リサイクルのビジネスモデル ~PETボトルリサイクルはどのようにビジネスモデルを変遷させてきたか~

日本のPETボトルリサイクルは、実は世界トップレベル。リサイクル率は約85%。欧州や米国を大きく上回る水準です。しかしその成功の裏には、法改正、輸出依存の限界、メーカー主導の新モデルといった、静かで大胆な変化が幾度も起きてきました。
「かつては収益ゼロだったリサイクルが、なぜビジネスとして成立したのか?」
 
そこで今回は、PETボトルリサイクルの30年を3つのフェーズに分けて、成功と再編の舞台裏を紐解きます。変化を捉え、仕組みを変えた者だけが生き残れた──その事実を数字と構造から読み解きます。

日本のPETボトルリサイクルはグローバルトップ

近年、企業活動においてサーキュラーエコノミーの考え方が浸透し、リサイクルビジネスがますます注目されています。本稿では、国内でリサイクルシステムが確立している「PETボトルリサイクル」を取り上げ、市場環境の変化に応じて、どのようにビジネスモデルが進化してきたのかを見ていきます。

日本におけるPETボトルのリサイクル率は毎年約85%と非常に高く、欧州(約40%)や米国(約20%)と比べても圧倒的に優れた水準を誇っています。欧州では、リサイクルよりもPETボトルの使用削減に注力する動きが強まっていますが、日本はリサイクルの仕組みの構築に成功してきました。

では、日本のPETボトルリサイクルは、どのような経緯で確立されたのでしょうか。当初、日本では1L未満の小型PETボトルが自主規制され、飲料容器としての利用は限定的でした。しかし、「容器包装リサイクル法」の制定と自主規制の緩和により、大量のPETボトルが市場に流通するようになります。

大量廃棄に対応するため、いわゆる「受益者負担」の仕組みに基づいてリサイクルシステムが構築されました。通常は、飲料・容器メーカーなどの生産者がリサイクルを担い、消費者が回収を担うとされていますが、実際には自治体や日本容器包装リサイクル協会が中心となり、全国規模の仕組みが整備されていきました。

【図1】国内PETボトルリサイクル率の推移

第1フェーズ:収益性のないビジネスから輸出モデルへの確立

リサイクル初期の段階では、回収されたPETボトルを分別・圧縮し、リサイクル事業者に“お金を払って”引き取ってもらう「逆有償取引」でした。リサイクル事業者は、さらに引き取ったPETボトルを安く売り、2つの収益源により事業が成立していました。リサイクル費用は、飲料・容器メーカーが排出量に応じて負担し、さらに自治体が回収コストを担いました。この段階のPETボトルリサイクル事業は、非常に収益性の低い事業モデルでした。

しかしその後、中国の繊維産業の拡大により、PETボトルをフレーク化した「PETくず」への需要が急増。日本のPETくずは品質が高いため、必要とされる資源へと認識が変わり、逆有償から「有償取引」へと転換されます。

この市場の変化により、輸出が収益源となり、リサイクル事業者や自治体も積極的に輸出販売に取り組むようになります。結果、プレーヤーは「自治体とリサイクル事業者」が主役となり、流通構造が整理されました(日本容器包装リサイクル協会は、入札と事業者管理という中立的な役割に)。その過程で輸出モデルに対応できない企業が経営破綻する等、業界再編が起こりました。

このように、輸出によって収益化が図られ、PETボトルリサイクルが“事業”として成立するようになったのが第1フェーズです。

【図2】輸出モデルへの転換

第2フェーズ:輸出モデルの衰退から国内マテリアルリサイクル需要の拡大

順調だった輸出モデルにも転機が訪れます。2017年以降、中国をはじめとするアジア各国が廃プラスチックの輸入を次々と規制。2021年には、有害廃棄物の国境を超える移動や処分についての国際的な枠組みであるバーゼル条約の改正により、廃プラスチック輸出には輸入国の事前同意が必要となりました。これにより、PETくずの輸出量は急激に減少します。

一方で、環境意識の高まりを背景に、国内での「マテリアルリサイクル」需要が拡大。PETボトルを洗浄・粉砕したフレークやペレットが、食品用トレイ、包装材、繊維などの原料として活用されるようになります。再生PET樹脂の価格上昇と国内需要の増加により、輸出に頼らない“国内循環型”のリサイクルモデルが形成されていきました。

輸出モデルが縮小する中、マテリアルリサイクルの流れに乗る形で国内循環モデルに移行していったのが第2フェーズです。

【図3】国内循環モデルへの転換

第3フェーズ:ボトルtoボトルのイノベーションによる新たなエコシステム構築

現在、飲料メーカーが力を入れているのが「ボトルtoボトル」。使用済みPETボトルから、新たなPETボトルを再生するリサイクル技術です。主に以下の2つの技術があります。

① ケミカルリサイクル:汚れや異物を取り除いた後に化学分解し、新たなPET樹脂を製造。品質を問わず再資源化可能。
② メカニカルリサイクル:高温・減圧処理で汚染物質を除去し、高品質の再生樹脂を生成。

これらの技術革新により、完全なクローズドループの実現が近づいています。飲料メーカーは、近隣自治体と協定を結ぶことで、必要なPETボトルの安定供給と物流効率化を図っており、リサイクルビジネスの主導権も企業側に移りつつあります。結果として、日本容器包装リサイクル協会による入札量は減少。飲料メーカーによる直接確保が進むにつれ、従来のリサイクル事業者の役割も再編が迫られています。

「マテリアルリサイクル」から「ボトルtoボトル」へ技術開発が進むにつれて、リサイクルの流れが変わり、新たなエコシステムを構築しているのが第3フェーズです。

【図4】ボトルtoボトルへの転換

市場環境の変化に応じてビジネスモデルを変革することが生き残りの条件

ここまで、PETボトルリサイクルの進化を3つのフェーズに分けてご紹介しました。重要なのは、市場環境の変化に応じてビジネスモデルを柔軟に見直し、再構築していく姿勢です。
各フェーズにおけるビジネスモデルの収益化・利益化のポイントを以下にまとめます。

▼第1フェーズ:輸出モデルへの転換
PETボトルが有償取引になったことて、新しい顧客となる輸出先の開拓および効率的な物流機能の構築
▼第2フェーズ:マテリアルリサイクル需要の拡大
輸出が急速に萎む中で、新しい顧客としての化学品メーカーの開拓および効率的な物流機能の構築
▼第3フェーズ:ボトルtoボトルのイノベーション
飲料・容器メーカーがPETボトルリサイクルを内製化する中で、飲料・容器メーカーとの連携したエコシステムの構築および新たな技術への投資拡大

今後、リサイクル事業者は「対応する存在」から「仕組みを創る存在」へと役割を進化させる必要があります。社会課題の解決に貢献しつつ、自らも持続的に利益を上げられるエコシステムの構想力と実行力が求められる時代です。

【図5】ビジネスモデルの変遷

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