2023/01/27

「戦略人事」とは?人的資本経営を進めるための本気の変革

#ヒューマンリソースマネジメント
これからの時代の付加価値の源泉は「人的資本」「人」である。「人的資本」というワードが飛び交う今、企業経営としてどのように「人」に向き合うか。人へ投資して、人財の価値・生産性を高め、企業としての未来の価値をつくっていく。その主導的役割を担う「人事」部門は、今こそ「戦略人事」に本気で変革・変身することが求められています。

戦略人事への変革を進める上で、当社が提唱する「Authentic People Management®」の概念・アプローチについて解説します。

1.「戦略人事」の起源

戦略人事とは、米・ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授が、著書『MBAの人材戦略』で提唱した戦略的人事資源管理(Strategic Human Resources Management)」の略語であるとも言われています。
経営戦略の実現に向け、現状とのギャップを解消するため、人事部を経営パートナーとして位置付け、業務の安定を目指す「守りの人事」から、経営に好影響を与える「攻めの人事」へと移行する必要性を説いています。

2.戦略人事に欠かせない「3Pillarモデル」とは

「3Pillarモデル」とは、戦略人事を語る上でのフレームワークとして、当該領域の専門家集団としてのCoE(Center of Excellence)、戦略的なビジネス変革推進者であるBP(Business Partner)、日常業務のオペレーションを担うOPE(Operational Excellence)で構成する人事組織のあり方を示すものです。
 
アウトソーシングなどでOPEをできるだけスリム化し、CoEとBPへ重心をシフトすることで、従来の “バックオフィスが主” だった人事部を “戦略に携わる組織” に変革すべしと語られます。

①BP

BPとは、Business Partnerの略です。経営・事業戦略を実現する人事戦略の立案・実行を担います。経営・事業・人事全てに精通し、戦略実現に向けた人事課題を特定・設定し、経営者・事業責任者視点で改革を進めていく力が求められます。

②CoE

CoEとは、Center of Excellenceの略です。人事機能の中心として、採用、給与体系の構築、能力開発などの専門家で構成し、全体最適視点で人事制度等の仕組みの最適化を担います。具体的には、評価制度・報酬制度など各制度の構築をはじめ、研修プログラムやトレーニングの開発、人事システムの設計・開発、企業文化や組織の方向性の定義などの組織開発を含む全社的な視点が必要な業務が大半を占めます。

③OPE

OPEとは、Operational Excellenceの略で、日常の人事業務やデータを扱うオペレーションを担います。オペレーションを遂行するだけでなく、最新テクノロジーやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)など戦略的ツールを最大限に活用し、生産性の高いオペレーションへの変革・最適化を継続的に志向していくことが求められます。

3.日本の人事の現状~同質化していませんか

日本の人事部門は、「戦略人事」として機能していると言えるのでしょうか?殆どの企業が「戦略人事」は重要と認識しながら、「我々は戦略人事として機能していない」と自己評価する企業が70%との調査があります。(出典:2021年人事白書)
 
人事の仕事の殆どが「オペレーションの遂行」。人の活力を高めるための仕事よりも秩序を重視し、管理・調整が仕事。人を「個」で見ずに、バルクで見ているだけ。これからは、人への戦略的投資で企業価値を高める時代でありながら、最近流行りのキーワード(人的資本、ジョブ型、キャリア自律…)に安易に飛びつき、踊らされ、どこぞのコンサルのいいなりになって、結局のところ同質化している。
 
人事は流行に振り回されず、本質をついて、自分の考えを貫いて差別化していくということが、ますます重要になっていると考えます。

4.我が社らしい本物の「Authentic People Management®」を創る

当社では「Authentic People Management®」というコンセプトを提唱しています。「Authentic Leadership」という考えを耳にされた方もいらっしゃるかもしれませんが、「真のリーダーはこうあらねばならない」といった型にはめたものではなく、自分の個性に根差した自分らしいリーダー像・リーダーシップの発揮の仕方があって良いという考え方です。つまり、人の数だけリーダーシップのスタイルがあって良いということになります。
 
人事、人財マネジメントにおいても、この考え方がとても重要であり、現実的だと考えています。つまり、人的資本経営へと経営の転換期に臨むのにあたって、画一的な人事・型にはめた制度・仕組みをつくるのではなく、「自社らしさ」を追求した「本物の・独自の」という意味での「Authentic」をつけた、「People Management」を創って実践していくことを推奨しています。
 
その企業独自の「Authentic People Management®」によって、差別化し、競争を勝ち抜くことで、企業価値を高めることが大事だという結論に辿り着きました。「Authentic People Management®」は、「人事の目的」「人事の基本思想」「人事のビジョン・戦略」「人事の体制・メカニズム」「実践」の5要素で、人事に対する考え方、構え方、ふるまい方を考えます。この5要素に一貫性・整合性を持たせて、人事の変革を企図・推進していくことが重要と考えています。

5.「Authentic People Management®」どこから始めるべきか

では、自社らしい人財マネジメントをつくるにはどこから始めるべきか?
 
古びた制度を変える、新たにキャリア自律を進める施策・ツールを入れる…いずれも手段です。我々はまず、人事の目的・基本思想が何かを定めることが出発点と考えます。
 
あなたの会社の“人事”はどういう人事ですか?と聞かれた時に、経営層、事業部、人事部、そして従業員からどんな答えが返ってくるでしょうか?このすべての取り組みの軸となる、我が社の人事の目的・基本思想を「People Management憲章」等といった形で、明文化・言語化すべきです。
 
そして、その「People Management憲章」に沿って、小手先の人事施策のつまみ食い・パッチワークではなく、人事のビジョン・戦略を俯瞰的に練り直していきます。

6.人事のビジョン・戦略のトレンド「両利きの人事」

経営論に「両利きの経営」という概念があります。それは既存事業と新規事業を両手に見立て、左右両手を利き手にするという「二兎を追う」経営論です。
 
人事のビジョン・戦略を立てる上でも、「経営・事業視点」と「個の視点」の「両利きの人事」をどのように行っていくかが肝心です。「経営・事業視点」で「経営・事業戦略に貢献する人事」として、経営戦略と人財戦略をどのように連動させるかを志向する。具体的には、戦略に必要な人財を質・量の両面から定義し、現状とのギャップを埋めるための企業側の意思としての配置転換・リスキル・人財登用を強力に進めていく。これらは、従前から言われている「戦略人事」としての主流のアプローチであり、もちろん十分に機能しているケースは多くはありません。
 
一方、「個の視点」で「個がイキイキする人事」として、個々の人材のスキル・経験の向上や潜在力の発揮を志向する。具体的には、個がイキイキと働き、価値を創出するためには、単に働きやすさを追求するだけではなく、自分自身が何たるかを見つめ直し、自分の軸・パーパス(存在意義・この会社でこの仕事をする意義)を表出し、潜在力をフルに発揮する仕事に従事・挑戦する。これからの新たな「戦略人事」は、人を戦略実現の資源としてバルクで見るのではなく、「個」一人ひとりに興味を持ち、「個」の活力を高めるためにドライブし、サポートしていく、アプローチがますます大事となるでしょう。
 
これら2つの視点について、どちらに軸を置くのか、どちらから手を着けるのか、どのようにバランスをとるのか、といった「両利きの人事」を我が社としてどのように考え取り組んでいくのかを、人事のビジョン・戦略として定め、具体的施策に落とし込むことが重要です。

7.「人事の体制・メカニズム」の再構築

以上のような「人事の目的」「人事の基本思想」「人事のビジョン・戦略」を定めた後は、我が社の「戦略人事」としての体制をどのようにつくっていくかに続きます。
 
冒頭に説明した「3Pillarモデル」の考え方も取り入れながら、「人と組織で勝つ」ための我が社の「人事の体制・メカニズム」を設計・構築します。現状の体制からどのようにシフトしていくかも考えて、人事部門のトランスフォーメーションのロードマップを策定し、中長期で進めていくことが肝要です。

8.まとめ

「人的資本経営」は、人に関わる情報を開示していくことが求められている面で非常に注目されていますが、その目的は持続的な企業価値向上です。企業価値を高めるには、企業としての「未来」の価値をつくっていくことが大事で、我が社の現実、目指す未来、そこに向けた取り組みを一つのストーリーとして繋いで語っていくことで、期待を高めてもらえます。
 
型にはめた、同質化された取り組みを語るだけで、ステークホルダー(投資家・従業員・採用市場等)はワクワクするでしょうか?
 
我が社が考える未来を語り、差別化された「Authentic People Management®」をつくって実践し、ステークホルダーとの対話によって価値共創する。これこそが、人的資本経営における「戦略人事」の本質と考えています。

Authentic People Management®は株式会社レイヤーズ・コンサルティングと株式会社peoplefirstの共同登録商標です

この記事の執筆者

金元 伸太郎
金元 伸太郎
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
取締役
HR事業部 事業部長
ISO 30414 コンサルタント
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