サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)
をいかに実現するか
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは何か
日本再興戦略を発端に、日本企業の稼ぐ力を取り戻すために、コーポレートガバナンス改革が官民一体となり進められています。「伊藤レポート1.0」では日本企業にROE(自己資本利益率)8%以上という資本効率の向上を求め、「伊藤レポート2.0」ではPBR(株価純資産倍率)1.0倍以上を目指し、将来期待を高めていく経営が求められました。さらに2022年における「伊藤レポート3.0」と「人材版伊藤レポート2.0」ではサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)や人的資本による価値創造の必要性が求められました。
SXとは、「社会のサステナビリティ」と「企業のサステナビリティ」を同期化させていくために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を行うことです。すなわち、経済価値だけを追及するのではなく、社会価値と経済価値を同時達成することが求められているといえます。これは、行き過ぎた株主資本主義からステークホルダー資本主義へ、資本主義が世界的に転換していることが背景にあります。
【図1】サステナビリティ・トランスフォーメーションとは
しかし、日本企業はSX以前に、経済価値の向上に取り組まなければならないのが実態です。
日本企業の企業価値向上は道半ば
前述のように、伊藤レポートで日本企業は、ROE8%、PBR1倍以上を求められていますが、多くの企業で達成できていません。プライム市場・スタンダード市場において、約半数以上がPBR1.0を割っており、ROE8%未満・PBR1倍未満の企業は約4割近くもあります。
【図2】日本企業のROEとPBR
これでは日本企業が社会価値の向上を謳っても、二宮尊徳のいう「経済なき道徳は寝言である」になってしまいます。日本企業にとってSX達成以前の問題として、先ずは『稼ぐ力』をいかに取り戻すか、つまり経済価値の向上こそが1丁目1番地です。
では、日本企業の稼ぐ力を取り戻すには何から手をつければよいでしょうか。
日本企業のROEが低いのは、利益率が低いから
ROEを売上高利益率(ROS)と総資産回転率、財務レバレッジに分解し欧米企業と比較すると、コロナ禍の影響で急落したこともあり、売上高利益率(ROS)は米国企業の半分というのが実態です。
つまり、日本企業のROEが低いのは主に利益率が低いからといえます。
【図3】日米欧の利益率・総資産回転率・財務レバレッジの比較
それでは、この低利益率の状態からどう抜け出せばよいでしょうか。
価値獲得型の利益イノベーションで利益をつかめ
ビジネスモデルのイノベーションには、「価値創造によるイノベーション」と「価値獲得による利益イノベーション」の2つの道筋があります。
【図4】ビジネスモデルイノベーションの2つの道筋
価値創造によるイノベーションは、顧客へ新たな価値を提案し、提供プロセスを刷新することが必要です。アイデア独創性や技術的な困難性、資金的な制約など、乗り越えるハードルが高過ぎるといった面があります。しかし、価値獲得による利益イノベーションは、新たな利益の『生み方』の導入や収益源の『多様化』によって実現できます。
つまり、業界慣行ともいえる既存の価値獲得から脱して(アタリマエを壊して)、超過的な利益を生み出す価値獲得による利益イノベーションの方が取り組みやすいということです。
価値獲得型の利益イノベーションを実現する2つのアプローチ
価値獲得による利益イノベーションを実現するためには、「顧客接点の拡大・深化」と「課金プレイヤーの拡大」という2つのアプローチがあります。
【図5】価値獲得による利益イノベーション実現の2つのアプローチ
「顧客接点の探索・深化」は、今までタッチしてこなかった顧客との接点(タッチポイント)を見直し、そこを自らの収益源として獲得し、磨き上げることです。例えば、今まであまり価値を生んでいなかった、メンテナンスやカスタマーサポートなどの接点を価値化することです。
「課金プレイヤーの拡大」は、利益を獲得する相手として、従来の顧客以外の業界プレイヤーにも目を向けることです。例えば、電気自動車メーカーのテスラは、温暖化ガス排出枠をカーボンクレジットとしてライバル企業に販売するなど、競合企業と補完し合える関係を見つけています。紀伊国屋書店は、売上・仕入・在庫などの全店舗のデータベースへのアクセス権を出版社に販売するなど、取引先から課金ポイントを拡張する方法を見つけています。
このように、価値獲得による利益イノベーションとして今までの常識を捨て、新たな視点からビジネスを捉え、価値獲得ポイント(今まで価値化していなかったポイント)を見つけてはいかがでしょうか。
社会価値向上のために何をするか
経済価値向上を実現したうえで、次にしなければならないのは社会価値向上への取り組みです。
そのためには、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを同期化するために、企業の理念・パーパス(存在意義)を明確化したうえで、中長期視点から社会的課題に対する自社の重要課題を特定し、重要課題についてどのような時間軸で取り組むか(目指す姿、長期ビジョン)、その達成に向けて具体的な計画・戦略をどのようにするか(経営計画、事業戦略)、計画・戦略を実行するためにどうするか(ガバナンス・マネジメントメカニズム、KGI/KPI、DX)を具体化して取り組むことが重要です。
【図6】価値協創ガイダンス2.0
人的資本で、社会価値と経済価値を同時達成する
最後に、SXを実現するうえで重要なポイントは、人的資本に着目するということです。
社会価値を増大させるためには、まず「社会・環境課題のマイナスを減らすこと」を中心に動き、一時的に経済価値を低減させます。次にそれを補い、社会価値と経済価値の同時達成を実現するには、圧倒的な「イノベーションの創出」が不可欠です。イノベーションは人的資本からしか生まれません。つまり、イノベーションを生み出すためには、それを生み出す「人的資本への投資」が絶対条件なのです。
したがって、今後の経営において人的資本は、経営戦略の一要素ではなく、人的資本そのものが戦略となるのです。これが人的資本経営の本質です。
【図7】経済価値と社会価値を同時実現する人的資本への投資
今までの経営は、アメとムチの経営、ヒエラルキー組織、計画と統制/PDCA、上意下達などによって行われてきました。人的資本経営においては、今までのような経営のパラダイムではいけません。人的資本経営においては、人の価値を最大化しイノベーションを起こすために、パーパス・価値共感型経営、自律型・ネットワーク型組織、走りながら考える/OODA、自分で決めるなどといった経営に変革する必要があります。そういった意味で、日本企業は大きな岐路に立っているともいえます。
今回はSXについて、企業がまずやるべきこととして価値獲得による利益イノベーション、進むべき道として人的資本経営をご紹介しました。詳細については是非お問い合わせください。皆様と一緒に、社会価値と経済価値の同時達成を実現したいと思っております。




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この記事の執筆者
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山本 晶代経営管理事業部
ディレクター -
徳永 大経営管理事業部
シニアマネージャー
職種別ソリューション