AIが変える人事評価の未来
昨今、各企業は人手不足への対応が急務となっており、「人が辞めない」企業づくりが求められていますが、評価の透明性や公正性の欠如によって人離れが発生するケースが多々見受けられます。そこでAIを人事評価に活用することで評価の透明性や公正性を向上させ、従業員のエンゲージメント向上につなげることが期待できます。ただし、新しいやり方を導入するにあたって、データのプライバシーや従業員の受け入れに関する課題も存在します。そこで今回では、AIによる人事評価のメリットや導入方法、課題への対策を解説し、今後の展望を示したいと思います。
現代に求められる人事評価の難しさ
人事評価に対する不満は社員の離職を招く大きな要因の一つであり、優秀なコア人材が組織を離れてしまえば、企業の成長の鈍化や競争力の低下に直結し、業務の継続性や業績に大きな影響を与える恐れがあります。Adecco Groupが実施した人事評価制度に関する意識調査によれば、勤務先の人事制度に対する不満として、「評価基準が不明確」、「評価者の価値観や経験によってばらつきが出て不公平」といった理由が多数を占めています。そうした人事評価に対する社員の不満を放置すると、従業員の労働意欲・生産性の低下、ひいては離職率の上昇につながってしまいます。
厚生労働省による「令和2年転職者実態調査の概況」によると、自己都合退職者のうち15.8%が「能力・実績が正当に評価されないから」という理由で退職しています。不適切な人事評価による組織分解を防ぐためには、透明性が高く客観的な視点を取り入れた人事評価制度の設定が重要です。
そこで本記事は、新たな人事評価制度の一案としてAIを用いた人事評価制度をご紹介いたします。
【図1】人事評価制度に不満を感じる理由
【図2】“自己都合による離職”の理由別転職者割合
AIが切り開く人事評価の新たな可能性
AIは膨大なデータを解析し、パターンを見出す能力に優れており、企業の人事評価プロセス革新の一助となる可能性を秘めています。以下で代表的な導入事例を2点ご紹介いたします。
1. IBM社
IBM社では“Watson”と呼ばれるAI機能を用いて従業員の業績データやフィードバックを分析し、従業員の強みや改善点を明確にし、個別の成長プランの提案や妥当な給与額の目安算出に活用しています。
2. JCOM
JCOMではコールセンターで働くオペレーターの人事評価を行うため、AIで通話記録を全て要約し、顧客の課題解決に結びついたかの評価を実施し始めています。オペレーター職の人事評価軸に顧客との通話品質が含まれているため、AIによって通話品質の分析精度が向上することで、より定量的かつ公正な評価が期待できます。
上記事例で示したとおり、AIによる人事評価の大きな利点は「客観性の確保」と「透明性の向上」です。従来の評価方法では定性的な項目(勤務態度、規律性、等)に対して主観的な判断やバイアスが入り込みやすく、評価が不公平になることがありましたが、AIを活用することで公正な評価が可能となります。
それによって評価の客観性や効率性が向上することでよりよい人材管理の達成および、従業員のエンゲージメント向上が期待されるため、今後AIを用いた人事評価が主流となることで、企業の成長と従業員の満足度向上が同時に達成されることが期待されます。
AIを活用した人事評価の導入に向けた課題と対策
ここまで将来的な展望をお話ししましたが、AIを活用した人事評価の導入にはいくつかの課題が存在します。まず、データおよび個人のプライバシーとセキュリティの問題です。従業員の個人情報や業績データを扱うため、適切なデータ管理とセキュリティ対策が求められます。そのため、企業はデータの収集、保存、利用に関する明確なポリシーを策定し、従業員に対して透明性を持った説明が必要となります。
次に、従業員の受け入れに関する課題があります。AIによる評価が導入されることで従業員が不安を感じたり、評価の公正性に疑問を持ったりする可能性があります。企業はAIの仕組みや評価基準について十分に説明し、従業員とのコミュニケーションを強化することが重要です。また、従業員がAIを活用した評価を理解し、受け入れるための教育プログラムを提供することも効果的です。
AIを用いた人事評価の導入にあたっては企業、従業員双方での準備が必要であり、一足飛びに流行に飛びつくだけの人事評価制度改革は様々な混乱を招く可能性があります。そのため、まずは自社の人事評価制度を見つめ直し、改善できる部分やヒトの手を介さずに対応できる部分がないかを見つけるところから始めるべきではないでしょうか。
今後の展望
最後のまとめです。AIを活用した人事評価制度の導入を検討する際の大まかなフェーズは
「構想」、「検証」、「実装・運用」の3つに分けられます。
まず構想フェーズでは、現行評価制度の棚卸や(評価基準、プロセス、使用しているツール、従業員からのフィードバック等)、現行評価制度の問題点の整理(従業員からの不満や評価の不公平感、評価基準の曖昧さ等)を行い、現行制度のどの部分が効果的で、どの部分に改善の余地があるのかを明確にします。これにより、AI導入の際に解決すべき課題の明確化および、AI導入の目的・目標の設定を行います。
次に検証フェーズでは、構想フェーズで整理した現行業務や、導入の目的・目標に沿って実務でのAI予測モデルの組み込み箇所を検討し、AI予測結果の活用方法とネクストアクションを設計します。また、定量的な評価軸としてAI導入による価値創出の評価および導入コストを計算します。
最後に実装・運用フェーズでは、AIの導入を行った後、精度の低下や外部環境の変化に対応するために、必要に応じてAIモデルの再学習を行います。なお、各フェーズにおいては人事部門だけでなく、経営層や各部門のリーダー等の意見も取り入れることが重要です。ステークホルダーとの協議を通じて、業務改革やAI導入の必要性に対する理解を深めることで、共通の目標を持つことができます。
上記プロセスを通じ、現行制度の強みと弱みを理解することで、AIを効果的に活用するための基盤を築けます。是非この機会に自社の人事評価制度を見直し、次のステップへ進む準備を整えましょう。
【図3】AI人事評価に向けた改革プロセス
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この記事の執筆者
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吉岡 唯斗DX事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション