法令遵守を経営の一番に据えていますか
~真のコンプライアンス強化とは~
真のコンプライアンス強化のためには、そもそも「法令遵守」を経営の最優先事項(一番、中心、最上位)に位置づける必要があります。そして、「法令遵守」を宣言しただけでは意味がなく、現場まで浸透させることが更に重要となります。
今回は、コンプライアンス事例などを交え、真のコンプライアンス強化に向けての取り組みポイントについてご説明します。特に、「法令遵守」を経営の最優先事項(一番)にすることの重要性についても解説します。
売上・顧客満足vs.法令遵守(コンプライアンス)
下記のような状況の時、皆様はどのような判断をされますか。
【A社の事例】
建物設備の製造・販売・設置をするA社がありました。重要なお客様X社の設備設置の前日に、担当者が病気で対応できなくなりました。お客様X社に状況を説明しましたが、明日絶対に設置してもらわないと困る、と言われてしまいます。納期遅れになる恐れがあり、社内では他の担当者を探して対応することで社内中に連絡が回り、担当者探しに追われました。ようやく実施できる担当者甲氏が見つかりました。
しかし、甲氏はその設備の設置資格を持っていない「無資格者」でした。
さて、皆様はお客様満足を優先するのか。それとも、無資格である以上、絶対に対応させてはいけないと納期遅れにするのか。いかがでしょうか。
A社ではその後の経営会議で議論となり、やはり顧客満足・売上よりも、法令遵守を優先するという結論になりました。
上記の事例からもわかるように、そもそも悪いことをしようと思って法令違反を起こしているというよりも、どうしようもなく仕方なく法令に違反してしまうケースも多いと思います。
ただし、そうはいっても顧客満足を優先し、「無資格者」での対応となると、結局お客様だけではなく、世の中の信頼を失うことになります。従って、法令遵守を何よりも優先する経営の最優先事項に据えることが重要であり、それを全社に向けて発信し浸透していくことがより重要となります。
【図1】企業の存続すら左右する一発アウトのリスク
法令遵守(コンプライアンス)を経営の最優先事項に据えた企業
【B社の事例】
サービス業B社では、社内での判断基準が統一されておらず、現場では顧客満足第一、売上第一、業績向上のためなら!といった風土がありました。新社長交代時においてこの風土を問題視し、社長自ら社内の判断基準を言語化し、社内浸透を図りました。
その判断基準とは以下のとおりであり、法令遵守(コンプライアンス)を最優先事項に据えました。
1)法令遵守(コンプライアンス)
2)社員の健康
3)家族関係
4)社員の成長(従業員満足)
5)顧客満足
6)業績向上
つまり、業績向上のためや顧客満足のために法令違反をしていいとはならないですし、健康を害してまで、また、家族との関係が壊れてしまうようなことがあってまで、業績向上、顧客満足を達成する必要はない、ということを明言したのです。これにより、B社の社員は何か行動をする際にも上記判断基準を考え、常に法令遵守(コンプライアンス)を最優先事項に考え、周りの社員の健康が害されることがないか、家族との関係が壊れることがないか、といったことを考えて判断するようになりました。
勿論その結果、法令違反の件数が激減しました。
ポイントは明確な判断基準を明文化したこと、そして、それを常に事あるごとに社長の口から全社員に発信することによって浸透し、B社の新たな組織風土となっていきました。
逆に、B社以外にも法令遵守(コンプライアンス)を経営の中心に据えた企業も多くありますが、浸透度合いが低く、トップからのメッセージも業績向上が強く言われており、どうしても法令遵守(コンプライアンス)が形式化してしまい、法令違反が発生している企業も多くあります。経営の中心に形式だけの法令遵守(コンプライアンス)を据えても意味がなく、実態がB社のように伴わないと成果は出ません。
【図2】B社の判断基準
コンプライアンス強化は従業員の意識向上
当社は、コンプライアンス強化におきまして、従業員意識(知識・意識・行動)の向上であると認識しており、更に従業員意識(知識・意識・行動)を向上するためには、その前提となる環境・教育・コーチのレベル向上が不可欠と思っております。そして、一番重要なのが土台となる「組織風土」「エンゲージメント」が肝になると考えております。
【図3】「コンプライアンス強化」レイヤーズ・フレームワーク
コンプライアンス強化をしていくためにも、上記構成要素の現状レベルがどうかをしっかりと「視える化」することが重要となります。次に従業員の意識として、以下「知識・意識・行動」3つの実態を調査し、向上していくための施策を実施していきます。
■知識レベル : そもそもルールを知らないことで逸脱することがないのか。
■意識レベル : 意図的に逸脱するマインドがないか、コンプライアンス強化に対しやらされ感がないか。
■行動レベル : 自分自身逸脱したことがないか、周りの人で逸脱している人がいないか。
また、従業員意識向上の前提として、環境、教育、コーチのレベルがどうかも確認していきます。
『環境』としては、そもそもコンプライアンスポリシーが明確となっているのか、各種必要な規程やルール、基準が整備されているのか。チェック機能があるプロセスとなっているのか。
『教育』としては、適切な教育コンテンツが存在し、タイムリーに更新されているか。適時に研修が実施されているか。参加率は十分か。
『コーチ』としては、各現場にコンプライアンス強化のための推進役としてコーチが配置されているか。コーチとしての知識、スキルがあるか。それぞれレベルを確認していきます。
肝は「組織風土」「エンゲージメント」
コンプライアンスはコストではなく、企業価値を構成する資本そのもの(人的資本、社会関係資本など)であり、ESGのGに該当します。コンプライアンス強化への投資は、将来の企業価値向上につながります。コンプライアンス強化の本丸は「組織風土改革」であり、「エンゲージメント向上」であると当社は認識しております。企業の組織風土が、働く従業員の「当たり前」を作り出し、『働き方』『行動』に大きく影響します。よって法令違反をやってもいい、と思わせてしまう背景には「組織風土」が大きく影響しています。
【図4】組織風土の影響
また、「エンゲージメント向上」は必須となります。ある調査において、エンゲージメント指数上位25%の企業は、下位25%の企業に比べ、内部犯行不正は28%も低い結果となりました。他にも欠勤は37%、品質の欠陥は40%、安全に関する事故は48%と低い結果になっています。
【図5】エンゲージメントの不正への影響
組織風土が倫理的である場合、従業員は不正行為に対して強い抵抗感を持ちます。企業が倫理を重視し、正しい行動が評価される風土であれば、従業員は不正行為に対してより高い意識を持ち、それを避ける傾向が強くなります。
また、従業員のエンゲージメントが高い場合、彼らは企業の価値観に共感し、自分自身の行動が企業全体に与える影響を理解しています。このため、高いエンゲージメントは不正行為を防ぐ大きな要因となります。エンゲージメントが高い従業員は、企業の成功を願い、企業の評判や倫理に対して強い責任感を持つ傾向があります。
よって我々は、「組織風土」「エンゲージメント」がコンプライアンス強化の土台であり、肝であると考えております。
現状分析で実態の「視える化」からスタート
最後に、当社がコンプライアンス強化を実施する際の進め方についてご説明していきます。
当たり前ではありますが、まずは『1.現状分析』を実施していきます。
現在の法令遵守の状況を把握することが、次のステップ(改善策の策定)において不可欠となります。
まず、現状の立ち位置を把握するために、全社員の意識調査アンケート(組織風土の実態調査、エンゲージメント調査含む)を、完全秘匿性を担保し実施していきます。意識調査としては、全社共通項目のコンプライアンスポリシー、ハラスメント、勤怠、情報セキュリティといった項目を確認するだけではなく、業務機能固有(営業系、開発系、生産系、管理系等)の法令、社内ルールも確認いたします。
ポイントは各設問に「自由記入欄」を設けて、具体的な事象を把握していきます。契約社員、派遣社員も含めた全従業員を対象に実施していきますし、「自由記入欄」は全件チェックしていきますので、法令遵守の実態をしっかりと「視える化」していきます。
次に、『2.真因分析』を実施します。
現状分析から見えてきた真因仮説を基に、実行可能性を踏まえて施策の方向性を検討し、現場やキーマンとのディスカッションを繰り返し、真因分析を実施していきます。
そして、『3.原因別施策実施』として、各種コンプライアンス強化のための施策を実行していきます。
例えば、人事評価制度の見直し、研修制度の再構築などを実施していきます。
その後、『4.モニタリング』『5.再評価』にて、定期的に改善の進捗をチェックしていきます。
上記『1.現状分析』から『5.再評価』を回していく中で並行して、『6.組織風土改革』を実施していきます。組織風土改革はすぐに成果が出るものではありませんので、長期戦になります。様々な施策を実施してまいりますが、まずは組織としてのあるべき姿を策定→浸透施策を検討→実行していくことが重要となります。
本記事内では、具体的な事例やサービスの中身について記載が不足しておりますので、是非とも一度お打ち合わせをさせていただき、ディスカッションをさせていただければと思います。
【図6】コンプライアンス強化の進め方(例)
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この記事の執筆者
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石井 哲司経営管理事業部
マネージングディレクター
税理士 -
薄井 賢治経営管理事業部
プロフェッショナルディレクター
公認会計士 -
皆本 拓哉経営管理事業部
シニアコンサルタント
職種別ソリューション