ポスト2027年の基幹システム

ソリューショニングは広い視野で!

多くの企業・団体においてDXの取り組みが進む一方で、柔軟に変化させることが求められる事業構造や組織形態に、システムが対応できず陳腐化してしまいます。
近年の技術的進化(クラウド技術の発展・SaaS製品の充実等)を踏まえても、運用や周辺システムまで見渡したソリューション選定の重要性が増す一方です。

基幹システムの起源は1950年代

基幹システムの起源を探ると、1954年にGE社で初めて導入された世界最初の商用コンピュータ、UNIVAC Ⅰまで遡ることができます。この導入は、最新工場の高度な製造技術に見合った高度な会計システムの確立を目指したもので、その際にはアーサー・アンダーセン社がコンサルティングを担当しました。
アーサー・アンダーセン社は以前からGE社のコンサルティングを担当しており、生産管理、在庫管理、会計管理、経営情報管理を理解していたことが、プロジェクトを成功に導く大きな要素となったと考えられます。それまでパンチカードシステムで進めていた業務を、UNIVAC Ⅰで何ができるか、何ができないかを把握した上で、1~2年の短期間でコンピュータを進められるように変えたGE社とアーサー・アンダーセン社のプロジェクトの成功は、我々の立場から見れば歴史的かつ非常に重要なイベントと言えます。

それ以前まで、コンピュータは米国政府組織及び陸海空軍での使用に限られていましたが、このGE社での会計業務の高度化を目的とした導入を皮切りに、先日日本製鉄社による買収が発表されたUSスチール社などの各民間企業にUNIVAC Ⅰは数十台販売されていきました。

同じ時期に、IBM社がIBM 701を2番目の商用コンピュータとして発表しました。1954年の米国統合参謀本部での気象予測プロジェクトでは、UNIVAC ⅠとIBM 701を比較した結果、磁気テープによる入力を特徴とするUNIVAC Ⅰが採用されました。これは民間企業での事例ではありませんが、システム製品の比較検討・ソリューショニングの起源と言えるでしょう。

【図1】IT技術発展略史

デジタルソリューション全体に着目すべき

1964年のSystem/360発表以後IBM社が圧倒的な中心プレーヤーとなり、また1971年にはインテル社によってマイクロプロセッサが発表され、コンピュータの小型化、パーソナルコンピュータ・オペレーティングシステムの発展が成し遂げられていきます。

製造業における在庫管理や生産管理を担うMRPシステムを起点に、企業活動の各プロセスを取り込みMRPはERPへと発展し、またインターネットの普及により世界中での情報共有が容易になりました。物理サーバを不要にするクラウドサービスの登場、ソフトウェアのSaaS化、そしてアーキテクチャはモノリシックなシステムからマイクロサービス化し、7.5トンと伝わる筐体・UNIVAC Ⅰから始まった加速度的な進化はとどまることを知りません。

現在では、DXというワードが定着し、各部門がDXを企画する企業や団体も増えています。しかし、各部門の使用するデジタルソリューションを情報システム部門が一括で管理することは難しくなっています。基幹システムの再構築に臨む際には、まず現状の基幹システム及び周辺システムの全体像を業務と合わせて把握することが重要です。

日々の運用から把握しておくことが望ましい一方で、海外やグループ会社を含めた継続的な管理は簡単ではなく、現実的には基幹システム再構築のタイミングで詳らかに把握しようとすることが多いです。経営戦略をDX戦略へと落し込み、周辺システムとのAPI連携を前提として基幹システムを中心とした新システムの全体像を描かなければなりません。
元々はメインフレーム1台で始まったデジタルソリューションです。現在では役割を分化したとはいえ、大部分がシステム連携や業務の流れを通して結びつくため、基幹システムの再構築に際して全体を捉える作業をスキップすることはできません。

【図2】必要とされるソリューショニング視点

比較・検討においては中長期視点が必須

今後のビジネス環境の変化や技術の進歩を見据えつつ、システムソリューションの選定を進めることが求められています。しかし、5年先や10年先の事業展開や組織形態は、周辺環境の変化に影響されるため、どんな企業・団体においても不確定な要素が多いのが現状です。
デジタルソリューションの進化も可能性の議論でしかなく、現時点ではスケールを含めて柔軟に変化させられるシステムを構築することが求められます。そのため、業務適合度もコストも標準機能での導入を大前提にまず議論することが重要となります。

「カスタマイズすれば対応できる」「アドオンすれば対応できる」といった考え方には注意が必要で、マイクロサービス化したアーキテクチャが一般化した現在、全てを基幹システムで実現するのではなく、他の個別ソリューションとの組み合わせで目指す結果を実現することが、将来の発展や運用を含めてコスト面でも有利となります。その際にも極力複雑な連携は避けて安定したAPI連携を描くことができるかどうかが重要となります。

かつてはシステムの構築後は「保守」の対象でしたが、現在ではいかに「運用」するかという視点が求められています。新しい技術やソリューションが増えている今、構築ベンダーの導入経験やソリューションベンダーとのコミュニケーションはますます重要性を増しています。パブリッククラウドのマネージドサービスの活用など、運用面で考慮できる選択肢も増えています。
構築時点のコスト・業務適合性・信頼度と併せて、運用局面でのコストや柔軟性・セキュリティも評価軸に加えておけば安心でしょう。

複数のパートナーとの関係性を強固に保持

自前で多くのIT人材を抱えていない限り、デジタルソリューションの構築・運用はともに複数のパートナー企業とのコミュニケーションによって成立します。
システム構築・運用を担うパートナーやソリューションベンダーとの単純なコミュニケーションに限らず、ユーザー間での情報交換を有効に活用することも考えられます。

実際に私が関わっていた製造業のクライアントとのプロジェクトでは、ソリューションベンダー・開発パートナーとタッグを組んで機能開発を検討したり、ユーザー間で要望をすり合わせたうえで、ソリューションベンダーに要求する動きを取っていました。
マイクロサービス化したシステムアーキテクチャを描き、個別業務ごとにデジタルソリューションを導入すれば、その分だけパートナー企業の数は増えていくこととなります。各ソリューションベンダー・構築ベンダーのIT知識と、導入企業・団体各ユーザー部門の業務知識を組み合わせることで、基幹システムを中心としたデジタルソリューションの導入効果を最大化することが求められることとなります。

70年以上前にアーサーアンダーセン社がGE社のパートナーとなり、GE社の業務と世界初の商用コンピュータUNIVAC Ⅰでできることの両方を把握してその業務を描き落とし込んだように、レイヤーズでは、クライアントの経営目的に資するDX戦略を描いたうえで、業務へのソリューション活用の落とし込みを中心に、システム企画・構築・運用各局面でご支援させていただきます。

ソリューショニングの前提は、「自分だけのカスタマイズ」を施すことによって必要機能を満たす形ではなく、多くのビジネスパートナーを巻き込んで「みんなで作った」標準機能を使う形へと変化しました。また、一度作ったものが変わらない価値よりも、日々アップデートされていく価値がはるかに優先されるようになったといえます。

【図3】代表的なシステム構築プロジェクト体制および悩みごと

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この記事の執筆者

  • 越智 啓仁
    越智 啓仁
    DX事業部
    マネージャー

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