しなやかで強靭な会社を創る
~経済動乱期における機動力経営とは~

ウクライナ紛争や台湾有事への懸念など世界の政治・経済は不透明さを増しています。一方で日本では金融緩和を継続しながら景気回復へ向かい、23年5月にはバブル期以来33年ぶりの株高となっています。
 
このように世界的に経済動乱期に移行しつつある中、日本企業はどうすればいいのでしょうか。こうした時こそ、変化に柔軟に対応していく機動力を持った経営が必要になります。
 
今回は、経済動乱期において変化に対応する『機動力経営』のポイントを御紹介します。

機動力経営とは

環境変化を素早くキャッチして素早く動く抜群の『機動力』を獲得するためには、経営資源のフレキシビリティを高めることが必要です。即ち、変化に対する戦略を俊敏に行動に移すための柔軟性をもった体力が必要なのです。

【図1】機動力強化のための重要施策

モノやソフトウェアのフレキシビリティを高めるためには、デジタル化は不可欠です。特に、ソフトウェアを含んだモノが主流になってきている現在では、ソフトウェアファーストな考え方でモノづくりを再構築していかなければ、グローバルで勝てません。しかし、こうした点では、日本企業は大きく出遅れていると言わざるを得ません。

また、人・組織や知・ノウハウのフレキシビリティを高めるためには、最前線に権限を委譲するとともに、共通のパーパスやビジョンを共有していることが重要になります。

ここでは、機動力経営を支える重要施策を5つご紹介します。

マスカスタマイゼーションの推進

今後は、顧客ニーズが多様化・細分化され、その多様化・細分化されたニーズに柔軟に応えることがビジネスの成否を左右します。マスカスタマイゼーションは、こうした多様な顧客ニーズに柔軟に応えながら大量生産をかなえる生産方式です。

【図2】フルカスタマイズとマスカスタマイズ

マスカスタマイゼーションを行うためは、顧客要望と製品仕様の自動連係、設計のデジタル化・自動化、部品の共通化・モジュール化、生産ラインのフレキシブル化などが必要となります。これらは、顧客ニーズを起点に開発プロセス全体を再構築しなければ実現できません。

また、日本企業は仕様や部品の共通化・モジュール化が苦手です。日本の製造業の強みが、いくら「すり合わせ」だからといって、何でもかんでも「すり合わせ」ていては、手間と時間が幾らあっても足りません。伝家の宝刀は、競争優位を生む付加価値部分に活かすべきです。

デジタル・エンジニアリングの徹底

顧客のニーズの多様化に対応するため製品バリエーションを増やすと、当然のことですが試作・実験工程における工数・時間も増えてしまいます。
こうした課題解決のためには、3Dプリンターによる実物試作も有効ですが、CAE(computer-aided engineering:コンピュータ技術を活用して製品の設計や製造の検証を行うこと)の活用による仮想実験の推進が不可欠と言えます。

デジタル試作・デジタル実験などにより、開発リードタイムの劇的な短縮を実現できます。こうした開発リードタイムの短縮は、顧客ニーズの変化に対して柔軟かつスピーディに製品開発を追随(更には先行)させることができるため、競合に対してより顧客価値を高めることを実現します。

【図3】CAEによる開発リードタイムの短縮

ソフトウェアアクティベーションによる顧客価値の創出

アクティベーションとは、ソフトウェアの世界で、ある機能をアクティブ(有効)にすることを言います。
今後のモノは、ハードとソフトが一体化し、その機能の発揮はソフトの部分が多くを占めて行きます。また、開発費も圧倒的にソフトウェア開発の占める割合が高くなって行きます。
オフィスで見かけるデジタル複合機などは、既にソフトウェアの塊です。また、自動車業界もEV化へ突入しており、テスラに代表されるようにソフトウェアファーストなモノづくりになっています。

こうした、ハードとソフトが一体化したモノにおいては、ハードの機能は同じであったとしても、ソフトの機能をアクティベーションすることにより顧客価値を変えていくビジネスが主流になると予想されています。

【図4】ソフトウェアアクティベーションのイメージ

こうしたビジネスモデルでは、顧客ニーズの変化や競合のサービスなどに対して、常にソフトウェアをアップデートし、柔軟に対応することが可能です。

ネットワーク型組織への変革

変化への柔軟に対応するためには、従来のピラミッド型組織ではダメです。
メンバー全員がリーダーとしての役割・意識をもち、お互い自律的かつ積極的な「知の交換」と「協力」を行いながら、変化に対応していく「ネットワーク型組織」での対応が必要となります。

フレデリック・ラルーによって唱えられたティール組織(Teal)がこれに近い組織です。ティール組織は、組織を一つの生命体の様に考えます。そこでは、進化する目的(パーパス)、ホールネス、セルフマネジメントを特徴としています。ボスがいない自律分散型組織とも言えます。代表的な企業としてパタゴニアが有名です。

【図5】フレデリック・ラルーの5つの組織

「形式知」と「暗黙知」のスピーディな継承

組織として柔軟性を確保するためには、組織にある「形式知」と「暗黙知」を組織のメンバー間で正しくスピーディに継承しなければいけません。

【図6】形式知と暗黙知の継承

形式知の継承は、従来は「正しく行うこと」に重点を置いたプロシージャ型が主流でした。しかし、変化の激しい中で試行錯誤を繰り返すことが求められる今日では、目的に照らして一人一人が「正しい事を行う」パーパス型が必要となってきております。

また、製造業では熟練工の勘と経験による「匠の技=暗黙知」の継承は、見て覚える、盗むといった人づてが主流であり、継承までに相当の時間と労力が掛かり、柔軟性に欠けるといった問題がありました。昨今では、こうした「匠の技」をデジタルによるディープラーニングなどのAI技術によって、確実に継承していくことが必要になってきております。

ディープラーニングは、既存の暗黙知を学習することは得意ですが、「新しい知」を生み出すことはまだ十分ではありません。新しい知の創出には、共通体験を通じた共感から生まれると言われますので、こうした知の交換・バトルを組織に内在化することも重要です。

以上のように経済動乱期においては変化に柔軟に対応していく機動力を持った経営を実現することが重要です。これらを実現するためには、デジタル・トランスフォーメーション(DX)と組織変革を同時に進めていく必要があります。
是非皆様と変化に対応する機動力経営を実現したいと思っております。

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