グローバル経営に求められる生産戦略のポイント

今日の市場環境は、トランプ関税やウクライナ紛争など、急激な環境変化にさらされており、企業は常にリスクを考慮しながらタイムリーにアクションを取ることが必要です。一方で多くの企業では、生産戦略の曖昧さや必要なデータが揃っていないことが原因で、環境変化への柔軟な対応の検討がスピーディーにできず、打ち手のアップデートに時間がかかっています。

そこで本記事では、グローバルで戦う企業が知っておくべき生産戦略のポイントと、意思決定を支えるシステムとデータベースの重要性についてご紹介します。

目指すべき生産戦略の在り方

はじめに、そもそも生産戦略とは何かについてご説明します。
まず、最上位の戦略として経営・事業戦略があります。経営目標としての数値をはじめ、グローバル経営への移行やポートフォリオ経営の推進、将来を見据えた製品・技術ロードマップの見直しなど、経営や事業の方向性を示すものです。そして、これらを生産の面で実現していくための作戦が生産戦略です。

生産戦略にはまず目標があり、それを実現するための構成要素として、どこで、何を、どういう技術を使い、どういう座組みで進めていくのか、といった内容を具体的に決めていきます。例えば、どこで作るべきかについては、拠点の役割や特徴を見ながら、キャパシティ、コスト、各拠点のリスクを考慮して決めていきます。ここでは、それぞれの領域で具体的な考え方や手順、施策を可能な限り定量的な情報に基づいて決定することが重要です。

このように体系立てて生産戦略を整理し、共有化できている企業というのは、実はあまり多くありません。一部のリーダーの頭の中にあるだけで共有化されておらず、なぜこの拠点で作っているのか、という問いに対して関係するメンバーが答えられないというケースがまだまだ多いのが実情です。

【図1】生産戦略の考え方

生産戦略に大きく影響を与える各国の環境

グローバルで戦う企業が生産戦略を立てる際に考慮しなければならないのが、各国の環境です。
具体的にどのような課題があり、どう考えていく必要があるのか、ある医療機器メーカーの事例を用いてご説明します。

中国では、国内経済の停滞と競合の台頭が課題となっています。中国市場での売り上げが急減したことによって中国工場の稼働率が大幅に低下し、加えて競合が台頭してきたことによって中国市場のシェアが減少しており、中国工場の生産戦略の見直しが最優先課題となっています。

ベトナムでは、人手不足が課題となっています。昨今、多くの企業が中国からベトナムへの生産移管を進めており、ベトナムで人の取り合いが起きています。直接作業者は常に不足し、離職率も高止まりしているため、直接作業者のスキルが上がらず品質リスクが高まっています。人が入れ替わる前提でのものづくりをどのように実現するのか、品質を軸とした生産戦略の見直しを進めています。

インドネシアでは、人口が多くターゲットとなる顧客が多いものの、医療分野における国産品優先政策への対応が課題となっています。インドネシアでは、医療分野においては国産品を優先して購入するという政策が取られているため、シェアを獲得するためにはインドネシア国内で生産する必要があります。しかし、いきなり工場を建てるわけにもいないため、EMSなど現地の企業との協力体制を構築するような戦略が必要となります。

インドでは、地場企業の存在感が強くシェアを伸ばしづらいこと、現地調達先の品質や技術力が不十分なため、多くの部材を輸入せざるを得ないことが課題となっています。期待どおりの成長を実現できておらず、全社的な生産戦略の再考が求められています。

【図2】諸外国の主要な環境変動要因

自社を知り、他社を知ることの重要性

ここまでご説明したような各国の環境変化を踏まえ、我々が生産戦略をどのように考え、サポートさせていただいているのかについてご説明します。

まず、自社の実力評価を実施し、そのうえで各市場における競合分析を行います。各市場でのシェアの獲得状況、競合企業の業績、コストの状況等は、打ち手を検討する際の基礎情報になるため、ベンチマーク調査等で明らかにします。次に、自社の実力と市場や競合の状況を踏まえ、目標の再設定を行います。目標が明確になったら、最後に目標に紐づく対策を検討していきます。対策には短期的に実行するものと中期的に実行するものに分かれますので、それぞれ実行計画を立てていきます。

今回は、自社の実力評価と競争力評価について、あるメーカーの事例をもとにご紹介いたします。

【図3】生産戦略の検討順序

【自社の実力評価】

こちらの会社では、まずコスト分析を行いました。
変動費では、数年前に原材料価格の高騰があり、コストダウンが市況の上昇に追いついていない状況となっていました。固定費についても、自動化や生産性改善が思うように進まず、人件費の高騰も相まって増加の一途をたどっていました。このような状況ですので、主力製品の個当たり製造原価においても、全ての原価要素が年々増加しており、厳しい状況であることが分かりました。

【競争力評価】

次に、主力市場である中国において、競合A社との製造原価の比較を行いました。中国市場において長らくトップシェアを誇ってきましたが、その後停滞し、A社に逆転を許してしまっていました。
ベンチマーク調査を行うと、A社のほうが変動費は30%ほど、固定費は15%ほど安いことが分かりました。この調査の中で、中国の競合企業は自動化が進んでいることも判明しました。これまでBCPに力を入れていたこともあり、製造の複線化を進めてきましたが、いつの間にかコスト競争力が落ちていたことが鮮明になりました。

BCPも重要ですが、そもそも競合に打ち勝つことができないのであれば、会社自体で生き残っていくことができません。そのため、生産戦略を大きく見直す必要があるとの結論に至りました。
なお、このような分析を行い、戦略を固めていくためには、製品ごとの原価を正確に捉える必要があります。もし、皆様の会社で標準原価を大括りで計算しているのであれば、注意が必要です。

拠点戦略における日本工場の位置づけ

ここまで各国の状況と海外工場の例を踏まえてご説明しましたが、拠点戦略策定時に最も悩ましいのは、日本工場の位置づけではないでしょうか。唯一無二の技術力で高付加価値製品を生産している会社や、自動化が進んでいる会社であれば悩まないかもしれませんが、多くの企業はそうではないはずです。

先にご紹介したメーカーも例外ではありません。コストダウンを継続して実施してきたため、日本の国内工場にはコスト削減の余地はほとんど残っていませんでした。そのため、日本工場を残し付加価値を拡大していくためには、売上を増やしていく施策が欠かせません。

ここでポイントになるのは、生産側だけでなく事業側と連携を強化することです。なぜなら、売上を増やすには、既存製品の販売強化をはじめ、新製品の立ち上げや他社製品を自社ブランドで販売するといったような、事業側の施策が必要になるからです。また、工場だけにとらわれず、ヘッドクオーターがある日本拠点として海外拠点の様々な機能を一手に担うようなサービスや売上には直結しませんが、環境経営の推進や他社との協業なども施策として考えられます。

いずれにしても、生産戦略を完成させるためには、日本の国内工場の位置づけや役割を明確にし、国内で生産する意味を明確にすることが必要です。

【図4】日本工場の付加価値拡大の方向性

柔軟なSCMを実現する仕組みづくり

急激な環境変化に対応するためには、柔軟に生産をシフトできることが求められますが、これを実現するためには、グローバルでのSCMシステムおよびBOM(部品表)の一元管理が必要となります。こちらについても、あるメーカーの例をもとにご説明します。

この企業の強みは、柔軟にかつ短期間で生産拠点や部品の供給元を変更することができる点にあります。例えば、米中リスクが高まれば中国生産を減らし別のアジアの国に移したり、中国の調達部品を減らし日本のサプライヤーの調達を増やしたりといった具合です。このような生産シフトを短期間で実現できる理由は、システムとデータベースにあります。

多くの企業では、拠点ごとに生産基礎情報としてのBOMといわれる部品表やコード体系が異なったり、各拠点のBOMおよび生産に関わるシステムがバラバラだったりといったことが原因で、部材・部品や工程等のコード体系や管理方法も拠点ごとに異なることが多いと感じます。対してこの企業では、BOMをグローバルで統一することで、全ての拠点でこれらの生産基礎情報が共通化されているので、どこでも同じものを作れる体制を整えています。これにより、米中問題や各地で起きる災害等の環境変化に対して、短期間での生産シフトを可能にしています。

このように、様々なリスクを踏まえた柔軟な生産の実現には、それを支えるシステムやデータベースが必須です。

まとめ

ここまで説明してきたように、生産戦略が曖昧な企業が多いと感じます。生産戦略が明文化され、共有化されていてこそ、環境変化への柔軟な検討ができるようになります。また、その検討の質を高めるには、自社の実力値を確認するデータ、競合と比較するデータ等、様々なデータが必要になります。常に最新の情報を入手しモニタリングしながら、打ち手をアップデートしていくことが重要です。そして、柔軟に打ち手を検討するためには、SCMシステムやBOMを一元管理し、どこでも生産できる仕組み作りが必要です。ここまで記した内容の実現方法や、実現にあたってのお悩みポイントがありましたら、気兼ねなくご相談ください。

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この記事の執筆者

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