「テクノ封建制」から考えるプラットフォームビジネス成功の条件

現代のプラットフォームビジネスは、なぜこれほどまでに強く、ユーザーを惹きつけ続けるのでしょうか。ギリシャの経済学者ヤニス・バルファキスが提唱した「テクノ封建制」という概念は、GAFAMなどの巨大IT企業がデジタル空間の“領主”となり、ユーザーに無意識のうちに「無償労働」や「パーソナルデータ」を差し出させている構造を示します。そこで今回は、「無償労働の収益化」「管理権の掌握」「両面課金」といった視点から、ユーザーが“進んで依存してしまう”プラットフォームの仕組みを解説し、成功するプラットフォームビジネスの本質を紐解きます。

「テクノ封建制」とは何か

「テクノ封建制」とは、ギリシャの経済学者で元財務大臣のヤニス・バルファキスが提唱した概念です。GAFAMに代表されるテック企業が中世ヨーロッパの封建領主のように、デジタル空間という「土地」を支配し、ユーザーや参加企業を「小作農」のようにしたがわせるという現代プラットフォームビジネスの構造を指します。封建制とは、資本主義以前の土地に根ざした主従関係に基づく政治・社会制度です。封建領主は土地を所有し、小作農はその土地で農産物等を生産し、年貢や地代を納めていました。

「テクノ封建制」では、GoogleやAmazon等の巨大テック企業が「領主」となり、ユーザーは「生活を豊かにする」ためにプラットフォームにアクセスし続けます。そして、知らず知らずのうちに「レント(地代・使用料)」を支払い、自発的に無償労働まで提供しています。

本記事では、「テクノ封建制」のプラットフォームビジネスに対する批判的な視点に立脚しつつも、ユーザーが「進んで小作農になる」ほどの魅力とは何か、成功するプラットフォームに共通する条件を考察していきます。

【図1】テクノ封建制

成功の条件①:「感動」の持続的再生産

「感動」をともなう体験は、記憶に強く定着し、思い出すたびに「快感」が再生され、さらなる「感動」へとつながっていきます。このサイクルを「感動」の持続的再生産と呼びます。 プラットフォームビジネスでは、持続的再生産の仕組みを巧みに埋め込むことで、ユーザーを惹きつけ続ける「依存構造」を作ることが成功の鍵となります。

初期のプラットフォームから実装されていた「レコメンデーション機能」はその代表例です。Amazonでは、過去の購買履歴・閲覧履歴やユーザー属性に基づき、関心の高い商品やコンテンツを自動で提案し、Alexaと連携して、定期購入商品をプッシュ通知することで購買体験の連続性を生み出しています。ユーザーのデータが溜まるほど、自分好みのお薦めをしてもらえるので、購買頻度が高まります。

生成AIのChatGPTでは、ユーザーが名前、職業、好みの会話スタイルを設定できる「カスタマイズ機能」や、過去のやり取りや聞きたい情報の傾向を覚え、会話のたびに同じ説明を繰り返す必要がなくなる「メモリ機能」が搭載されています。 使い続けるうちに、自分に最適化された経験が生まれ、ほかのサービスに移ることが難しくなっていくのです。

【図2】「感動」の持続的再生産

成功の条件②:無償労働の収益化

「無償労働の収益化」とは、ユーザーが意識しないまま提供している行動や情報を、プラットフォーマーが経済的価値へと転換するビジネスモデルです。これにより、プラットフォーマーは「ユーザーの行動そのもの」から収益を得ることが可能となります。ユーザーはプラットフォームを使う「小作農」として、プラットフォーマーの提供するサービスに対する対価を支払う代わりに、「領主」にパーソナルデータを無償で提供しています。代表的なパーソナルデータには、属性(年齢・性別)、行動履歴(閲覧履歴・位置情報)、PHR (健康データ・ライフログ)があります。

Instagramでは、ユーザーが写真や動画投稿、タグ付けやコメントなどの無償行為を通じて、ブランド広告やリール広告で収益化しています。Google Mapsでは、ユーザーがレビューや写真を投稿し、ローカル広告や店舗が目立つ位置に表示される「プロモートピン」で課金する仕組みをおこなっています。さらに、地図や位置情報のAPIを有料提供することで、配車アプリ・宅配サービス・ECサイトなど多様な業種で収益化を拡大しています。

なお、個人情報保護法では、個人を識別できる情報(氏名・生年月日・住所など)や、個人識別符号を含む情報(マイナンバー・生体認証データなど)が保護されていますが、法律で明確に「個人情報」として保護される範囲外の個人情報についても、企業にはプライバシー配慮が求められています。

成功の条件③:所有ではなく「管理権」を掌握

プラットフォーマーは、自らコンテンツを保有・制作するのではなく、他者が持つ資産や無償労働の流通を管理することで収益化を図ります。つまり、「何を持っているか」ではなく、「流れをどう握るか」が重要です。「管理権」(使わせる・つなげる・動かす)を握ることによる利点は、以下の3点になります。

1.資産を持たずに拡大できる
U-NEXT(動画配信サービス)は、自社制作をほとんど行わず、視聴・閲覧傾向に基づく独自のレコメンドや、ここでしか見ることのできない限定コンテンツで差別化を図り、2024年末時点で有料契約者数450万ユーザーに達しています。

2. 流通の支配が価値の源泉になる
楽天市場(マーケットプレイス)は、誰が、何を、いつ、どのように購買・利用しているかといった「価値の動き」を把握し、楽天ポイントを軸に異なるサービス間を横断する経済圏を形成することで、流通のハブとしての地位を確立しています。

3. 利用者が増えるほど新規ユーザーを引き付けるネットワーク効果を誘発できる
メルカリ(フリマサービス)は、在庫を持たず、出品者と購買者の取り引きを活性化させることで、「欲しいものが何かある」状態を演出し、新規ユーザー獲得を加速しています。

【図3】リボンモデルに見る流通の管理

成功の条件④:継続的な両面課金

プラットフォーマーは、ユーザー(消費者)だけでなく、プラットフォーム上で価値を提供する企業(生産者・供給者)からも課金する「両面課金」を通じて、安定的な収益を実現しています。 「両面課金」のビジネスモデルは、不動産やM&Aのリアルな仲介ビジネスで見られる「両手取引」と同じです。

YouTubeでは、広告主(動画投稿者)から広告料の一部を取り、視聴者にはPremiumでサブスク課金を促し、ギフティング機能のスーパーチャットでも課金総額の30%を手数料として取得しています。Uber Eatsも、飲食店に成約手数料や広告費を課し、利用者からは配送料やサービス料を受け取っています。

ここまで、「テクノ封建制」の議論をベースにプラットフォームビジネスの成功の要件を見てきました。プラットフォームの成功の本質は、「機能の多さ」ではなく、ユーザーが日常生活の中で無意識にプラットフォームを使い続ける「中毒性」を構造として埋め込む点にあります。これは、BtoCだけでなくBtoBの領域でも同様です。

プラットフォームビジネスに取り組む企業は、いま一度、自社のビジネスモデルに「依存構造」「管理権」「両面課金」などの視点が備わっているかを見直してみてはいかがでしょうか。

【図4】両面課金

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