ROE向上を実現させる全社業務改革とは?

2018年に経済産業省がDXレポートを公表してから約6年、今ではほとんどの企業が当然のようにDX推進を掲げており、コロナ禍における働き方の変化も相まってDX化は着実に進んでいると言えます。
従来のDX化は、「できるところからやっていく」「直接部門や顧客接点業務からやっていく」傾向が強かったものの、昨今においては、「業績向上や企業価値向上のための全社的な改革推進とDX化」を目指す企業が増えてきています。では、ROEなどの資本収益性やPBRなどの成長性(市場評価)の向上に結び付けていくよう、全社的な改革をどのように推し進めればいいのでしょうか。
 
今回は、業績向上や企業価値向上を実現させるための全社業務改革推進のポイントについてご紹介します。

意外と脆い、日本企業の経営基盤

コロナ禍の不調を脱却した多くの企業は、経済成長の後押しも受けて拡大路線に踏み切っています。また、サステナビリティ推進に代表されるように、企業に求められていることもどんどん増えてきています。こうした事業の拡大や新たな役割の推進において、DXを活用しながら取り組みを行っていく、というのが多くの企業がDX戦略として掲げていることでしょう。
しかし、ここで問題になるのが日本企業の経営基盤の脆さです。
例えば、下記のようなことが現場では起きているのではないでしょうか。

  • 顧客ごとのきめ細かな要望に応じた個別対応を取っておりDX化ができない、事業拡大を行うと更なる個別対応が増えてしまい業務量が膨大になる
  • 業務を再定義・再設計しようとしても、そもそも社員が業務を担っておらず派遣の方に任せっぱなし
  • 新たなことに取り組もうとしても、不況下に採用を絞っていた影響で主力となる中堅社員世代が不在

【図1】日本企業の脆い経営基盤

企業の飛躍的な成長や企業価値向上を目論んでいても、実態としてそれらを支える経営基盤は非常に脆弱であり、DX化もままならない状態にあると言えます。
加えて、日本の将来推計人口が減少の一途を辿る中、15~64歳の生産年齢人口は加速的に減少することが見込まれます。
企業価値向上のためには、このような「沼」に溺れている状態から脱却し、強固な基盤を作り直していくことが急務となっています。

全体最適目線で全社業務改革を推進する

ここからは、基盤を作り直す上での3つのポイントについて述べていきます。

1つ目のポイントは、個別最適に陥らず常に全体最適目線で改革を推進することです。
業務改革を行う際、社外や他部署から情報が入ってきたところを出発点とし、その情報の処理業務をどうやって効率化するかに着眼することがあります。しかしそれでは付け焼刃の改善に留まってしまい、根本的な改革にならないことがほとんどです。社外や他部署が送ってくる情報自体を変革したり、その情報を生み出す業務自体を変革したりすることで、初めて全社的な改革効果が創出されます。

【図2】全体最適目線での改革推進

例えば、生産現場に非効率が生じていたとします。小ロット生産によるライン組み替えの手間や、生産数量の頻繁な増減変更に伴う稼働調整対応、生産工程におけるトラブル対応など。このような業務を生産現場の中でどのように効率化していくかには限界があります。なぜなら、その原因のほとんどは生産現場以外に生じているからです。営業が顧客の要求を鵜呑みにしてしまったために、少量・短納期での受注・生産が繰り返されたり、欠品を恐れるばかりに営業が過剰な生産依頼を出してしまったり、仕様定義が曖昧だったり、生産設備を加味していなかったりすることで工程にしわ寄せが来てしまったり、ということが起きているのです。

「顧客の言うことは仕方ない」「他部署の業務には手が出せない」と諦めてしまうのではなく、お互いにWin-Winの関係を築くためにしっかりと議論を積み重ねて、全体最適を踏まえた改革を行うことが重要です。もちろんそのためには、組織横断的にリーダーシップを発揮できるような改革推進体制が肝になります。

社員の“やる気”を引き出す業務を作り上げる

2つ目のポイントは、社員の“やる気”を引き出す、すなわちモチベーションを高めるような業務設計を行うことです。
今行っている仕事を是として、そのやり方をどうにか効率的にできないかと試行錯誤しても、なかなか効果を生み出すことはできません。多くの業務は長い経験の中で改善を重ねてきた賜物であり、これ以上の改善の余地はほとんどないというのが実情です。そのような状況で現場に更なる改善を求めても、「改革疲れ」に陥ってしまいモチベーションの低下を招くだけです。
また、そもそも伝票処理や問い合わせ対応のような業務は、企業に大きな付加価値をもたらすものではなく、そのような業務を行うこと自体が社員のモチベーションを下げてしまいます。

従って、既存業務の工数削減に着目した改革を行うのではなく、本来行うべき付加価値の高い業務に目を向け、高付加価値業務に時間を割くための業務改革を行うことが重要となります。
実際に多くの企業の調査において、付加価値の高い業務を行っている時間が多い社員ほどモチベーションが高く、付加価値の低い業務を行っている時間が多い社員ほどモチベーションが低い、という結果が出ています。

どのような業務がその企業にとって付加価値の高い・低い業務なのかをしっかりと見極め、付加価値の低い業務をなくしていくために、業務の廃止・自動化・外注化などを大胆に推進していくことが重要です。

【図3】社員のやる気を引き出す業務基盤の確立

仕事の選別は数値で冷徹に判断する

3つ目のポイントは、仕事の選別は数値で冷徹に判断するということです。
100円の取引と100万円の取引に、同じ労力をかけるべきでしょうか。答えは自明のように思えますが、企業活動の現場においてはそのようになっていないのが多くの実態です。
会社の成長のきっかけとなった商品ブランド、付き合いの長い取引先、せっかく作った新拠点など、手間を惜しまず労力をかけているものが少なからず存在するのではないでしょうか。

しかし、それらが企業において売上・利益等の観点からどの程度貢献しているのか、数値で客観的に見ていくべきです。実はほとんど売れていなかったり赤字だったりするような商品に過剰な販促キャンペーンを実施している、売上貢献度の低い取引先にも定期的な訪問や過度なサービスを行っている、というような実態があるのです。

また、例えば商品の流動性が低ければ低いほど、滞留在庫管理や余分な保管スペースの確保に手間がかかったり、低頻度で少量生産を行うことにより生産活動が非効率になったりします。
こういったことは、過去からの慣習で売れていた時と同じやり方をずっと繰り返しているため、他の商品や他の取引先と横並びで均質の扱いをし続けているため、という理由で起きてしまいがちです。

もちろん、これから売上拡大を狙っていくような成長過程や休眠顧客の掘り起こし時など、意図的に業務の手間をかけることはあるため、個々の事情は勘案する必要があるものの、改めて定量的に評価を行った上で、企業価値向上に貢献しないような取引とそれに付随する業務に対する取捨選択を行うべきです。

【図4】仕事の選別は数値で冷徹に判断

DXを活用した全社業務改革

最後に、DXを活用した全社業務改革についてお話します。
これまでに述べたように、業務と業務の間や部署と部署の間に生じる無駄をなくしたり、モチベーションの低下につながるような付加価値の低い業務をなくしたりするためには、DXの活用が必須となります。特に全社に渡って改革を行う場合には、基幹システムをどのように構築するかが重要なポイントとなります。

その際、基幹システムを作り込みすぎてしまうと、結局各部署の個別要望を盛り込んだ結果、個別最適の塊になってしまい、業務やデータが分断された非効率なシステムになりかねません。基幹システムはなるべくシンプルなものにして部署間連携を容易にしつつ余計なやり取りを排除し、基幹システムでは補えない様な特殊事情は周辺ツールを組み合わせることによってカバーする、という方法が改革を後押しします。

【図5】DXを活用した全社業務改革

基幹システムをシンプルなものにするためには、業務に合わせたシステムを作る「Fit&Gap」の発想ではなく、システムの標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の発想が重要となります。

今回は、業績向上や企業価値向上を実現させるための全社業務改革推進のポイントについてご紹介しました。詳細については、是非お問い合わせください。

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