なぜ投資は水の泡に?
基幹システム刷新「終盤失速」を防ぐ新常識

◆この記事の要約

基幹システム刷新は「2025年の崖」を迎え避けられない経営テーマですが、現場では稼働直前に「終盤での失速」が頻発しています。本稿では、テスト・データ移行・ユーザー定着という3つの壁と、その根本原因を分析したうえで、失敗を回避し投資効果を最大化する「スパイラルアプローチ」の実践ポイントを解説します。

  • 基幹システム刷新が「終盤失速」する3つの壁
  • スパイラルアプローチによる段階的検証とリスク低減
  • アドオン地獄を防ぐ「餅は餅屋」の最適システム配置
  • 業務とシステムの一枚絵で抜け漏れを防ぎ実践的な検証を
  • 稼働の先、自律的な改革サイクルへ
巨額の投資と多くの時間を費やした基幹システム刷新プロジェクト。しかし、稼働直前になって「テストが終わらない」「現場が使えない」といった問題が噴出し、まさかの稼働延期へ…。このような「終盤での失速」は、決して他人事ではありません。「2025年の崖」に直面した多くの企業が刷新を急ぐ中、プロジェクトの成否は、もはやベンダー選定だけで決まる時代ではないのです。本記事では、計画終盤での手戻りや失敗を防ぎ、投資効果を最大化するための新しいプロジェクトの進め方「スパイラルアプローチ」について、その核心を分かりやすく解説します。

「成功」を阻む、プロジェクト終盤の3つの壁

なぜ、周到に計画したはずのプロジェクトが、最終盤で壁に突き当たってしまうのでしょうか。多くの失敗事例を分析すると、そこには共通する「3つの壁」の存在が浮かび上がってきます。

第一の壁は「テストが終わらない」こと。ERPパッケージの標準機能と、自社の業務に合わせて追加開発したアドオン機能との間で不整合が多発。ユーザー検証の段階で「業務が回らない」という致命的な欠陥が発覚し、修正と再テストの無限ループに陥ります。

第二の壁は「データが移行できない」こと。新システムのデータ構造に合わせて既存のマスタデータを準備する作業が想定以上に難航。データの精度が低いままでは、当然システムは正しく動きません。

そして第三の壁が「ユーザーが使いこなせない」こと。新しい業務プロセスやシステムの操作方法が現場に浸透せず、混乱を招くだけでなく、最悪の場合、出荷停止や操業停止といった事業継続に関わる事態を引き起こします。

【図1】計画通りに稼働できない3つの原因

失敗を回避する「スパイラルアプローチ」という考え方

これらの壁を乗り越えるために、私たちが提唱するのが「スパイラルアプローチ」です。これは、設計から開発、テストまでを一直線に進める従来のウォーターフォール型とは一線を画し、「小さな成功」を螺旋(スパイラル)状に積み重ねながら、段階的に完成度を高めていく考え方です。

まず、プロジェクト全体を小さなサイクルに分割します。そして、サイクルごとに「業務・システム・データ」の整合性を検証し、リスクの高い領域を早期に特定・解決していくのです。このアプローチの利点は、プロジェクト終盤で大きな問題が発覚するのを防げること。まるで、いきなり山頂を目指すのではなく、麓から着実にルートを確認しながら登っていく登山のように、安全かつ確実にゴールへと到達することができます。

【図2】プロジェクトが抱える根深い問題

脱・アドオン地獄!「餅は餅屋」のシステム配置

スパイラルアプローチの初期段階で最も重要なのが、「アドオン地獄」に陥らないためのシステム配置設計です。ERPは確かに強力ですが、万能ではありません。特に、業界特有の商慣習が根強い外部との接点業務や、リアルタイム性が求められる現場管理業務まで、すべてをERPに押し込もうとすると、膨大なアドオン開発が必要となり、保守性や柔軟性を著しく損ないます。

ここで重要なのが「餅は餅屋」の発想です。自社のビジネスを俯瞰し、ERPの標準機能に合わせるべき「中核業務」と、専門の周辺ソリューションや自社開発で競争力を担保すべき「差別化領域」とを冷静に見極めるのです。この最適配置を初期サイクルで検証することで、無理なFit to Standardを避け、賢くパッケージの恩恵を享受することが可能になります。

【図3】アドオンを抑制する最適システム配置のポイント

関係者全員で描く「業務とシステムの一枚絵」

検証フェーズは、まさにオーケストラの指揮のように複雑です。ERP本体、周辺システム、現場のオペレーション、そしてそれらを行き来するデータ。これらすべてが完璧に調和して、初めて業務という名の音楽が奏でられます。

この複雑な検証を抜け漏れなく行うために不可欠なのが、業務フローから現場の手続きまで、関係者全員の動きをタイムラインで可視化した「一枚絵」です。この地図を基に、「どの業務が、どのタイミングで、どのシステムを跨ぐのか」を全員で共有し、リスクの高いポイントから優先的に検証サイクルを回します。初回サイクルでは主要な業務シナリオを、次のサイクルでは例外処理やピーク時の負荷を、といった具合に段階的に検証範囲を広げることで、「確実に動く範囲」を着実に広げていくことができます。

【図4】抜け漏れなき検証を実現する「一枚絵」の重要性

稼働はゴールではない。改革を継続する組織へ

基幹システムの刷新は、稼働がゴールではありません。むしろ、継続的な業務改革のスタートラインです。スパイラルアプローチの最終的な目的は、この改革サイクルを自律的に回せる組織能力を企業にもたらすことにあります。

具体的なステップは以下の通りです。

運用・モニタリング部門の設置: プロジェクトのコアメンバーを中心に、稼働後の業務プロセスを監視・分析する専門チームを立ち上げます。
プロセスの可視化と課題抽出: BPMツールなどを活用して実際の業務データを分析し、ボトルネックや非効率な部分を客観的に特定します。
次期改善テーマの設定と実行:
分析結果に基づき、次の改善スパイラルに向けた具体的なテーマを設定し、継続的な改革を実践します。

この改革サイクルを自社の力だけで回していくには、強力な推進力と、自社を客観視できる第三者の視点が不可欠です。もし、推進体制の構築や知見に少しでも不安をお持ちでしたら、まずは私たちレイヤーズ・コンサルティングが伴走者として、現状の課題整理からご一緒させていただけないでしょうか。

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この記事の執筆者

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