2026/08/07
AIを活用した需要予測と最新トレンド
この記事の要約
本記事では、AIを活用した需要予測について解説します。需要予測の目的や内部データ・外部要因データ、製造業・小売業の課題を踏まえ、AI需要予測のトレンド、サプライチェーン変革に向けたKPI設定、リアルタイムシミュレーション、S&OP体制の考え方を紹介します。
この記事を読むとわかること
- 需要予測とは将来の需要をデータに基づいて予測すること
- 需要予測の精度に影響する内部データと外部要因データの違い
- 製造業・小売業における需要予測の課題
- AIを活用した需要予測とサプライチェーン変革を進めるポイント
需要予測とは
需要予測とは「将来、どの製品が、いつ、どこで、どれだけ売れるのか」をさまざまなデータを基に予測することです。市場の不確実性が増すVUCA時代において、需要予測の精度は、企業の競争力を左右するといえます。
需要予測の主な目的
なぜ、企業は多大なコストや労力をかけて需要予測に取り組むのでしょうか。主な目的は以下の3つにまとめられます。
1. 最適な生産計画
製造業にとって過剰在庫と欠品(機会損失)を避けることは重要です。需要を上回る生産は、キャッシュフローの悪化、在庫コストの増大、そして製品価値の低下や廃棄ロスに直結します。逆に、需要を下回る生産は、売上機会の損失を招きます。精度の高い需要予測は、生産量を最適化するために重要な要素となります。
2. 調達・物流の最適化
需要予測は、生産計画の起点であると同時に、サプライチェーン上流の調達・物流プロセス全体の効率化にも不可欠です。必要な時に、必要な量の原材料や部品を、最適なコストで調達するための購買計画や、工場から倉庫、そして店舗や顧客への配送ルート・輸送手段・頻度を最適化する物流計画には、精度の高い需要予測が前提となります。
3. 売上機会損失の防止
スーパーの棚に目当ての商品がない、ECサイトで「在庫切れ」の表示を見る。こうした経験は誰しもあるでしょう。このような欠品は、そのまま売上機会の損失になります。加えて、顧客満足度の低下やブランドイメージの毀損につながる可能性があり、看過できません。需要予測に基づき、適切な製品を適切な量だけ適切な場所に配置しておくことは、売上機会の損失を防ぐうえで重要になります。
需要予測に影響を与える主な要因
需要予測の精度は、どれだけ多角的で質の高いデータをインプットできるかに左右されます。これらのデータは、社内に蓄積された「内部データ」と、社外から収集する「外部要因データ」に大別できます。
内部データ(社内実績)
企業の活動を通じて日々蓄積される、最も基本的かつ重要なデータ群です。例えば以下のようなデータがあります。
販売実績
「いつ、どこで、何が、いくつ売れたか」を示すデータです。過去の販売傾向から、トレンド(長期的な傾向)、季節性(特定の季節や曜日の変動)、周期性(景気循環等)を読み解くための基礎となります。
在庫実績
「ある期間、どの商品が、どれくらいの量、どこに存在していたか」を示すデータです。在庫の実績データは、特に「欠品」情報を洗い出すうえで重要です。欠品が発生している期間の販売実績は、実際の需要よりも低く見えてしまうため、欠品期間を考慮せずに分析した場合は、将来の需要の過小評価につながるリスクがあります。
顧客データ
CRM(顧客関係管理)システムなどに蓄積された顧客の属性(年齢、性別、居住地など)や購買履歴を示すデータです。顧客情報と購買履歴から、どのような顧客層が、どのような商品を併せて購入するのか(バスケット分析)等を分析することで、よりパーソナライズされた予測や販促施策につなげられます。
※バスケット分析とは、顧客の購買データを分析し、一緒に購入されやすい商品の組み合わせを発見する手法
価格データ
値引きや特売、クーポン配布といったプロモーション活動が、販売数にどれだけ影響を与えたかを示すデータです。価格弾力性(価格の変動に対して需要がどれだけ変化するか)を分析することで、販促効果を需要予測に織り込むことが可能になります。
外部要因データ(社外からの収集)
自社のコントロール外で発生する、市場全体の需要を変動させる要因です。AIの進化により、これらの多様なデータを統合的に分析することが可能になりつつあります。
天候データ(気温、降水量、湿度など)
エアコンや季節家電、飲料、アイスクリーム、特定のアパレル商材など、天候によって需要が大きく変動する商品は数多く存在します。数週間先の気象予報データを予測モデルに組み込むことで、精度を向上させられる場合があります。
経済指標(GDP、インフレ率、失業率など)、人口統計(年齢構成、世帯数など)
景気の動向は消費者の購買意欲に大きく影響します。特に、自動車や住宅、高額な耐久消費財の需要は、経済指標と強く連動する傾向があります。また、後者の人口統計は、少子高齢化による市場構造の変化、単身世帯の増加による消費単位の小規模化など、中長期的な需要トレンドを把握するために不可欠なデータです。
競合他社の動向(新製品発売、価格戦略など)
競合が大規模なキャンペーンを始めたり、革新的な新製品を投入したりすれば、自社の売上は直接的な影響を受けます。競合のプレスリリースやWebサイトの情報などを定点観測することが重要です。
イベント情報
地域のお祭りやスポーツイベント、テレビ番組やインフルエンサーによる発信、祝日の移動など、突発的・短期的な需要変動(スパイク)を引き起こす要因です。上記のイベント情報をいかに捉えるかが、予測の精度を分ける鍵となります。
需要予測における課題
企業における需要予測の重要性は共通していても、その難しさや課題は業種によって大きく異なります。
製造業における課題
製造業、特に組立メーカーなどでは、部品点数が多く、サプライチェーンがグローバルに広がっているケースも多く、サプライチェーン全体のリードタイムの長さが最大の課題となります。以下に製造業における課題を紹介します。
長期予測の困難さ
原材料の調達から生産、顧客への納品まで数か月から1年以上かかることも珍しくありません。その場合、かなり先の未来を予測する必要があり、長期間であればあるほど、需要予測の不確実性が高まります。予測が外れた場合、大量の部品在庫や完成品在庫を抱えることになるという難しさがあります。
SKU(Stock Keeping Unit)の増加
昨今、顧客のニーズに柔軟に応えるため、製品のバリエーションは増え続ける一方です。多品種少量生産が進みSKUが多くなると、それぞれのSKUにカスタマイズした予測が必要になり、予測が困難になります。
部品メーカー特有の構造的課題
部品メーカーの場合は、OEMメーカーが取引の主体となり、エンドユーザーの情報を取得できないため、需要予測が難しいという課題があります。
小売業における課題
小売業では、消費者と直接向き合うからこそのトレンドの速さと競争の激しさが予測を難しくしています。以下に小売業における課題を紹介します。
製品ライフサイクルの短命化
アパレルや雑貨、エレクトロニクス製品などでは、新商品が続々と投入され、数週間~数ヶ月で市場から姿を消すことも珍しくありません。なかでも、過去の販売実績がない新製品の需要をどう予測するかは、極めて難しい課題です。
販促効果の見極め
特売やポイント増量キャンペーンは、確かに売上を押し上げますが、その効果の内訳を正確に把握するのは困難です。競合からの顧客獲得による「純増」なのか、販促による将来の需要の「前倒し」なのかを見誤ると、販促後に欠品や過剰在庫を招いてしまいます。
店舗ごとの多様性
同一チェーンの店舗であっても、立地(オフィス街、住宅街、観光地)や、主な顧客層(会社員、ファミリー、観光客)によって売れ筋商品は全く異なります。全社一律の予測ではなく、店舗ごとの特性を考慮した予測と、それに基づいた在庫配分の最適化が求められます。
AIを活用した需要予測とそのトレンド
上述した複雑な課題を解決する手段として、「AIを活用した需要予測」が急速に普及しています。「AIを活用した需要予測」では、以下のトレンドが生まれていると考えられます。
1. ビジネス意思決定支援・業務の代替が可能
従来の需要予測は、「来月の製品Aの販売数は1,000個になるだろう」といった「予測的分析」の領域に留まっていました。しかし最新のAIツールは、その一歩先へと踏み込んでいます。「AIエージェント」を活用することで、在庫計画・調達計画・生産計画といった、これまで人が担っていた業務から、各部門への指示まで代替できるようになります。これまで人間が工数をかけていた需要予測から計画策定、各部門への指示まで、一貫してAIが代替する可能性があります。
【図1】AIを活用した需要予測
2. 統合型プラットフォームか、特化型ソリューションか
AI需要予測を実現するためのソリューションも、企業のニーズに合わせて多様化しています。自社の課題や予算、組織体制などを総合的に踏まえ、最適なソリューションを選択する戦略的な視点が求められています。
統合型プラットフォーム
需要予測を起点として、生産計画、在庫最適化、需給調整(S&OP)、実行管理まで、サプライチェーン全体の計画業務をシームレスに支援する大規模なシステムです。老朽化した基幹システムからの刷新や、全社的なDX戦略の一環としてSCM全体を抜本的に改革したい大企業などに適しています。
特化型ソリューション
「新製品の需要予測」、「アパレルの廃棄ロス削減」、「特売の効果最大化」といった、特定の業務課題の解決に特化したクラウドベースのSaaSツールなどです。比較的低コストかつ短期間で導入でき、まずはスモールスタートでAIの効果を検証したい、既存システムは活かしつつ特定の弱点を補強したい、といったニーズがある企業にとって有効な選択肢となります。
需要予測の高度化を軸としたサプライチェーン変革
最後に、「高精度な需要予測ツールを導入すれば、すべてが解決するわけではない」ということが重要です。真の成果を得るためには、以下の3つの問いに答えられる必要があります。
1. 目的の明確化:需要予測で何を成し遂げたいのか?
「予測精度を上げたい」というのは、手段が目的化している状態です。まず問うべきは、「なぜ予測精度を上げたいのか?」になります。「欠品率を現在の5%から2%に引き下げる」、「戦略商品の在庫回転日数を10日短縮する」、「廃棄ロスを年間5億円削減する」。このように、具体的で測定可能なビジネス目標(KPI)を明確に設定することが重要です。目的が明確でなければ、ツールの評価や投資対効果の測定もできません。
2. リアルタイムシミュレーション:予測の変化を、アクションプランに変換できるか?
市場の変化に応じて、需要予測は日々刻々と更新されていきます。仮に「予測数量が10%増加した」という情報を受け取った時、その影響を即座にシミュレーションできる仕組みが必要です。 追加需要に応えるために、生産ラインのキャパシティは足りるのか、必要な部品は調達できるのか、倉庫の保管スペースは確保できるのかといった、生産計画や在庫計画への影響をリアルタイムでシミュレーションし、比較検討できる仕組みが不可欠です。Excelのバケツリレーによる計画立案・実行では、需要の変化に対応できません。
3. 組織・体制の変革:計画の変更を、迅速に実行できるか?
シミュレーションの結果、生産計画を変更する必要がある場合に、それを実行に移すことができる組織でなければいけません。多くの企業では、営業部門が持つ販売計画、生産部門が持つ生産計画、調達部門が持つ購買計画がサイロ化(分断)され、利害が対立することさえあります。需要予測という一つの数値を共通言語として、全部門が連携して意思決定を行うプロセス、すなわち S&OP (Sales and Operations Planning) の仕組みと、それを実行する権限を持った組織体制の構築が不可欠です。予測に基づき、日次あるいは週次等で計画を見直し、実行に移すことが必要です。
【図2】需要予測成熟度評価
レイヤーズの需要予測の成熟度評価
レイヤーズ・コンサルティングでは、需要予測やS&OPを起点としたサプライチェーン変革を多数ご支援しております。例えば、需要予測の成熟度評価を以下のLv1~4に分類したうえで評価し、お客様の現在地、課題、課題に対する具体的施策をご提案させていただきます。AI活用やサプライチェーン変革事例等、お客様の課題に合わせたソリューションについてご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。



