO自らが主導するプロジェクト体制づくりが重要です。

本来なら、CFOの横串組織を作り、そこが定常的にCCC改革を推進することが望ましいですが、プロジェクト組織を作ってCFOの直接指揮下にあるメンバーを現場に送り込んで進めることもできます。また、プロジェクトの中にタスクフォースを組成し、定量分析や具体的な施策の検討を直接支援することでCCC活動を強力に進めることが重要です。

【図5】CCC改革プロジェクトの体制

小売業でのCCC改革

ある小売業では、これまで店舗数を拡大し、売上・利益拡大を目標としてきましたが、新中期経営計画で資本効率を新たな経営目標として掲げました。重点施策として店舗在庫回転の適正化を進めていこうとしましたが、商品部門・店舗では日々のオペレーションに忙殺され、在庫分析もままならない状況にありました。
そこで弊社が、先ずは数十万のアイテムの単品別在庫分析をし、滞留品・過剰在庫を特定、多くの滞留在庫を抱える部門の業務を横断的に分析して、発注方式・需要予測方法の見直しを実施しました。
また、最適在庫を維持するための業務ルールとシステム改修を行い、在庫の半減と適正水準を維持する業務オペレーションの確立を実現しました。

以上のようにCCC改革は、短期的に実現できるものでも、容易に実現できるものでもありません。成功に導くためには地道な改革活動を繰り返し、現場にCCC改革の必要性を腹落ちさせることが必要になります。また、このためには経営トップやCFO自らが旗振り役となって進めることが重要です。
CCC改革の詳細については、是非、お問い合わせください。皆様と一緒に日本企業の稼ぐ力を取り戻したいと思っております。

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この記事の執筆者

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