業務プロセスのデジタルツインを実現するプロセスマイニング

DX推進はまさに企業の喫緊の課題となっており、皆様も日々取り組まれておられると思います。コロナ禍によって多くの企業でWeb会議をはじめとしたDXツールが導入され、「名目的」なDXは進んできました。
しかし、業務がデジタル化されただけでは真の意味でDXができたとは言えません。デジタル化したデータを経営戦略に活かしビジネスモデルを変革することが求められます。
本日はその助けとなるプロセスマイニングについてご紹介します。

これまでの業務改革プロジェクトの問題点

多くの方がこれまでのビジネス経験の中で一度は自社もしくは他社のプロジェクトに参画された経験がおありではないでしょうか。その時のことを少し思い出すところから始めましょう。
 
恐らく業務改革を推進する外部のコンサルタントが来て、アンケートによる業務調査をまず実施し、その後詳細なヒアリングを実施、そのほか会議体調査やドキュメント調査等々を重ね、3か月後に現状分析の結果が出てきて改善の方向性を検討して最初のフェーズが終了。
 
次のフェーズであるべき業務フローを描き、課題と施策を検討、体制を整えて実行フェーズを実施、外部のコンサルタントはPMOとして推進や進捗をサポートする。細かい違いはあれ、恐らくこのようなプロジェクトの進め方だったのではないでしょうか。

【図1】業務改革プロジェクトの進め方(例)

我々もこのようなやり方を実施してきました。ただし、ここには大きな問題があります。データという「ファクト」に基づいていないという点です。

  • ヒアリングベースで業務を見える化するために網羅性がない
  • 声の大きな人、役職が高い人の意見が取り入れがち
  • アンケートや工数入力システムの数字が正しいとは限らない

また、リバウンドも問題です。業務改革によって一度は整流化した業務が1年もたつと元に戻っているということも珍しいことではありません。特に日本においては例外処理をなんとか人間系で処理してしまうという日本人の適応能力がそうさせてしまっているとも言えます。
しかしこれらが複雑な業務プロセス・属人化した業務を次々と生み出す原因になってしまっています。
 
したがってデータというファクトに基づき業務を変え、変えた業務は二度と元にもどさず維持し続けるそのような仕組みが必要なのです。

プロセスマイニングとは何か

プロセスマイニングとはシステムから出力されたログデータ(イベントログ)をベースに実際の業務プロセスを見える化する手法です。
 
例えば「請求入金管理」という業務があったとします。プロセスは

  1. 商品の発送
  2. 請求書の作成
  3. 請求書の送付
  4. 支払いの受領

というイベントが発生しますが、ERPなどのシステムにはそれぞれのアクティビティに対するイベントログが残っています。このイベントログをつなげることでプロセスを可視化します。
返品等で手戻り等が発生した場合もこれらをログで追っていくことで、プロセスを可視化し、イレギュラーなプロセスも把握することが可能です。

【図2】プロセスマイニングツール celonis画面例

プロセスマイニングには3つの機能があると言われています。
 
1.プロセス発見
イベントログをインプットとしてプロセスを可視化します。実際のログデータ(ファクトデータ)をベースに実施することから、人によるバイアスがかかることもなく、想定していないイレギュラーなプロセスもすべて洗い出すことが可能です。
 
2.適合性評価
理想となるプロセスモデルとプロセスマイニングによって作成された実際のプロセスとを比較し、モデルと現実との適合性を評価します。
 
3.強化
プロセスモデルとイベントログからより適合性の高いモデルを生成します。
 
この3つの機能を駆使し、プロセスを改善、維持、強化していくことになります。

プロセスマイニングは業務プロセスのデジタルツイン!

プロセスマイニングのつくりは非常にシンプルです。
根幹となるイベントデータは3つの要素からできています。

  • 何の業務を実施したか:Activity
  • その業務をいつ実施したか:Time Stamp
  • 何に対して実施したか(一連の業務をつなげるID):CaseID

基本的には受注番号、発注番号、請求書番号といった一連のアクティビティをつなげるキーとなるIDとそれをどの順番でどのアクティビティを実施したかが分かればプロセスとしてつなげることができるというのは何となくイメージが沸くと思います。

【図3】イベントログとプロセス可視化イメージ

イベントログを全て収集し、プロセスを可視化することで、

  • 全体でどのくらいの業務数が発生しているか
  • 手戻り等イレギュラーなケースはどのくらい件数が発生しているのか
  • プロセスのボトルネックはどこにあるのか
  • ボトルネックを解消すればどのくらい業務量が改善されるか
  • アクティビティにどのくらいの時間がかかっているのか

などがデジタルで見える化されるため、改善のポイントが明確になります。まさに業務プロセスのデジタルツインといえるでしょう。
 
さらに個々のアクティビティに対して、実施者、商品、業務依頼部門、顧客、仕入先といった様々な情報を紐づけることでさらに分析を高度化できるようになります。

プロセスマイニングの活用場面

プロセスマイニングはどのような活用場面があるのでしょうか。
業務改革やERP導入プロジェクト等における最初のフェーズで行う現状業務分析がメインになることは間違いないですが、それだけではありません。
そのあとのシステム開発・導入段階やGo Live後にも活用が可能です。

【図4】プロセスマイニング活用場面

①標準化・整流化すべきプロセスの洗出し
属人化等により企業・組織として認識できていなかったブラックボックスとなってしまっているプロセスを発見できる
 
②自動化対象アクティビティの候補抽出
どのプロセスがどのくらいの割合で出現しているのかが一目でわかることで、出現率の高いプロセスや定型業務等の自動化候補を発見できる
 
③作業のパフォーマンス管理
想定以上に時間がかかっている業務や待ちが発生している業務など、ボトルネックになる箇所を発見し、プロセス強化につなげることができる
 
④監査・不正防止
今まで起きていなかったプロセスを検知することで異常な処理が起きていないか監視することができる

プロセスマイニング成功のポイント

ここまでの話を聞くとプロセスマイニングは魔法のツールのように思えるかもしれませんが、現実はそうではありません。
プロセスマイニングは日本に上陸当初、「SAP・OracleをはじめとするERPのテンプレートを持っているので、繋いだだけで業務の課題が見える化できる」という触れ込みでプロモーションされておりました。
 
今でこそFit to StandardでのERP導入が推奨されていますが、日本はまだまだアドオンやERP外でのローカル業務が多く、ERPに繋いだだけではプロセスが見える化できない状況にありました。
また先にも述べた通り人間系で解決してしまっているイレギュラーケースも多いためにシステムのイベントログがとられていないケースが多く存在します。
 
コンサル中心の業務改革に比べて大幅に費用を削減できるどころかPoCを回しても結果が出ない=プロセスマイニングは使えないという評価をした企業も多く存在しました。
 
では、プロセスマイニングは絵に描いた餅なのでしょうか。そんなことはありません。使い方次第で非常に高い効果を得ることができます。プロセスマイニングプロジェクトの成功は以下のポイントがあると考えております。
 
①明確な目的の立案
目的の明確化の第一歩はプロセスマイニングを入れたらすぐにでも何かしらの示唆が出るという考えを捨てることです。明確な目的と対象業務の洗出しを実施することが重要です。
 
②データ品質
イベントログがシステムで取得できていない、CaseIDがつながっていない、Activityが分かりづらいなどデータの品質に問題がある場合が多々あります。取れていないのであればどうやったらそれが取得できるかもしくは代替可能なデータがないか等検討しなくてはなりません。
データ品質が悪いからあきらめる・使わないではなく、プロセスマイニングツールに読み込ませることができるデータを作成することが必要になります。
 
③持続的な改善プロセス
プロセスは生き物です。どんなにシステムを整備しても毎日どこかで新しいプロセスが生まれていると考えたほうが良いでしょう。したがって、プロセスを監視し異常なプロセスが起きていないかを確認しつつける必要があります。
そのためにビジネスプロセスCoEを設置し、改善プロセスを回していくことも重要です。
 
今回はプロセスマイニングという技術の紹介とそれによってできる効果をご紹介しました。
PoCによる実証検証なども随時行っておりますので、ご興味のある方は是非ご連絡ください。

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