【第35回】つまるところ会計システム刷新の成功の秘訣は何だったのか
◆この記事の要約
本記事では、会計システム刷新を成功に導くための秘訣を、シリーズ全体の総括として解説します。老朽化した会計システムを単に更新するのではなく、経理財務部門の中長期的な目指す姿、グランドデザイン、Fit to Standard、標準機能の理解、導入方法論を踏まえ、経営に資する情報システムへ変革する視点が重要です。
- 会計システム刷新は、老朽化対応にとどめず、経理財務部門をFP&A機能を備えた戦略参謀組織へ変革するプロジェクトとして位置付けることが重要です。
- プロジェクト初期に、経営・業務・システムの観点から中長期的な目指す姿、実現したい要件、ロードマップを含むグランドデザインを描く必要があります。
- ERPや会計パッケージは、アドオン・カスタマイズを最小限に抑え、標準機能に業務を合わせるFit to Standardで導入することが成功のポイントです。
- 経理財務部門がERPや会計パッケージの標準機能、RFI、PoC、CRP、ウォーターフォール型の導入プロセスを理解し、ユーザー主体でプロジェクトを推進することが不可欠です。
こうした背景から、レイヤーズ・コンサルティングでは、ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新」のキホンのキとして、34回にわたって会計システムの刷新の秘訣をご紹介してきました。
そこで今回は、シリーズ全体を通した総括として、特に重要な会計システム刷新における成功の秘訣をまとめてご紹介します。
会計システム刷新の成功の秘訣は何か?
ERPや会計システムパッケージによる「会計システム刷新」のキホンのキとして、様々な観点から会計システムの刷新の秘訣をご紹介してきました。
今回はその中でも特に重要な5つの秘訣をご紹介して、本シリーズのまとめとします。
成功の秘訣
① 中長期的な目指す姿を実現するプロジェクトにする
② プロジェクトのグランドデザインを描き切る
③ ERPや会計パッケージはFit to Standardで導入する
④ 早い段階からERPや会計パッケージの標準機能を理解する
⑤ システム導入の方法論を理解してプロジェクトを進める
成功の秘訣① 中長期的な目指す姿を実現するプロジェクトにする
会計システム刷新を進めようとする場合、会計システムに関する部分だけでの検討では、何を実現したいのか、経営効果はどうなのかが不明瞭なケースも少なくありません。こうした目的や効果が説明できないため、会計システム刷新を経営層に説得できず、ずるずると既存システムを使い続けている会社もよく見受けられます。
特に昨今では、経理財務部門はFP&A(Financial Planning & Analysis)機能を拡充し、戦略参謀組織へと変身することが求められています。
会計システム刷新プロジェクトを単なるシステムプロジェクトにせず、中長期的な経理財務部門の目指す姿を実現するプロジェクトにしなければいけません。
しかし、多くの刷新プロジェクトは、発端が会計システムの老朽化であるため、目先の改善に終始することが多いようです。また、老朽化更新の場合、今も業務が回ってはいるのだからということで、刷新する理由が経理財務部門側にはあまりありません。
これでは、会計システム刷新の必要性を経営層に理解してもらえませんし、参加する経理財務部門のメンバーのモチベーションも上がりません。
会計システム刷新をチャンスととらえ、「経理財務部門を経営が求める姿に大きく変革するプロジェクト」として位置付けることが重要です。
成功の秘訣② プロジェクトのグランドデザインを描き切る
会計システム刷新においては、変革テーマがシステム面、業務面にスポットライトが当たりがちです。
しかし、前述のように経理財務部門は、大きく役割を変えていくことが求められています。特に、単なる一つの会社の経理財務部門ではなく、グループ全体として最適な経理財務部門はどんな姿か、そのためには何を変革すればいいのかが求められています。
会計システム刷新にあたっては、変革にむけた経理財務部門の大きな絵「グランドデザイン」を描くことから、先ず始めなくてはいけません。
グランドデザインとは
グランドデザインとしては、一般的に経理財務部門の中長期的な目指す姿(経営・業務・システム)、一定のゴール(3年~5年)で実現したい要件、そこまでに何をすべきかとその時間軸(ロードマップ)などを描き、会計システム刷新はそれらを実現するための手段(HOW)として位置付けられます。
グランドデザインは、プロジェクトの初期段階で、「経営」「業務」「システム」という三つの観点から策定することが重要です。
- 経営の観点
会計システム刷新を契機に、経営に対して経理財務部門がどのような価値を提供するか - 業務の観点
経理財務部門が今後どのような役割を果たし、どのような業務を優先するか - システムの観点
経理財務部門の領域において、どのようなシステムの将来像、DX像にするのか
これら三つの観点は互いに密接に連携しており、それらがどう関連して将来像の実現につながっていくのかを明確化して、羅針盤となるグランドデザインを最初にしっかりと描くことが、会計システム刷新と言う航海の成功を左右します。
今後を担う若手メンバーの参画
会計システム刷新プロジェクトでは、10年後20年後の経理財務部門を支える若手メンバーを選抜して、プロジェクトを組成することが重要です。若手メンバーが、次の時代の経理財務部門はどうあるべきかを議論し、自らの手でグランドデザインを描いて具体化していくのです。
例えば、ある会社の経理部門では、若手の離職が問題になっていました。計算・集計だけの事務作業を数年やることは、若手にはキャリア形成にならないと映ったからです。そこで、CFO自らが「業界随一のグローバルCFO組織となる」をビジョンに掲げ、「計算屋からの脱却」を合言葉に経理部門のミッションを見直し、若手の経理部メンバーを巻き込みながら、会計システム刷新を実施しました。その結果、若手が変革の伝道師となり、他の部門の改革も支援できるようになり、モチベーションも大変向上しました。
【図1】グランドデザインの三つの観点
このように、会計システム刷新を次の世代の育成の場としてうまく活かしていくことが、経理財務部門を大きく変革する土台をつくることになります。
成功の秘訣③ ERPや会計パッケージはFit to Standardで導入する
アドオン・カスタマイズの弊害
2000年前後に多くの企業で会計システムの刷新が行われました。しかし、当時の会計システム刷新は業務の効率化を主体とした側面が非常に強く、また当時ERPや会計パッケージの機能不足から、これを自社の独自開発(アドオン開発やカスタマイズ開発)で補うことが一般的でした。
アドオン開発やカスタマイズ開発は、システムの業務カバー範囲を広めて業務効率性を高められる一方、これらが多くなるほど、開発段階のみならず、システム稼働後にも様々な弊害が生じました。
【図2】アドオン・カスタマイズの弊害
Fit to Standardによる導入
2000年前後で導入した企業では、こうした弊害に悩み苦しみ、いつまでも会計システムを刷新できないことも少なくありません。そこで昨今ではこうした弊害を取り除くため、ERPや会計パッケージの標準機能を活用する「Fit to Standard」が推奨されています。
Fit to Standardは、ERP・会計パッケージに組み込まれた標準機能に対して、業務を合わせる手法です。Fit to Standardでは、どのように業務を標準機能に合わせるかがポイントになり、アドオン・カスタマイズを最小限に抑えられるうえ、おのずと全体最適化がなされ効果的な導入が可能となります。
Fit to Standardは業務改革が前提
ERPや会計パッケージの標準機能で実現できないGAPについては、業務改革によって業務を変更する必要があります。しかし、こうした業務改革は長年馴染んだ業務を変えることであり、短期的には効率を阻害することもあり中々踏み切れません。また、こうした業務の変更は、関連部門ユーザーから抵抗が出ることも少なくありません。
しかし、経理財務部門の目指す姿を実現するためには、こうした業務改革を避けて通るわけにはいきません。目指す姿を実現するために、経理財務部門ユーザーや関連部門ユーザーに対し、業務を変えることがなぜ必要なのか、業務を変えないとどんな不都合があるか、将来的にどのようなメリットがでるか、などについて、理をもって説明していくことが重要です。
また、業務改革は経理財務部門だけでなく、経営層や他部門も巻き込んで行う必要があるため、業務改革を専門的に実施する推進体制が必要になってきます。レイヤーズでは、この業務改革をおこなっていく組織を、独立した組織やチームとして組織化することを推奨しています。
成功の秘訣④ 早い段階からERPや会計パッケージ標準機能を理解する
ERPや会計パッケージの標準機能を理解する
Fit to Standardを実践するうえで大切なことは、ERPや会計パッケージの標準機能を早い段階から理解することが必要です。ERPや会計パッケージ導入にあたっては、ユーザー部門、情報システム部門、ITベンダーがプロジェクト参画することが一般的です。しかし、ユーザー部門は業務要件検討に注力するあまり、ERPや会計パッケージの標準機能の理解を後回しにして、自らの業務要件をどのように新システムで実現するかを情報システム部門やITベンダーに丸投げにしがちです。
Fit to Standardを実現するうえでは、情報システム部門のみならず、ユーザー部門もERPや会計パッケージの標準機能を理解し、ERPや会計パッケージに組み込まれた標準機能を使い倒して、どのように現行業務を効率的に推進するかを検討することが重要です。
ERPや会計パッケージの標準機能の理解には、この「会計システム刷新」シリーズをご活用ください。
本シリーズは、レイヤーズが長年のコンサルティング実績に基づき、体系的に解説したものです。ある意味、会計システム刷新の教科書とも言えます。会計システムの刷新を考えている方々は、先ずはこのシリーズをお読みください。
ERPや会計パッケージのスペシャリストの早期参画
ITベンダーに対して、単に業務要件を伝えるだけでなく、業務要件の意図(会計方針・会計慣行・会計処理など)を理解してもらい、ERPや会計パッケージのスペシャリストの視点から、ユーザー部門とIT部門の検討に参加してもらうことも重要です。しかし、昨今ではITベンダーが業務改革をユーザー側に一任することが多いため、我々のような業務とシステムに精通したコンサルタントが参画し、標準機能をユーザーに分かりやすく解説し、業務改革につなげていくケースが増えています。標準機能の理解には、こうしたコンサルタントの活用も一つの選択肢です。
Fit to Standardの早期検証
Fit to Standardを実現するためには、それらの持つ標準機能の見極めを早い段階から行うことが重要です。早期検証では、検討企業側とベンダー側双方で、それなりの時間とメンバーが必要になります。想定する業務をERPや会計パッケージの標準機能で実現できるかどうかを議論するため、一日二日ではできません。具体的には、システム要件定義で行う実機検証(PoC、CRP)を前倒しして、限定的に行うイメージです。
早期検証を行うためには、その前にある程度候補となるERPや会計パッケージを絞り込んでおくことが必要です。この絞り込みを行うために、RFI(Request For Information:情報提供依頼書)を作成し、製品概要・導入実績・特有要件への対応事例・導入体制・サポート内容・製品提供形態・価格などの情報を各社から収集します。書面だけで判断できない場合は個別の説明会やデモ等で確認することも必要です。
その後、絞り込まれたERPや会計パッケージについて早期検証を行い、各製品の標準機能での実現範囲や導入ベンダーの実力値(製品知識、Q&A対応等)を把握し、製品・ベンダーを決定します。
【図3】Fit to Standard検証によるプロジェクトの進め方
以前は、業務要件定義後にRFP(提案依頼書)を出して、製品・ベンダーを一気に決めることが一般的でした。しかし、Fit to Standardでの導入をスムーズに行うために、レイヤーズでは、この早期検証を組み込んだプロジェクトの進め方を推奨しています。
成功の秘訣⑤ システム導入の方法論を理解してプロジェクトを進める
ERPや会計パッケージにおいては、ある程度定まった導入プロセスがあります。会計システムを刷新するうえでは、こうした導入プロセスを理解し、プロセスにおける重要ポイントを予め掴んでおくことが必要です。以前は、システム導入は情報システム部門が主導でおこなうことが一般的でしたが、昨今ではユーザー部門が果たす役割も非常に大きくなっています。したがって、会計システム刷新の主管部門である経理財務部門も導入プロセスとそこでのポイントを理解しておくことが重要です。
ウォーターフォール型システム導入
システム導入方法論には、ウォーターフォール型とアジャイル型があります。
会計システム刷新はウォーターフォール型がメインなので、ここではウォーターフォール型の導入手法をご紹介します。
【図4】会計システムの導入プロセス
全体構想策定フェーズとは
会計システム刷新の全体構想(グランドデザイン)策定フェーズでは、一般的に財務経理部門の中長期的な目指す姿、一定のゴール(5年~10年)で実現したい要件、そこまでに何をすべきかとその時間軸(ロードマップ)などを描きます。会計システムは、全体構想を実現するための手段(HOW)として位置付けられます。
業務要件定義フェーズとは
業務要件定義フェーズは、今後目指す新しい業務を具体化し、それを実現するためのシステム化方針を明確化するとともに、導入対象となる製品・サービスと導入ベンダーを選定するフェーズです。
システム要件定義フェーズとは
システム要件定義フェーズは、導入対象となる製品・サービスを前提に、今後目指す新しい業務プロセスを検証しながら、標準機能設定やアドオン要件、インターフェース要件を具体化し、今後のプロジェクトのQCD計画を詳細化するフェーズです。
システム開発フェーズとは
システム開発フェーズでは、システム要件定義できまった要件をシステムとして実装していきます。
業務運用整備フェーズとは
業務運用整備フェーズは、新システム稼働前ならびに新システム稼働後の安定した業務遂行を支えるためのフェーズです。また、業務運用整備フェーズは、基本的にユーザー部門である経理財務部門が主体的に進めます。
移行・展開フェーズ
移行・展開フェーズは、新システムの導入企業・拠点において、旧システムから新システムへシステムを切り替え、新業務での運用を開始するフェーズです。
ユーザー主体でのプロジェクト推進
ユーザーは業務要件を検討するだけで、あとは情報システム部門やベンダーに丸投げするスクラッチ開発の時代は終わりました。実際にシステムを使う業務部門のユーザーが、ERPや会計パッケージの標準機能を理解し、デモや実機検証に主体的に関わり、「自分たちがこのシステムで業務を適切に運用できるようにする」という当事者意識を持つこと、これこそが現場の反発を防ぎ、「動くけれど使われない」システムを生まないための最重要ポイントです。
特に、昨今のクラウドサービスでは、サービスプロバイダーは広く使われる標準機能を充実することがその役割で、そのサービスを上手に使いこなすのはユーザー側の役割であるという考え方が一般的になり、従来型の丸投げはほとんど期待できないのも実情です。
ユーザー部門である経理財務部門は、システム導入方法論を理解し、自ら主体となってプロジェクトを推進していくことが、プロジェクトの成功のためには不可欠です。
まとめ
今回は、シリーズ全体を通した総括として、特に重要な会計システム刷新における成功の秘訣をまとめてご紹介しました。今後の会計システム刷新は、ERPや会計パッケージに限らず、様々なクラウドサービスやAIサービスを活用して「真に経営に資する情報システム」として実現する必要があります。個別のERPや会計パッケージ、クラウドサービスの活用のポイントについて、レイヤーズ・コンサルティングでは多数のご支援実績をもとに、貴社の課題感に合った内容をご紹介することが可能です。是非お気軽にお問い合わせください。


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この記事の執筆者
-
村井 泰三経営管理事業部
バイスマネージングディレクター -
山本 晶代経営管理事業部
ディレクター -
飯田 稜大経営管理事業部
シニアマネージャー
職種別ソリューション









