2023/12/12NEW

経営管理とは?具体的な管理項目やシステム活用を解説

#経営管理
「経営管理」という言葉は、非常によく使われる一方、明確な定義はあまり目にしません。一般的には、「意思決定を最適化させるための仕組み全般」を指し、そこには組織体制・業績評価制度、情報の管理なども含んだ非常に広い概念と言えます。一方で、「戦略」という言葉は、より定義が明確にされています。多様な表現があるものの、意味するものは概ね同じで、戦略について書かれた研究も書籍も非常に多く存在します。

これは、「戦略」が企業の競争優位に対して直接的な活動であるのに対し、「経営管理」はその土台・仕組みという間接的な位置づけであったことが挙げられます。

しかし、VUCAと言われるような不確実性が高く将来予測が困難になる中、「経営管理」の重要性は高まる一方です。経営管理の能力が企業の競争優位に大きな差をもたらしているという調査結果もあります。

そこで本記事では、経営管理の目的や必要性、経営管理を強化していくためのポイントについて解説していきます。

1.経営管理とは

経営管理とは、「意思決定を最適化させるための仕組み」とここでは定義します。

意思決定は、企業(全社)、事業、機能の3つのレイヤーに分けることができます。

各レイヤーにおいて適切な意思決定を行っていくためには、意思決定に必要となる情報を適時把握・提供できる体制、意思決定を行うための機関とプロセス、そしてその意思決定の適切な実行に向けた組織体制や業績評価等の仕組み作り、これらの整備が求められます。
そして、それらの効率的な実行を支える情報システムが必要になります。これらの仕組み全般が「経営管理」です。

2.経営管理の必要性

経営管理の必要性や重要性が高まってきている背景には、VUCA(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)と言われる時代になっていることが挙げられます。変化の少ない環境においては、時間をかけて熟考を重ねた精度の高い意思決定を行い、あとはそれを粛々と効率よく確実に実行することが重要になります。一度決めた意思決定の有効性が長期間に及ぶため、その意思決定の質(戦略)こそが競争力に大きな影響を与えていました。
 
一方で、VUCAと言われる変化の激しい環境下では、そうではありません。意思決定の有効性は日々失われていきます。時間をかけて意思決定の精度を高めているうちに、環境が変わってその有効性が失われていきます。
そういった環境においては、日々刻々と生じる変化をいち早く察知し、迅速に意思決定とアクションを行うことが競争優位に繋がります。
 
経営管理能力が高い企業は、そうでない企業よりも、年間成長率・利益率ともに高いという調査結果もありますが、この結果は現在の環境における企業経営に対する我々の実感と一致するのではないでしょうか。

3.非財務情報への対応

さらに、ESGをはじめとした非財務情報含めた説明責任が求められています。これにより、財務的なメリットと非財務のメリットは一般的にはトレードオフ関係になります。非財務的なメリットは資本コストを押し下げるため財務的なメリットを及ぼすということも考えられますが、まだ確立された評価方法があるわけではありません。
経営としては、財務的な影響だけでなく、非財務面での影響を踏まえた高度な意思決定が求められることは今後ますます増えていきます。

そういった意思決定を支えるためにも、経営管理の重要性はより高まっているといえます。

4.多くの企業が直面する経営管理上の課題

経営管理が競争力に大きな影響を及ぼす一方、万全な経営管理を構築できている企業は決して多くありません。特に多くの企業では「データ」と「組織」に課題を抱えています。
 
意思決定に必要なデータを適時・適切に把握できていないケースが非常に多くあります。いわゆる「どんぶり勘定」になっており、全体の収支はわかるのですが、事業・製品の実態としての収益力の把握ができていません。その結果として、採算性の低い製品・得意先を抱え込むことで、頑張ってはいるものの収益力は改善されない、という状態になっています。
 
「選択と集中」と簡単に言われる一方、既存の製品・得意先を絞ることは非常に難しいです。そこには必ず担当者が存在しますし、営業から見ると、販売の機会を失うことは非常に抵抗感があります。選択と集中を実行するためには、製品別・得意先別の損益の把握が欠かせません。それなくしてどんぶり勘定のままでは議論は空中戦になり、絞ることはできません。ダイエットをするのに、まずは体重計に乗るのが第一歩であるのと同じです。
しかし、多くの企業では収支がどんぶり勘定となり、「データ」が経営管理上の課題となっています。
 
もう一つの課題が「組織」です。組織上のどの部分に課題を抱えているかは企業によって様々です。事業の実態と組織が不整合を起こし、エリア横断での意思決定と実行が必要であるにも関わらず、国内と海外で組織構造がわかれていたり、CFO、CIOがグループ全体のシナジーの発揮をさせる必要がある一方で、国内のみで海外は現地子会社任せであったりと、意思決定に応じた権限・責任範囲の設計が行われていないケースが多く存在します。
 
その結果として、課題として議論されるものの、誰も「タマ」を持たない、社長がタマを持つにも限界があって、必要な検討が遅々として進まない、という状況も多く目にします。

5.経営管理構築上のポイント

まずは、企業にとって優先すべき意思決定が何かを明らかにする必要があります。企業経営において選択と集中が重要であるのと同様に、経営管理の構築も総花的に取り組んでいてはいつまでも実現しません。経営環境を踏まえ、どのような意思決定が優先されるのか、事業/製品の選択と集中なのか、新規事業領域の立ち上げなのか、機能のグループ全体最適化・効率化なのか、日々のオペレーションの向上なのか、それらを明確にすることがまずは必要です。
 
次に、必要な情報が何かを特定します。状況の変化・判断をするために必要な情報、意思決定をする際に必要な情報、その実行を評価・モニタリングするために必要な情報を特定します。
 
続いて、それらの情報を必要なタイミングで効率的に把握・評価可能なシステムの構築を行います。データごとに必要になる頻度を評価し、それらを効率的に収集・提供可能なシステムを構築します。
 
そして、優先される意思決定ごとの実行体制を設計します。その中で実行頻度が高く、意思決定者間の高い連携が求められる場合はそれに基づいた組織設計を行い、頻度が低い意思決定に関しては委員会や会議体などの機関を設けることで実行を担保します。
 
ここで重要なのは、すべての意思決定に適した組織設計は無いということを認識することです。組織の形は必ずしも画一的である必要はなく、当然基本の形はあるのですが、意思決定に応じて適宜必要な関係者が関与し、意思決定を行う組織を設計することがポイントになります。

6.まとめ

「経営管理」は、企業の競争力を発揮する上で益々その重要性を増しています。一方で、多くの議論が行われてきた「戦略」と違いこれまであまり重視されてこなかったこともあり、多くの企業が課題を残したままになっています。多くの日本企業は「現場が強い一方で、本社が弱い」といわれる所以もここにあります。
見方を変えれば、まだまだ多くの成長機会が眠っていると言えます。経営管理構築のために意思決定を行う組織を設計し、「現場も強く本社も強い」と言われる企業を目指していきましょう。

この記事の執筆者

杉野 林太郎
杉野 林太郎
株式会社レイヤーズ・コンサルティング
経営管理事業部 兼 ERPイノベーション事業部
ディレクター
公認会計士

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